第39話
こうして、無事に迷宮演習事件は幕を閉じた。
あの後、学院長であるフェルゼンの指示で緘口令が敷かれ、エッカルトと俺の決闘については、口外しないということになった。
表向きには教師の威厳のためということだったが、恐らく俺に気を遣ってくれたのだろう。
エッカルトとの決闘が目立ちすぎることはわかっていた。
だが、エッカルトを追い出さなければ、ルルリア、ギラン、ヘレーナの三人も無事では済まない。
あの一件によって俺が〈幻龍騎士〉に戻されたとしても、彼女達のために決闘を挑まなければならないと考えていた。
ただし、あの後にすぐフェルゼンの命令で解散することになったため、エッカルトの扱いが実際にどうなったのかは、まだわかっていない。
翌日、トーマスが〈ワード〉の魔法を用いて、クラス全体に現在のクラス点を公開してくれた。
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〈Dクラス〉:133【-40】
〈Eクラス〉:208
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迷宮演習事件での妨害のペナルティもあり、〈Eクラス〉と〈Dクラス〉のクラス点の差は、既に七十点以上になっていた。
「よくやった……というのも変な話だが、これでまず、前期の間にクラス点が逆転することはないだろう。クラス点が大きく変動する行事もそこまで多くはないからな。新しい寮を期待しておけ」
トーマスの言葉に、ヘレーナがガッツポーズをして喜んでいた。
「これで、大部屋とのお別れもほとんど決まったようなものですわ!」
「やったなァ、アイン! ハッ、カンデラ共の悔しがる顔が、頭に浮かぶぜ。しばらくはちょっかいも掛けられねえだろうよ。逆にこっちから出向いてやるかァ?」
ギランが豪快に笑いながら、そう口にする。
「大部屋でなくなるのは少し寂しい気もするが、仕方がないか」
俺の呟きに、ルルリアが苦笑いを浮かべた。
「アインさん、結構、寂しがりなんですね……」
「それから、だ。〈Dクラス〉の担任だったエッカルト先生が、急遽退職なさることになった。既にこの学院にはいない。ご実家のエーディヴァン侯爵家の問題だそうだ」
トーマスは、世間話でもするような気軽さでそう口にした。
すぐに教室全体がざわついた。
「それって、明らかに昨日の……」
「そういうことだよな?」
「なんでも歴史あるエーディヴァン侯爵家の名誉に関わる問題らしい。いい加減な噂を口にすれば、どんな目に遭うかはわかったもんじゃないから気を付けておけよ」
その一言で、教室中が一瞬にして静まり返った。
何にせよ、エッカルトは無事に退職したらしい。
俺は安堵の息を吐いた。
フェルゼンも、なるべく公にならないように手を回してくれているようだ。
エーディヴァン侯爵家の名誉に関わる問題というのは、実際まあ、あながち間違いということでもないだろう。
次の〈Dクラス〉の教師は真っ当であることを願う。
ホームルームの後、座学を挟み、訓練場での模擬戦があった。
俺がルルリアと組んで剣を打ち合っていると、すぐ背後から怒声が聞こえてきた。
「ヘレーナァ! お前、昨日のあのすげぇ技はどこへやりやがったァ! ぜんっぜん、それらしい動きもできてねぇじゃねぇかァ! わざとやってんのか!」
「ひぃっ! ど、怒鳴らないでくださいまし……! そ、そんな怒られたって、できませんわ。だって、私が一番、再現したいですもん……」
……どうやら、ハルゲン相手に使った剣の返し技が、またできなくなってしまったらしい。
結局ヘレーナには、またあの妙に隙の多い、歪な剣術だけが残ってしまった。
かなり繊細な技のようだったので、ヘレーナの練度ではその日の体調にもかなり左右されるのかもしれない。
「ヘレーナさん……昨日、凄く格好よかったのに……。だって、相手が多少気を抜いていたとはいえ、〈Dクラス〉の二番手であるハルゲンに勝ったんですよ? それが、また普段のポンコツヘレーナさんに戻ってしまったんですね……」
……ポンコツヘレーナさんは止めてあげて欲しい。
昨日とのギャップを考えると、そう言いたくなる気持ちもわかるのだが。
ヘレーナは剣の型さえ変えれば、それだけで一段は剣の技術が上がるはずだ。
ただ、恐らく、返し技を完全にものにしたときのための修練も兼ねて、あの型を使い続けているのだろう。
俺が口を挟んで変えさせれば、台無しになってしまいかねない。
「大丈夫ですかね……あの二人。あの、私、止めてきます。何なら、今からペアを変えませんか? 普段はアインさんとギランさんが組むことが多いですし……」
ルルリアがそう言い、彼らへと駆け寄ろうとする。
俺はそれを手で止めた。
「いや、大丈夫だろう」
俺はヘレーナを手で示す。
「おら、もう一回やんぞヘレーナァ! また同じところから斬り掛かるからな!」
「わっ、わかりましたわ!」
あの〈Dクラス〉との団体戦を経て、ヘレーナとギランの仲も多少は深まっているように思える。
ギランが荒っぽいのは不安だが、大きな問題に繋がることはないだろう。
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