第40話 『碁敵と書いて友と読む』 島本葉さん
〇作品 『碁敵と書いて友と読む』
https://kakuyomu.jp/works/16817139554536718272
〇作者 島本葉さん
【作品の状態】
短編。完結済。
【作品を見つけた経緯】
紹介者の作品を、作者さんが応援して下さったのをきっかけに訪問してみたところ、「代表作」に掲げられた作品のタイトルが気になったので拝読してみました。
【ざっくりと内容説明】
会社員二人の囲碁の話です。(年齢は、想像するに二十~三十代前半くらいではないかなと思います)
「俺」(=三澤)と池上は、会社ではそれほど繋がりがあったわけではありませんが、「囲碁」という共通の趣味を持っており、碁会所にも通っていたことがありました。
しかし、私生活の変化や部署の異動などで、二人は唯一の繋がりであった「囲碁」から遠ざかってしまうのです。
そのうちに、池上が仕事を辞めるという噂を「俺」が聞いてしまい……?
果たして、二人はどういう結末を迎えるのでしょうか。
【もし作者さんがこれを読んでいらっしゃったら……】
この囲碁の話は分かり易くて、面白かったです。また囲碁のお話をお書きになられることがありましたら、拝読したく思います。
【感想】
作品に入る前に、私が「囲碁」を知ったきっかけについてちょっと書いておこうと思います。
私が「囲碁」の世界を知ったのは、『ヒカルの碁』(<原作>ほったゆみ <漫画>小畑健)でした。
小畑氏の繊細かつ美麗で、均一の取れた絵に惹かれたというのもありますが、何よりも主人公ヒカルと、ある出来事をきっかけに彼の意識に入り込んだ平安時代の天才棋士・藤原佐為が、囲碁の対局を通して、囲碁のことを知っていくという設定が面白かったからです。
囲碁について何一つ知らなかったヒカルが、佐為を通して成長していくことも見どころですが、天才棋士の佐為が打つ一手には、読者の目を惹きつける魔力のようなものがあって、囲碁のルールもよく知らないのにのめり込んだのを覚えています。
囲碁というのは、単なるゲームではないんですよね。将棋やチェスもそうですけれど、そこに打つ人の意図がある。打つ人の意図があるということは、掛け合いがあるということ。そしてそれが時には二人にしかわからない会話、時には一つの物語を生むのでしょう。
繰り返し読んでも面白さが衰えない『ヒカルの碁』を読んで、私は囲碁の世界に興味が湧き、知りたいと思うようになりました。それから私は囲碁のルールを学ぶために、子供用の小さい盤面を買って練習してみたのですが、実はいまいち分からないままです……(苦笑)
しかし囲碁の面白さは何となく分かるので、「私でも分かる内容でありますように!」と願いながら、『碁敵と書いて友と読む』を読んでみたのでした。
だいぶ前置き(?)が長くなってしまいましたが、今回ご紹介する作品も囲碁に関わるお話です。
端的に言って、とても面白かったです。
会社では特に接点もない三澤こと「俺」と池上が、「囲碁」という共通の趣味を持っていたことで二人の関係は始まります。
しかし、接点があるのは「囲碁」だけ。そのため、池上が結婚したり、会社の異動があったりしたことで、次第に二人が会う機会もなくなっていきます。そんなとき、「池上が会社を辞める」という話を三澤は聞いてしまうのです。
たった一つ趣味が同じだけだったのに、彼が会社を辞めてしまうことに三澤は少し動揺し、悩みます。「俺たちの関係は何だったのだろう?」と。
しかし、彼のことが気になるなら、直接聞けばいいのだとお思いでしょう。
どうして会社を辞めるんだ?
俺たち友達だよな!
また、碁を打とうな!
そういう一言が言えたら良かったのでしょうけれど、三澤には言えませんでした。
囲碁を打つために碁会所に行き、碁を打つ二人ですが、それ以外のプライベートについて深く踏み込んだ話は一切ありません。碁を打つだけの関係だったゆえに、三澤は彼が会社を辞めてしまう理由を聞くことができなかったんです。
しかし、お話を読んでいく内に、そのもやもやとしたものがさあっと晴れていきます。囲碁というのは、確かに盤面で向かい合ったら静かに石を打ち合うわけですが、そのなかには前述したように囲碁をやっている人にしか分からないやり取りや駆け引きがあります。それが、三澤と池上にとっての会話だったのではないかと思います。
囲碁の世界を知らない人でも、話のなかにすうっと入り込ませてくれる作品です。何かの趣味を通して育まれる友情物を読みたい方に、ぴったりかと思います。
今日は『碁敵と書いて友と読む』をご紹介しました。
それでは次回、またお会いしましょう。
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