第43話 『ブレイク・ザ・エッグ』 石花うめさん
〇作品 『ブレイク・ザ・エッグ』
https://kakuyomu.jp/works/16816927862285634949
〇作者 石花うめさん
【作品の状態】
短編。完結済。
【作品を見つけた経緯】
ある自主企画の企画者の方のレビュー欄に、石花さんの『覆面と彼』という作品があり、それが面白かったので次にタイトルが面白そうだったこちらを拝読いたしました。
【ざっくりと内容説明】
怪しげなお店の名前は「卵屋」。中へ入るとカウンターがあるので食べ物屋かと思うのですが、どうやらそうではないのです。
主人公の「僕」が店の中に入ると、「卵屋」の店主にあるものを勧められるのですが、それは何なのでしょうか。
【注意点】
作者さんはキャッチコピーに「シュレディンガー」と表記してありましたが、以下作者さんの内容を引用する以外では「シュレーディンガー」の表記を採用しております。
「シュレディンガー」のタイトルで実際に出版されている方もいらっしゃるので、単に表記の問題だと思うのですが、私が使用した物理学の書籍には「シュレーディンガー」とありましたのでこの表記に統一した次第です。ご了承下さい。
【感想】
怪しげなお店。名前が「卵屋」。でも、レストランではない――。
これだけで、何だか面白いことが始まりそうな気がしないでしょうか? 私はそう思ったので読み進めてみたのですが、どんどん怪しげなお店の店主の話に引き込まれていきます。
レストランではないなら、何なのか。
このお店は「卵を売っているお店」なのです。しかしただの卵ではありません。
店主はカラフルな卵を前にして、こう言うのです。
——ここは、才能の卵を売っているお店なのです。
客は卵を買ったらそれを孵化させ、卵から生まれた子どもを育てる。そうすることで、元来備わっていた才能が開花され、世に羽ばたくことができるというのです。しかし、絶対にそうなるとは限らない、と店主は言います。
育成する側と才能の卵から生まれた子どももそれ相応の努力をしなければならない――、と。
そのため、ほとんどの卵が殻を破れずに終わるのだというのです。
しかし、それよりも才能を確実に開花させる方法があるというのですが、果たしてそれはどんな方法なのか……。
不思議な話に引き込まれ、まるでここの世界と異世界のはざまにいるような感じがしますが、最後にほっぺたをつねられたように現実に戻って来るところがまたこの作品の良いところのように思います。
——才能とは、シュレディンガーの猫みたいな卵だと思う。
(『ブレイク・ザ・エッグ』キャッチコピーより)
と、キャッチコピーがございましたので、ついでに私が調べた限りでの「シュレーディンガーの猫」のことも下記に述べておこうと思います。
「シュレーディンガーの猫」とは、オーストラリアの物理学者E=シュレーディンガーが考案した量子力学に関する、猫と放射性物質を用いた思考実験のことです。
実験の仕方はこうです。(少々物理学的なお話になりますが、難しいなと思った方は下記は読まなくて大丈夫です)
鉛の箱の中に、1時間放置すると半分の確率で放射線が飛び出す放射性物質を用意します。そこに放射線の検出器を設置し、猫も一緒に入れて蓋を閉めるのです。
箱の中では、放射線が感知されると毒ガスが発生する仕組みが施してあるため、1時間後猫が生きているか死んでいるかによって、放射線が出たかどうかを確認することが出来できるというもの。しかし、ここにはパラドックスが潜んでいるのです。
蓋を開けて「観測(箱の中の状態を確認すること)」すれば、「猫が生きているかどうか」という結果があるので放射線が飛び出したかどうか分かります。しかし、猫の生死は「いつ決めることができるのでしょうか」という話なのです。
これはニールス・ボーアが主張した「コペンハーゲンの解釈」への反論として、シュレーディンガーが考案した実験なのですが――と、これ以上細かいことを読者は知る必要はありません。
『ブレイク・ザ・エッグ』を読む上で重要なのは「観測するまで猫の生死が分からない」ということ。つまり、「観測するまでは猫は生きているともいえるし、死んでいるともいえる」という、様々な状態の重ね合わせが発生しているということなのです。
よって、このキャッチコピーに示されているのは、「才能とは観測するまで分からない卵である」ということなのですが、果たしてこれが作中とどういう関係があるのか、気になる方は是非読んで確認してみてください。
今日は『ブレイク・ザ・エッグ』をご紹介しました。
それでは次回、またお会いしましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。