第31話
団体戦形式の決闘が決まった翌日の放課後、俺達は訓練場へと訪れていた。
迷宮演習での俺の班員とカンデラの班員に加え、〈Eクラス〉と〈Dクラス〉の生徒達が応援に来ていた。
教師陣はトーマスとエッカルトに加え、あまり知らない三人の教師がいる。
「あの三人は、立ち合い人だ。そして、この決闘の審判でもある。さすがにエッカルト自身が加わることがなかったが……あいつらも、エッカルトと同じく、血統主義の奴らだ。言い掛かりを付けてきて、すぐ反則負けを取ってきかねない。用心しておけよ」
「ありがとう、トーマス先生。情報感謝する」
審判が全員、エッカルト側、か……。
それはあまり嬉しくない話だった。
「たまたまあの教師達が話しているところを聞いたのですが、カンデラ達の順番は、私達に合わせて出してくるそうです。やっぱり完全にグルみたいです」
ルルリアが声を潜め、うんざりしたように言った。
四対四の団体戦だ。
各班が先鋒、次鋒、副将、大将を決め、立ち合いの教師に伝えて同時に公開してもらう、という約束になっていた。
だが、どうやらカンデラ達は、先鋒、次鋒ではなく、誰に誰を当てるか、という考えで来ているようだった。
「ハッ、だとしたら、色々考えて決めてたのが馬鹿らしいな。適当に決めりゃよかったぜ」
ギランがそう零した。
「ほ、本当に、勝てるのでしょうか……? だって、相手はただでさえ入学試験で私達を上回っている〈Dクラス〉ですわ。同点だと負けというのは、さすがにキツいんじゃありませんの?」
ヘレーナがびくびくとそう口にする。
「大丈夫だ。ギランの剣技は〈Dクラス〉に勝っている。ルルリアも魔術の腕は〈Dクラス〉以上だ」
ギランの剣技は、元々〈Dクラス〉よりも上だった。
比べたわけではないので、俺の考えでしかないが。
本人ももっと上のクラスに入れたはずだと口にしていたし、それは思い上がりではないだろうと俺も思っている。
それに、時間のある時は毎日俺と稽古している。
ルルリアも、入学試験の結果では、ギランに並んで〈Eクラス〉トップであった。
平民は点数を下げられる傾向にあるという。
ルルリアは貴族であれば間違いなく〈Dクラス〉に入っていただろう。
いや、更に上のクラスにだって入れていたかもしれない。
ヘレーナは期待したような目で俺を見る。
「ん?」
「……アインさん、ヘレーナさん、自分が褒められる番だと思っているんですよ」
ルルリアが俺の耳許へとそう零した。
……なるほど、俺はあまり察しのいい方ではないので、ルルリアの助言でようやく合点が行った。
「ヘレーナは……その、既に正面からの一対一で、〈Dクラス〉の生徒のデップを打ち破っているからな。今回の団体戦においてとても心強い」
「フフン、当然ですわ! ヘストレッロ家の華麗なる剣技を、今一度披露してさしあげますわよ!」
ヘレーナは背筋を伸ばし、上機嫌に胸を張った。
よかった……一瞬どこを褒めるか悩んだのだが、喜んでくれたようで何よりだ。
ヘレーナが倒したデップは、今回の団体戦にも出てくる。
ヘレーナとデップが当たるのであれば、今回も彼女が勝ってくれる可能性は高い。
「引き分けはこっちの負けだからな。二回負ければ、その時点で俺らの負けだ。俺とアインはまず勝つだろうが、ルルリアとヘレーナが、どっちかは一勝してもらわなきゃならねぇ。女共、負けたら承知しねぇからな」
ギランがルルリアとヘレーナを睨む。
「勿論です。……私一人の戦いじゃありませんから、絶対に勝ってみせます」
ルルリアは深く頷いた。
「と、当然、全力は尽くしますわ……。で、ですが、勝てるかどうかは別の話かもしれないと言いますか……」
