第104話

 最後の選択種目である〈砦崩し〉。

 この種目は、各クラスから四人一組が二チームの計八人が参加する。

 俺にルルリア、ギラン、ヘレーナでチームを組んでいる。


 四人一組となって、教師が土魔術で作った全長二メートルの小さな塔を模したもの(砦)を守りながら、敵のそれを崩す、といったものである。

 こちらもトーナメント形式であり、合計十チームから優勝を目指す。

 例によって〈Dクラス〉と〈Eクラス〉は一戦多く、こちらは四連勝すればトップを取ることができる。


「正直アインがいるから余裕ですわね。さらっと一位を取って、〈Dクラス〉との差を広げてやりますわよ。あの子達、散々〈Eクラス〉の相部屋を馬鹿にしてくれたの、私、まだ根に持っているんですってよ」


 ヘレーナが嗜虐心に満ちた顔で〈Dクラス〉の方を見ている。


「……俺は今回指揮と防衛に回るつもりだから、ヘレーナもしっかり頑張ってくれよ?」


 俺もしっかり参加はしたいし、勝ちに行きたい。

 ただ、俺が全力で挑んで行事そのものを台無しにするのは少し違うだろう。

 そう考えた結果、指揮と防衛を中心に動くことにしたのだ。


「えー……アインが走って行って剣を振り回したら、それだけで正直勝てそうですのに」


「ヘレーナァ……お前は、勝てばなんでもいいのか?」


「なんなら寮が綺麗になれば勝たなくてもいいですわ」


 ギランの言葉にヘレーナがばっさりとそう答える。


 俺は外部の観客達を眺める。

 やはり〈模擬戦〉の際に見た、怪しげな女が見つからない。


 トーマスには既に知らせており、見回りの教師は増やしてもらっており、外部の客人への警戒も強めてはもらっている様子ではあった。

 ただ、それでもどうにも不安が拭えない。

 こういうときの嫌な予感が気宇であった試しがない。


 〈砦崩し〉は順調であった。

 ギランが攻めに、ヘレーナがその補佐に出る。

 ルルリアは二人を魔術攻撃で支援しつつ、砦の守りにも出られる位置に立つ。

 そして俺が砦の前に立って番人になる。


 元々ギランの実力は学院トップクラスである。

 彼の攻撃的な性格も〈砦崩し〉に向いており、序盤に怒涛の攻めで一気に試合の主導権を掴み、守りに入った相手をそのまま強引に崩して勝利をもぎ取ってきた。


 相手がどうにか裏を掻いて攻撃に転じてきても、こちらにはルルリアと俺が控えているので、分散した戦力で抜かれることはまずない。

 あっという間に決勝戦へと進むことができた。


「余も〈砦崩し〉に出たいぞ! 今からメンバーをどうにかできんのか!」


「子供の戯れのような種目には出ないと、そう仰られていたではありませんか! カプリス様、どうか我慢を……!」


「アインが出るなら話は別である!」


 またカプリスが駄々を捏ねて大騒ぎしていた。


「アレが次期王になるかもしれねぇのか……。そうなったら俺らはアレに仕えるんだよな」


 ギランが心底嫌そうにカプリスを眺めていた。


「ま、まあ、ただの武術馬鹿な分、毒にも薬にもならないからまだマシですわよ。王政にほとんど興味がなさそうなのはちょっと怖いですけれど……」


 次の対戦相手は……と前方を見ると、〈Bクラス〉であった。

 ……というか、フィーア達だった。

 疲れ果てた顔のラヴィと、その取り巻きの女子生徒が二人いる。

 フィーアが嬉しそうに俺達へと手を振る。


「兄様っ! また兄様と遊んでいただけて、このフィーア、とても幸せです!」


「……降参した方がいい気がしてきた」


「奇遇だなァ、アイン。俺も今、同じことを思っていたところだ」


 ギランも死んだ目で、敵陣営のフィーアを見つめていた。


「戦う前から諦めるなんて、何をらしくないことを言っていますのよ、ギラン、アイン! アインの知り合いだからって、私は絶対手を抜きませんわよ! いえ、知人なら尚更のこと、全力で叩き潰して差し上げるのが礼儀でしょうに!」


 そして始まった、〈砦崩し〉の決勝戦。

 開幕と同時に謎の落雷一撃で〈Eクラス〉の砦が消し飛び、〈Bクラス〉の優勝が決まった。

 俺は手遅れながらも、絶対にフィーアに自重を覚えさせようということを心に誓った。


―――――――――――――――――――――

【学刀祭】

〈Aクラス〉:125

〈Bクラス〉:107

〈Cクラス〉:50

〈Dクラス〉:16

〈Eクラス〉:39

―――――――――――――――――――――


 優勝は四十点、準優勝は二十点、ベスト四は十点の加点であった。

 これで〈Eクラス〉は〈Dクラス〉相手に一気に倍近い差を付け、なんと〈Cクラス〉に迫る勢いとなった。


「充分な結果なんだが、なんか納得いかねぇなァ……」


 ギランの目は、遠くで燥いでいるフィーアへと向けられていた。


「……フィーアには、俺からもしっかりと言い聞かせておく」


「なんなんですのあの子!? 反則にも程がありますわ! どっからあんな子が湧いてきたんですの!」


 ヘレーナも半泣きの表情で、フィーアを指差して抗議していた。


 俺もフィーアはもう少し空気を読んでくれると思っていたのだが、まさか容赦なく開幕で特級魔術ランク5をぶっ飛ばしてくるとは思っていなかった。

 ただ……フィーアもフィーアなりに、学院生活を楽しんでくれているようで、その点では俺は正直安堵していた。


 ついに学刀祭も、残すところは全員参加の〈迷宮競争〉のみとなった。

 俺はフィーアが楽しんでくれつつ、特に大きな問題を起こさないでいてくれることを心中で祈っていた。

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