第51話
〈太陽神の日〉、俺達はいつもの四人でレーダンテ地下迷宮へと入ることにした。
学院迷宮への講義外の立ち入りは担任教師の許可が必要となる。
特に〈Eクラス〉は毎年許可基準が厳しいという話だったが、個人成績がついに基準を満たしたことと、担任教師であるトーマスが俺達に目を掛けてくれていたことで、ようやく許可を得ることができたのだ。
学院迷宮に挑むことにした理由は、四人共様々である。
俺はギランに誘われたからという面もあるが、迷宮演習の際の複数人で一つのことに取り組んでいる空気が好きだったことから挑んでみることにしたのだ。
「ハッ! 講義の実技じゃ、物足りねぇからなァ! ようやく騎士候補生らしいまともな特訓ができるってもんだぜ」
ギランは特訓のためだ。
対人と対魔物では、戦い方も異なってくる。
騎士は任務で迷宮に潜ることもある。
「ほ、本当に魔石の報酬、四等分でいいんですか? 確かに通常だとそれが一番揉めないと思うんですけど、アインさんとギランさんの損が大きくなってしまいそうで……!」
ルルリアは遠慮がちに、されどやや興奮した様子でそう口にしていた。
ルルリアの目的は学院迷宮の魔石の報酬である。
魔物の心臓である魔石は学院が金銭と換えてくれるのだ。
ルルリアは家にあまり余裕がないらしい。
王立レーダンテ騎士学院は、合格さえできれば学費はかなり良心的である。
加えてルルリアは、入学費用については領主より工面してもらっているそうだ。
ただ、当然、必要以上の額を強請るわけにはいかない。
都市に遊びに行けるようなお小遣いなどあるわけがない。
そのため〈太陽神の日〉も学院の敷地を出るようなことはしなかったが、学院迷宮の魔石報酬が得られれば、都市へ遊びに向かうことができる、というわけだ。
「うう……休みの日くらい、ゆっくりしたかったですわ……。平日の講義でへとへとなのに」
……ヘレーナは、あまり乗り気ではなさそうだった。
だったら来なければいいのにとは思うのだが、どうやらルルリアを都市に誘っているのがそもそもヘレーナだったらしい。
ルルリアが学院迷宮に潜る理由の発端であるため、自分だけ寮で休んでいるのも気が収まらないのだろう。
「ルルリア……やっぱり寮に帰らない? 遊びに行くにも、一万ゴールドくらい奢ってあげますわよ」
「駄目です! 友達の間でそういう金銭の貸し借りを作るのはよくないって、母さんから厳しく教わりましたから!」
ヘレーナはルルリアの肩を揺さぶって泣きついていたが、ぴしゃりと跳ね除けられていた。
学院迷宮の入り口前にある受付で、俺達はトーマスよりもらった許可証と学生証を提示した。
受付には眼鏡を掛けた、二十歳前後の女の人がいた。
教員ではなく、単に迷宮の管理を任されている人だ。
「はあ、〈Eクラス〉が講義外の迷宮探索ですか……」
何か言いたげな様子だった。
「担任の許可は得ている。認められないのか?」
「……別に認めないわけではありませんし、そういう権限はありませんが。まあ、下手打って大怪我を負わないようにお気を付けて。無茶をして重傷を負えば、場合によってはクラス点への減点対象にもなりますので。この時期は、燥ぎすぎて大怪我をする生徒が多いですから」
棘のある言い方だった。
「あァ? 馬鹿にしてやがるのか?」
ギランが凄む。
ヘレーナはギランの腕を引いて止めていた。
「止めておきましょうよ、ほら。手続きはこれだけですわよね? 早く行きますわよ」
「チッ」
「……はぁ、お遊び気分で来られると困るんですよね。特に〈Eクラス〉の生徒は、わざわざ休日に迷宮に入るより、もっとやるべきことがあるはずなのに」
受付の人が、小声で嫌味を口にした。
「やっぱり喧嘩売ってやがるのかテメェ!」
一度は引こうとしたギランが表情を歪め、再び食って掛かる。
「ギラン、ほら行くぞ」
俺が声を掛けるとギランはついて来たが、時折受付の人を振り返っては、目を細めて睨みつけていた。
「……やっぱりギランさんって、なんとなく犬っぽいところがありますよね。売られた喧嘩は全部買うところとか、アインさんの言うことには大人しく従うところとか」
ルルリアが苦笑しながら、小声で俺に零す。
「そうか?」
「おい聞こえてんぞルルリァ! テメェ、俺のことをそんなふうに見てやがったのかァ!」
「すっ、すいません!」
ルルリアに怒鳴っているギランを見て、確かに少し犬っぽいかもしれないと思った。
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