第15話
俺はギランと、剣を構えた状態で向かい合う。
「さて、やるか」
「勝敗が掛かってる以上、もう少し明確にルールを詰めておいた方がいいんじゃないのか?」
俺の言葉を、ギランは鼻で笑う。
「クク、お前、本気で俺に勝てると思ってるんだな。必要ねえよ、言い訳の仕様がねえくらい、叩き潰してやっからよ! 逆に、お前がちっとでも喰らい付けるなら、その時点でお前の勝ちにしてやってもいいぜ。できっこないだろうがなァ!」
ギランは剣を大きく振りかぶり、俺へと正面から突進してくる。
勢いよく振られた剣が、俺の肩目掛けて放たれる。
ヘレーナと戦っていた時よりも更に速い。
俺は剣を縦に構え、ギランの刃を受ける。
「ほう……俺の一撃を受けて、全く体勢を崩さねえとは。だったら次は、〈剛魔〉を解禁した一撃をお見舞いさせてもらおうか」
ギランが笑いながら口にする。
「ご、〈剛魔〉ですって!? 入学してから日も経っていないのに、まさかそこまで習得しているなんて……」
見ていたヘレーナが声を上げる。
「〈剛魔〉って……?」
ヘレーナの隣のルルリアが、彼女へと尋ねる。
「魔技の一つで、わかりやすく言えば、膂力の強化……もっといえば、破壊力の強化に特化した〈魔循〉のようなものですわ。習得できるかどうかとその練度の高さで、騎士の中での位置づけも変わってくるという話ですわ。まさか、入学時点で習得している方がいるなんて」
ヘレーナの口振りだと、基本である〈魔循〉以外の魔技をまともに入学時点から扱える学生自体がかなり少なそうだ。
だいたいこの騎士学院の、合わせるべきラインが見えてきた。
「お前の力でどこまで対応できるか、まずは確かめてやる!」
ギランが大きく背後へ跳んだ。
またさっき同様に、間合いを取ってから斬り掛かるつもりなのかもしれない。
だが、俺としてはあまり長々と付き合うつもりはない。
幸い、少しでも俺が優位になれば勝ちにしてくれると、そう言質は取っている。
俺は床を蹴り、下がったギランの目前へと移動した。
「えっ、おい……」
ギランは慌てて、振りかぶった剣を防御に回そうとする。
俺は左側から斬りつけると見せかけ、素早く右側から剣を弾いた。
実戦であれば、剣を弾くまでもなく、腹部を突き刺せる形勢であった。
「ぐっ……」
ギランは手に力を込め、剣を離さないようにと踏ん張る。
体勢を崩して床に膝を突いたが、懸命に再び剣を構え、隙を晒さないようにしようとする。
俺は斬り込まず、間合いを置いたところからギランへ剣を向けていた。
俺はギランと目が合った後、剣を下げた。
「終わりでいいな、ギラン?」
「ま、まだだ! 俺の負けじゃねえ! 余裕振って隙だらけの〈剛魔〉を使って、そこを突かれたのは認めてやる。だが、追撃されても、俺は防げていた!」
〈剛魔〉は〈軽魔〉とは反対に体重を重くする。
故に、動きが鈍くなり、隙を晒す。
実力が充分に発揮していないままに隙を突かれて敗れたのが、どうにも心残りらしい。
「卑怯ですわよ! ギラン・ギルフォード! アインに負けたんだから、大人しく私に頭を下げなさい!」
ヘレーナがここぞとばかりに口を挟む。
だが、ギランに睨まれると、すぐ肩を窄めて小さくなっていた。
……怖いのならば、最初から言わなければいいのに。
「追撃どころか、逆側から斬り込んで弾いた時点で、その気になれば、剣じゃなくてお前を斬ることもできた。それくらいわかっているんだろう?」
「み、認めるか……認められるかよ! この俺がァ、ギルフォード男爵家の子息が、劣等クラスの模擬戦で負けたなんてよ!」
ギランは歯を噛み締め、再び剣を構えた。
額には脂汗が浮かんでいる。
「〈
ギランが剣を構え、叫んだ。
ギランの身体から漏れた魔力が実体を持ち、彼の身体が赤い光の鎧に包まれた。
魔力を放出して変質化させ、自身の身体を守る魔技らしい。
「あ、明らかに、あんなの、学生レベルの魔技じゃありませんわ! なんであんなのが、ウチの〈Eクラス〉に!?」
ヘレーナが悲鳴を上げる。
「ギルフォード男爵家の秘伝の魔技だ! 確かにお前は強い、認めてやろう。だが、この俺が、平民如きに負けるわけにはいかねぇんだよォ!」
ギランが地面を蹴る。
蹴った地面が黒く焦げ、窪んでいた。
身体能力が跳ね上がっている上に、あの魔力の鎧はかなりの高温のようだ。
俺は身体を逸らし、ギランの剣を回避する。
刃も〈
「この魔力の鎧は、ナマクラ如きじゃ破れねえぞ! 教えといてやらァ、俺が維持できるのは一分前後! その間逃げきりゃ、お前の勝ちだ! それができなきゃ、俺の勝ちだ!」
「ふむ」
確かに学生向けの安物のこの剣では、〈
別にそれもやり方がないわけではないが。
ただ、ネティア枢機卿から不用意に目立つ真似をするなと言われているので、下手に魔技を晒すべきではないだろう。
力押しでもいいが、剣が壊れれば勝ったとしても、ギランに言いがかりをつけられかねない。
俺はギランの剣を躱して懐に潜り込んだ。
「どうしたァ! 接近したって、この〈
俺は拳を真っ直ぐに突き出した。
魔力の鎧を押し切り、ギランの腹部に拳を叩き込む。
少し、手の甲が火傷したか。
「な、何を……お前、どれだけ、馬鹿力……」
ギランは指の力が弱まるが、それでも必死に剣を握っていた。
俺は魔力の鎧が弱まったギランの頬を、剣の柄でぶん殴った。
完全に魔力の鎧が消え、ギランの身体は力なく床に倒れた。
その頭へと、剣を突き付ける。
「〈
ギランは茫然とそう零した。
表情を見るに、敗北への無念より、現状への無理解が先立っているように感じられる。
余程〈
「もういいか?」
俺が口にすると、ギランの目に僅かに涙が浮かんだのが見えた。
戦闘前、あれだけ口にしていたのだ。
さっきのこともそうだが、簡単には負けを認められない性格なのはわかっていた。
だが、ギランは俺に対し、頭を下げた。
「俺の、完敗だ……」
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