「嘘でも勝つっていいやがれ! なんでいつも調子づいているクセに、こんなときだけ弱気なんだテメェ! 士気下げるんじゃねえ!」
「だだだ、だって、だって……今回は皆様の退学が懸かってますし……いい加減なことは言えませんもの……」
ヘレーナはルルリアの陰に隠れ、弱音を吐いた。
ルルリアは若干呆れた表情を浮かべながらも、慰めるようにヘレーナの頭を撫でる。
「しかし、向こうが対戦順位を弄ってんのなら、尚更どこにどこぶつけてくるのか見物だな。あの四人の中に、アインを倒せる奴がいねぇのは、カンデラの馬鹿だってわかってるはずだが」
ギランはカンデラを睨み、そう呟いた。
カンデラは余裕ありげな笑みを浮かべていた。
勝って当たり前だと、そう思っているようだった。
そして、どうやらそれはエッカルトも同じらしかった。
「いいかね、カンデラ君。この決闘で勝てば、劣等クラスは一気に戦力を失うのだ。おまけに、迷宮演習の件だって、劣等クラスの中にまともな証言ができる者はいなくなる。演習のやり直しの請求だって行える。そして、何より……」
「あのクズ共に、纏めて報復できる……僕はそれが一番愉快でなりませんよ、エッカルト先生。アインは少々厄介でしたが、まさかこんな馬鹿な条件を提示してきてくれるなんて!」
カンデラはエッカルトと話しながら、俺の方を見て、嫌な笑みを浮かべた。
ついに団体戦が始まった。
俺達は四人、訓練場の中央に並んだ。
「主審は一年の学年主任である、このエドモンが行う! まずは、戦いの順番を発表する!」
エドモン……口髭の濃い茶髪の教師が、そう宣言した。
続けて〈ワード〉の魔法で、空中に文字を記していく。
―――――――――――――――――――――
〈Eクラス〉
先鋒:ルルリア
次鋒:ヘレーナ・ヘストレッロ
副将:ギラン・ギルフォード
大将:アイン
〈Dクラス〉
先鋒:クロエ・クレンドン
次鋒:ハルゲン・ハーゲスト
副将:カンデラ・カマーセン
大将:デップ・デーブドール
―――――――――――――――――――――
各クラスの戦う順番が表示された。
クロエは女子生徒、ハルゲンは男子生徒だ。
クロエは小柄な女で、ハルゲンは大柄の厳つい、禿げ頭の男だった。
ハルゲンは体格では〈Dクラス〉一番だろう。
ヘレーナは死んだ目で〈ワード〉で記された文字と、ハルゲンを見比べていた。
俺の相手は、カンデラの腹心の部下、デップだ。
カンデラ本人が何か策を練って再び挑んでくるかと思ったのだが、デップをぶつけてきたか。
「狡い……! 同点なら勝てるからって、最初から大将戦を捨ててくるなんて! 散々普段は劣等クラスだとか馬鹿にしているのに、こんな手しか使えないんですか!」
ルルリアが非難の声を上げる。
「あ、あの殿方、それなりに強かったと思いますわよ……?」
ヘレーナが必死にデップの擁護をする。
「ハッ、舐められたもんだなァ? カンデラァ、俺なら勝てると思ったのか?」
「何を言うんだい、馬鹿犬君。この対戦表はたまたまだよ。まぁ、僕の実力はこのクラスの中でも抜き出ているし、君如きに負けるなんて端から有り得ないんだけど……そもそも僕は、君に相性がいいからねぇ」
カンデラはギランへと視線を返し、彼を挑発するように嘲笑った。
「大役を任せてもらってなんなんですが……本当に、俺ならアインに勝てるんですか? カンデラさん?あいつ、カンデラさんより遥かに強いですよね?」
「ああ、勝てる勝てる。ま……大将戦は行われないさ。二勝すればその時点で終わりだから」
カンデラはデップの疑問に、どうでもよさそうに雑に返していた。
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