第41話
迷宮演習を発端とした〈Dクラス〉との団体形式の決闘より、数日が経っていた。
あれから〈Dクラス〉の生徒が〈Eクラス〉にちょっかいを掛けに来ることはなくなった。
退職したエッカルトに替わってやってきた〈Dクラス〉の新しい担任も、どうやら優しげで真面目そうな人らしかった。
寮の大部屋の中で、俺は自分のベッドに腰を掛けて、自分宛てに届いた封筒を開いていた。
「アイン、また例の、お前が教会で、妹みたいに可愛がってたって奴だよな?」
隣のベッドのギランが、恐る恐ると尋ねてきた。
俺は小さく頷く。
俺に手紙を宛てるような人間は、〈
ギランが怖がっているのは、以前届いた〈
どうやら〈
俺はそのことについて同じクラスの学生である、ギラン、ルルリア、ヘレーナに相談し、彼らと共になるべく〈
そして、今日新たに俺宛てに届いたのが、この封筒である。
「なァ、アイン、またヤバいと思ったら、俺とルルリアに相談しろよ?」
ギランが真剣な表情でそう口にする。
さらっとヘレーナが除外されていた。
ただ、ヘレーナは前回返送した手紙を作成した際には、ルルリアが必死に考えてくれた文面をからかうばかりだったので、この扱いも仕方のないことなのかもしれない。
堪忍袋の緒が切れたルルリアに首を絞めら、涙目で許しを乞うていた姿は、まだ記憶に新しい。
ギランは俺のことを完璧超人だと思っている節があり、基本的に何かあっても心配してくれることは珍しい。
こうして親身に力になってくれると切り出してもらえるのは、新鮮で少し心地よかった。
しかし、〈
彼らの監修によって磨かれた文章は、我ながら見事な出来に仕上がったと思っている。
〈
「ありがとう、ギラン。だが、そう心配してもらう必要はない。〈
「だといいけどよ……。あれ、その封筒、なんだか前のものより簡素だな?」
ギランの言葉に、俺は封筒を見返す。
確かに、無地の地味なものだった。
宛先も素っ気なく、『〈1-E〉のアイン』とだけ書かれている。
いつも彼女の封筒はピンク色だったり柄付きだったりで、宛先には『親愛なるアイン兄様へ』と記されていた。
封筒に目を走らせていると、隅に数字の三が書かれているのが見つかった。
「……〈
彼女からこういった手紙を受け取ったのは初めてである。
〈
空間を支配する複雑な魔術を自在に操り、剣術に活かす。
膨大な知識と習得魔術の量から、〈
魔術で対応できる範囲が広く、冷静で頭が切れるため、ネティア枢機卿からの信頼も厚い。
〈幻龍騎士〉の中では攻撃方面の能力に欠けるが、最も優秀な人物であるといえる。
彼女を差し置いて俺が騎士学院に送られたのは、彼女があまり人付き合いを好む性格ではないためだろう。
「……前の奴じゃねえのか」
ギランは目に見えて安堵していた。
俺は苦笑しながら、中の手紙を出して広げた。
手紙の文章は〈
―――――――――――――――――――――
〈
彼女は現在地下深くで反省しているため、ボクが彼女の近況を知らせるために手紙を任された。
昔から情緒不安定な面の目立つ、攻撃的な彼女のことだ。
強引に拘束を破壊し、キミのいる王立レーダンテ騎士学院に乗り込まないとも限らない。
万が一があってはならないため、一応警戒しておいてほしい。
枢機卿様も、彼女の扱いには悩んでいるようだった。
―――――――――――――――――――――
必要な情報だけが簡潔に綴られている。
淡々とした文章ではあったが、とんでもないことが起きているらしいということはしっかりと伝わってきた。
俺の額を、汗が滑り落ちる。
「ギラン……やっぱり俺は、殺されるかもしれない」
どうやら前回の手紙では、〈
「ど、どうしたァ!? 弱気になるんじゃねぇ!」
「しかし、妙だな……。あんなに優しい〈
手紙の内容にも違和感が残る。
〈
攻撃的な面なんてなかったと思うが……。
「……なァ、前の手紙のときから思ってたが、そのフィーアって奴、お前の前でだけ猫被ってるんじゃねぇのか?」
ギランが引き攣った顔で俺へと尋ねる。
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