第52話
俺達は学院迷宮の通路の中を進んでいた。
「一番よく出没する
「そっ、そんなに高いんですか!? じゃっ、じゃあ、八体狩ったら、一人当たり一万ゴールドになりますね! そんなにあったら街で豪遊できるじゃないですか!」
ヘレーナの魔石の話に、ルルリアが食いついていた。
「……一万ゴールドで豪遊はできないんじゃないかしら? ちょっと値の張る場所で食事をすれば、それだけでなくなる額ですわよ」
「なっ、何を言っているんですかヘレーナさん! とんでもない大金ですよ! 私、一万ゴールド金貨なんて持ったことありませんもん! 少し頑張ったら一ヵ月分くらいの食費にはなります!」
「それだと一日に三百ゴールドちょっとしか使えませんわよ!? 貴方、毎日林檎三つで食事を済ませるつもりなの?」
仮にも貴族であるヘレーナと、平民であるルルリアの金銭感覚の差が如実に出ていた。
しかし、ここまで必死なルルリアは入学試験の時以来だ。
なんだか微笑ましくなってくる。
本気になれるものがあるというのは、本当に素晴らしいことだと俺は思う。
俺は〈幻龍騎士〉の間、ただ無心に与えられた任務を熟すことだけを考えていた。
それによって救われていた人もいたはずだし、やり甲斐が全くなかったというわけではない。
だが、そうした日々に疑問を感じたのが、ネティア枢機卿へ俺の学院入学を認めてもらえるようお願いしたことの始まりでもあった。
今の学院生活を大切にしたいとは思っているが、俺にはそれ以上の目的というものがない。
学院でどのような結果を修めても、結局はひっそりと消息を絶ち、〈幻龍騎士〉に戻るだけなのだから。
だからこそ、熱意の伴った目的を持つルルリアの今の姿勢には、憧れに近い感情があった。
「ルルリアはお金が大好きなんだな」
「……アイン、貴方それ、なかなか身も蓋もない言い方をしてらっしゃるわよ?」
ヘレーナが目を細めて俺を睨み付ける。
しかし、
勿論、魔石回収とその運搬にも手間や時間が掛かる。
だが、倒した分だけ金銭をもらえると思うと、なんだか達成感があって面白いな。
「ヘレーナ、しっかり調べていたんだな。
「三万ゴールドくらいじゃなかったかしら?」
「三万ゴールドですか!? そ、それって、一体に付きですよね!? じゃ、じゃあもう、毎日迷宮に潜ったら大金持ちになれるじゃないですか!」
ルルリアがかつてない食いつき振りだった。
ヘレーナが若干引いている。
「……夢はありますけれど、でも、
「で、でも、三万ゴールドですよ? そんな大金実家に仕送りしたら、父さんと母さんもしばらくお腹いっぱい食べられるはずです! 命懸けで挑むだけの理由のある対価です!」
「私は三万ゴールドのために死ぬのはごめんですわよ!?」
ギランがやや殺気立った様子で二人を睨む。
「なあアイン、あいつら、金の話しかしてねぇぞ」
「ギランは何階まで潜ろうと思ってるんだ?」
「地下三階層くらいまで見ておきてぇと思ってたんだが、ヘレーナがいるからなァ……。移動時間も掛かるだろうし、二階層までが無難か。受付の、あの感じの悪い野郎の警告に従ってるみたいで癪だがな」
燥いで大怪我を負う生徒がこの時期は多い、という話だったか。
「この学院迷宮、地下五階層まであるんだったよな」
「正確には、騎士団が踏み込んで調査できたのが地下五階層まで、だがな。もっと下があるんじゃねぇか? 生徒の最高記録が、地下四階層までだったか。在学中に、俺らの手で塗り替えてぇもんだな」
「最高記録が地下四階層まで、か……」
ということは、地下四階層まで踏み込むくらいならば、この学院の生徒の実力の範疇というわけだ。
その範囲であれば多少好きにやっても、目立ちすぎてフェルゼンやトーマス、ネティア枢機卿辺りからお叱りを受けることはないだろう。
俺は剣を抜き、軽く振るった。
「ルルリアもギランも、目的があるのは素晴らしいことだと思う。俺も全力で力を貸そう。地下五階層はまたおいおい考えるとして、今日はとりあえず四階層まで潜って魔石を集めよう」
基本的に迷宮は、下の階層の方が上質の高値で売れる魔石が手に入るという。
そして、今回の迷宮探索で重要になって来るのは時間だ。
通常の探索であれば迷宮内で眠れば日を跨いだ探索も可能だが、明日には授業もあるし、夜までに寮内へ戻らなければ個人成績やクラス点へのペナルティもある。
最悪、停学による寮内謹慎を受ける可能性だってある。
「きょ、今日のアイン、妙にやる気ですわね……」
「それで行きましょうアインさん! 総額八万ゴールドを目標にしましょう!」
ルルリアがぐっとガッツポーズを取った。
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