第98話
「既にお前達がこのレーダンテ騎士学院に入学してから半年近くが経過した。来週、前半期の締めとして学刀祭がある」
トーマスが教室にて、〈Eクラス〉の生徒達へとそう説明する。
「学刀祭……?」
ちらりとは耳にしたような気はするが、詳しくは知らない。
「クラス対抗のちょっとした力試しだ。五つの種目があって、クラスごとにその合計点を競う。学年ごとに開催日は違うから、二年生、三年生と戦うようなことはないが。そして当然だが、この学刀祭はクラス点制度にも大きく関わる」
レーダンテ騎士学院では、半年置きにクラスの成績であるクラス点によって寮棟の入れ替えを行っている。
実力主義を重んじる、我が王立レーダンテ騎士学院ならではの制度である。
「つまり寮棟入れ替え前の、最後の大行事……ということか」
「そういうことだ、アイン。迷宮演習や団体決闘で〈Eクラス〉と〈Dクラス〉の点数は逆転していたが……なにせ〈Dクラス〉には貴族の子息が多い。特に今年は騎士の名家であるカマーセン侯爵家が在籍していることもあり、意地でもクラスの入れ替えを行うまいとする動きがある。かなり追い上げてきてこそいるが……それでもまだ〈Eクラス〉がリードしているのが現状だ。今回の学刀祭が、一年前半のクラス点の勝敗を分けるだろう」
今の〈Eクラス〉の寮棟は、オンボロ寮の相部屋である。
俺はこれはこれで楽しいのだが、やはり思うところのある生徒達が大半のようであった。
……ルルリアは実家より遥かに綺麗なので文句を言う余地がないとは口にしていたが、〈Eクラス〉も平民より下級貴族の人間が圧倒的に多いのだ。
「燃えてきましたわっ! 皆様、絶対〈Dクラス〉に勝って、個人部屋を手に入れますわよ! 散々馬鹿にしてくれたあいつらを相部屋に押し込んでやりますわ!」
ヘレーナが息巻いている。
彼女は特にオンボロ寮は堪えているようだった。
これを機に真っ当な寮に入りたいという思いが強いのだろう。
「学刀祭ねぇ……勝負事はそら結構だが、メインの敵が今更〈Dクラス〉じゃなァ。やるのも結局、ままごと遊びみてぇなもんだろ? 魔術の的当てみてぇなよ。学院迷宮入るか、アインと模擬戦でもやってる方がずっといいぜ。もうちょっと騎士らしいことをやらせてほしいもんだ」
ギランが呆れたように口にする。
「ギッ、ギラン、乗り気じゃありませんの!? 〈Eクラス〉の寮は酷いですけれど、本来レーダンテ騎士学院はお金持ちなんですわよ! ご飯だって色々食べられるようになりますし! それにこの半期終了をもって、正式に最下位順位が入れ替わるといっても過言ではありませんわ! 散々劣等クラスだのと陰口を叩いてくれた連中に、たっぷりお返しできますわ」
「別に寮ももう慣れっちまったからなァ……。偉ぶってる馬鹿貴族共に一泡吹かせてやりてぇって気持ちはあるが、今更カンデラ如き相手にしてもな。〈Cクラス〉はマリエットだし……〈Bクラス〉も例の優男のラヴィ。こいつらも別に改めて叩き潰してぇとは思わねぇな。〈Aクラス〉のカプリスも、権力に胡坐掻いて好き勝手やってるタイプじゃねぇからな」
ギランが白けたように口にする。
「冷めた男ですわ……」
ギランは勝負事が好きなようで、案外こういう行事事には乗り気ではないことが多い。
ままごと染みたものに感じてしまうのかもしれない。
カプリス相手には噛みついていたが。
格上相手に喰らいつくような戦いが好きなのかもしれない。
「アインも正直乗り気じゃねえだろ? 授業潰してお遊戯大会なんて開催されてもな。こんなので熱くなれるのは、見栄の張り合いやってる貴族連中か、お子様のヘレーナくらいだぜ」
「い、いや……正直、俺はこういう学院ならではのイベントって聞くと、結構楽しみになるというか……」
ギランが自身の手のひらに拳を叩きつける。
「いいかテメェら、全力でトップを狙うぞ! 俺達だって修練積んできたんだし、〈Dクラス〉なんざ元々家柄だけの扱いに困った奴らを押し込んでるようなクラスだ! 団体決闘からの因縁もあるからなァ! どっちが上か完全にわからせてやろうじゃねぇか!」
「ギランの手のひら返しもいつものことですけれど……貴方も本当に学びませんわね。アインの好みを」
ヘレーナがはあ、とため息を漏らした。
「……まあまあやる気出してもらえると助かるね。俺は学院内の血統主義が蔓延してる空気は好きじゃないからな。元々他の学院と違ってガチガチの血統主義じゃなかったのがウチの強みだったんだが……最近はここもかなり騎士団から目を付けられてるからな。お前らが風穴開けてくれれば俺としても動きやすくなる」
トーマスがぽりぽりと頭を掻く。
「種目は〈魔術射撃〉、〈崖昇り〉、〈模擬戦〉、〈砦崩し〉が選択種目、〈迷宮競争〉が全体種目になってる。全員選択種目から二つ、そして全体種目の〈迷宮競争〉には必ず出てもらうことになっている。今日の内に全員、出場種目は選んでもらうぞ」
一クラス十六人なので、選択種目は各クラスから八人が出る、という形になっているようだ。
〈魔術射撃〉と〈模擬戦〉はだいたい名前でわかるが、〈崖昇り〉と〈砦崩し〉はさっぱりだった。
どうやらトーマスより聞いたところ垂直な壁を昇ってその速さを競うのが〈崖昇り〉、四人チームを組んで砦を守りながら敵の砦を崩しに掛かるのが〈砦崩し〉、とのことだった。
「アインさんはどれに出るんですか? 私はひとまず〈魔術射撃〉は確定ですね」
「〈模擬戦〉は少し抵抗感があるな」
ルルリアの問いに、俺はそう答えた。
さすがに一学生が正面からの戦いで俺に敵うとは思えない。
まだ遊び心の余地がある他の種目の方がいいだろう。
「……ただ、俺は正直〈魔術射撃〉は得意じゃない。失敗するだけならいいが、大事故が起きかねない。〈崖昇り〉と〈砦崩し〉だな」
「アインが出るなら、俺も〈砦崩し〉に出るか。この種目はチーム組するって話だったからなァ」
「ギランは本当にアインが大好きですわね……」
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