第65話 『【完結】最高のシナリオ』 かしこまりこさん
〇作品 『【完結】最高のシナリオ』
https://kakuyomu.jp/works/16816452219490310394
〇作者 かしこまりこさん
【作品の状態】
中編。完結済。
【セルフレイティング】
性描写有り。
【作品を見つけた経緯】
かしこさんの作品を読んでいたときに、タイトルに惹かれて読んでみました。
【ざっくりと内容説明】
しずかはオーストラリアの大学に通う大学生。ある日、友人でありルームメイトのルーシーがパーティを開いたのですが、そこに参加していたピエトロと初めて出会います。二人はお酒を飲んだり、マリファナを吸っていたせいでハイになっていたせいか(日本じゃあり得ないシチュエーションに、ちょっとびっくりしました<笑>)、口づけをしながら夜を明かします。
翌日、酔っぱらっていたせいもあって、しずかはピエトロと連絡先を交換しないまま別れてしまったことに気づきます。パーティを主催したルーシーが知っているかもと聞くのですが、彼女も「知らない」そうで……。特別彼を探し出したいわけでもないけれど、また会ってみたい――。
そういう気持ちを抱いていた、一週間後のこと。「The Museum of Particularly Bad Art Exhibition(とりわけ下手なアートの博物館)」という展示会に行った際に思いがけずピエトロと再会し、しずかは少しずつ彼と心を通わせていくのです。
【感想】(ちょっとネタバレあります。お気を付け下さい)
この作品を読み終わって、私の心のなかに湧き出て来た言葉は「ドラマチック」でした。
しずかもピエトロもお互いが惹かれていくので、きっとそのままゴールインするのだと思っていたのですが、どうやらそう簡単にもいかないようで。だからこそ最後の展開に、劇的感があるのでしょう。
二人がどうなってしまうのかは、是非この作品を読んで確かめてみて欲しいなと思います。
読者にドラマチックな気持ちを抱かせる『【完結】最高のシナリオ』ですが、この作品のなかに内包されているのは、「本当の私を見て」ではないかと読んでいて思いました。
主人公「しずか」の語りで話される物語は彼女の視点ではあるのですが、彼女が認める友人や恋人というのは、皆「私を見てほしい」という欲求が少なからずあるように思います。
それは生きている人たちみんなそうなんだと思うんですけど、しずかもルーシーもピエトロも、どこか人として欠けている部分や不安定な部分(周りからの視線や圧力のようなものにより、自分ではそう思っていなくても思わされている部分も含みます)があって、多分そういうところを晒したくない気持ちがある。
「でも、そこもちゃんと見て欲しい。だって、それも私だから」というものが、私は読んでいて感じました。そして自分の欠けている部分を見て欲しい人は、晒したことによって去ってしまわないかとか、嫌われないだろうかということを恐れている相手なんだろうなとも思います。
それでもしずかとルーシーは「友情」で繋がっているためか、関係が上手くいっているようですが、どうも「恋人」であるピエトロとは上手くいきません。
さらにややこしいのは、しずかとピエトロはお互いを好きと思うベクトルは同じ方向に向いているのに、しずかはピエトロを見ているとだんだん嫉妬するんじゃないかと思い始めるのです。それは「自分が持っていないものを持っているから」と感じてしまうから。
恋人と隣に立つためには、お互いが同じレベルでなければならないとしずかは考えているんでしょうね。だから、ピエトロに嫉妬しそうになる。
一方のピエトロは、今の状況がいいからずっとそのままでいようとしてしまう。それは「結婚して欲しい」と言ったら、変わってしまうような気がしているから。(「結婚してあげる」とは言うんですよ。「結婚してあげる」と「結婚して欲しい」は似て非なるものですよね。つまり決定権をしずかに丸投げしているんです。責任を取りたくないというか……結婚することによって生じる諸々について、彼は背負う覚悟がなかったのでしょう)
思うに、二人の間に「ビザが切れるから」とか「仕事を決めないといかない」とかそういう抗えないルールみたいなものがなかったら、離れることはなかったんだろうなと思います。
しかし「好き」という気持ちは一緒でも、人間の世界で生きていくためにはその気持ちだけでは済まないのがこの社会で、社会にある障害(と思われること)も含めて乗り越えていかないといけないんだろうなと読んでいて考えていました。
……ただ、この点については時間が経過し、しずかもピエトロも成長することによってちっぽけな障害に変わってしまうのですが(私個人の印象です)。
二人の複雑な心情が行ったり来たりしてやきもきしますが、最後はタイトルらしく、お互いいい結果になったんじゃないかなと思います。
今日は『【完結】最高のシナリオ』をご紹介しました。
それでは次回、またお会いしましょう。
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