第20話
俺達はレーダンテ地下迷宮の通路を進む。
迷宮内は〈深淵〉の魔力の影響により、明るくなっている。
「私、〈Dクラス〉の連中にむかっ腹が立って仕方がなくってよ! ねえ、アイン! 連中の鼻をへし折ってやりましょう!」
ヘレーナは憤慨を露にしながら、前へ前へと進んでいく。
ルルリアが急ぎ足でその後を追い掛ける。
「ヘ、ヘレーナさん、魔物だっているんですから、危険ですよ。警戒して進まないと……」
「わかっていないわね。最初の演習なのだから、どうせ大した魔物はいないはずでしてよ。ただでさえ学院迷宮の地下一階なんて魔物が訓練で狩られているはずですし、指定された経路やエリアも、安全な場所のはずですわ。それに、ゆっくりしてたら、〈Dクラス〉の連中に追いつけませんわ!」
ギランがヘレーナの背を眺め、欠伸を吐き出した。
「やる気出ねえなァ。確かに俺は、エッカルトや〈Dクラス〉の連中は嫌いだ。だからって、演習頑張りましょうって気にはならねぇな。魔物がしょっぱいのはわかってるし、ただの駆けっこみたいなもんだろ。連中はどうせ地図だって事前から読み込んでやがっただろうし、魔物の情報も知ってんだろうな。仮に俺らの班だけ勝っても、他の班は全滅だろうよ。クラス点なんか、ただの上が凄いってやるための見せモンで、覆せる前提のもんじゃねぇんだよ」
ギランは明らかにやる気がなさそうだった。
ヘレーナはムッとした表情で振り返った。
「そっ、そうかもしれませませんが……少しでもいい結果を出して、あの方々の鼻を明かしたいとは思いませんの!」
「ハッ、くだらねぇな。俺は別に、こんな演習に必死こかなくったって、学院迷宮だけ確認できればそれでいい。いずれ申請が通って出入り自由になりゃ、いい訓練場になるからな。なァ、アインもそう思うだろ?」
ギランが俺に話を振ってきた。
「……いや、俺は皆で協力して結果が出せれば、いい想い出になるかなとちょっと考えていたんだが」
俺は肩を窄めながら、考えていたことを口にした。
せっかくだから、一つの学院行事である迷宮演習を班で乗り切って、何か結果が出せれば楽しいかなと、そう考えていたのだ。
だが、ギランが乗り気でないなら無理強いはできない。
この学院は〈Eクラス〉に厳しく、徹底して不利な状況を強いてくる。
その上にエッカルトの卑怯な一手によって、更に不利な状態に追い込まれてしまったのだから。
気持ちが萎えるのも当然である。
「おい、女共! たらたら走ってんじゃねえ! 〈Dクラス〉ぶっちぎって、レッドスラッグを滅ぼすぞ! アインが乗り気だろうが、足引っ張んじゃねえぞ!」
ギランはさっきまでの意見を翻し、大声で前の二人へとそう怒鳴った。
足を速め、前の二人へと並ぶ。
「……貴方、アインのこと、ちょっと好きすぎなんじゃなくって?」
ヘレーナが若干引いたように、ギランへとそう零した。
その後、全員〈魔循〉の身体強化を行いながら、迷宮の通路を走った。
一番足の遅いルルリアに合わせつつ、先へと急ぐ。
「ルルリア、もっと速度は出せねぇのかァ!」
「すっ、すいません……魔技も領主様の厚意で学んだんですが、さっぱりなんです……」
ルルリアが息を切らしながら走る。
「はぁ……ルルリアは、本当に駄目ですわね。ギランも私も騎士の名門の出、アインは平民ながらに多少は剣の腕が秀でていますけれど、ルルリアは学院のために急ごしらえで扱かれただけですものね。仕方がありません、私が貴女の尻拭いをしてさしあげますわ」
ヘレーナが少し嬉しそうに言う。
自分より下が見つかったと喜んでいるのかもしれない。
ただ、ルルリアは魔法に長けており、火と水の
剣術試験を無難に乗り切り、魔法試験で結果を残したのが評価されたのか、ギランと並んで〈Eクラス〉内での成績はトップである。
ヘレーナは最下位である俺の一つ上だ。
俺は速度を落とし、ルルリアへと並んだ。
「軽く背を押しながら行くから、体重を預けて、バランスを取るようにしてくれ。なるべく地面を蹴って、スキップするように前へと出るんだ。それで体力を温存しながら、速度を上げられるかもしれない」
「が、頑張ってやってみます! でも、そこまでしてもらったら、アインさんも大変なのでは……? わ、わわっ!」
俺はルルリアの背を押しながら、〈魔循〉で速度を上げる。
あっという間に先頭のギランへ並んだ。
「さすがアインだ! もっとペース上げても行けそうだなあァ」
ギランが笑みを浮かべる。
ただ、俺達の少し後ろで、ヘレーナが必死に喘いでいた。
「ぜぇ、限界ってわけじゃ、ないけれど、ぜぇ、このくらいにしておいた方が、よろしいんじゃなくって?」
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