12月 December
第60話 『鉛のカーテン』 柊圭介さん
〇作品 『鉛のカーテン』
https://kakuyomu.jp/works/16816927861486076188
〇作者 柊圭介さん
【作品の状態】
完結済。短編です。
【セルフレイティング】
なし。
【作品を見つけた経緯】
柊さんのプロフィール欄を拝見したときに見つけました。
【ざっくりと内容説明】
ウクライナに軍事侵攻している、ロシア側の夫婦の会話です。
【感想】
『鉛のカーテン』は、ロシアに住む初老の夫婦の食事中に、ロシアから見て西側の国に住む娘から電話がかかってくる場面から始まります。
娘は両親に対して、「ロシアで流れている情報は嘘だ」と言うのですが、夫婦は頑として受け入れません。
そのため、読者はロシア側に都合よく作られたプロパガンダに染まってしまったのだ――と思いますが、お話の後半になると、夫婦が何故そのような態度を取っていたのかその理由が分かり、とても悲しくやるせない気持ちになります。
ウクライナ侵攻が2022年2月に始まって、十ヶ月になろうとしていますが、未だに終わる気配がなく、ロシアはあの手この手を使い戦いを続けています。
私はこの戦いをメディアを通して見ながら、ウクライナの人々はもちろんですが、ロシアの善良な市民も被害者だと思ってみてきました。彼らが「戦争反対!」と訴えても、国が反戦運動をしている人たちを片っ端から捕まえていきます。市民には力はありません。鍛えられた警官に、数で囲い込まれたらそれまでです。
ですから、彼らが自分の身を守るために「沈黙する」することは、やむを得ないことである……とそんな風にも思います。
私はあまり詳しくはありませんが、ロシアとウクライナの間には、歴史的や土地の問題などがあると聞きます。そのため国民の中にでも、それらを解決するために何とかしたいと思っていたところはあるのかもしれません。しかし「戦う」と決めたのは国のトップ。ロシアも、これまでの戦いの歴史で、多くの民を失ってきたはずです。それにもかかわらず「戦う」ことを選択するところに、人間の愚かさを感じます。
誰かの都合によって、捻じ曲げられた思想を押し付けられることが如何に苦痛であるか。
そして、その押し付ける力が強ければ強いほど、抗ったところで一個人では何も出来ないことを、この物語を読むと痛感し悔しくなります。
「傍観者としていることが賢い道」。
そう思ってしまうようなこの戦い。
私たちが異世界転生転移物語の主人公のように、チートスキルを持ってそれらの悪に強く立ち向かえたらいいのですが、そうは行きません。本当に人間一人の力は、大きな力を持った魔物には太刀打ちできないのだと思わされます。
しかしそれでも、希望を持っていたい……。
『鉛のカーテン』の最後の場面。
初老の夫婦が見せた行動は、もしかすると娘にとって辛い場面だったかもしれませんが、一方で立ち向かう勇気と彼らの本当の気持ちが垣間見えた気がしました。
――私たちは、偽りの正義に屈しない。
まるでそう言うかのように。
今日は『鉛のカーテン』をご紹介しました。
それでは次回、またお会いしましょう。
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