第47話 真実
案内されて連れてこられた場所は、城の地下深くだった。
いままで訪れたことがない場所だった。
自室にカノープスはおり、ペテル一人だと確信した彼は。
部屋の隠し扉を開け。そこから、ずっと伸びる階段を降り始めた。
そして降りて突き当りの部屋へと案内した。
扉が閉まる。
意外と明るい部屋だった。
それもそのはず。
電灯がついていた。
カノープスは部屋の奥へ行き、ペテルの方に向きなおり尋ねた。
「ペテルよ。貴様、わたしたちにウソの報告をしたな?」
「どうしてそう思うんだい?」
「とぼけてもムダだぞ。この男が教えてくれたのだ」
柱の影から一人の男が出てきた。
ベガだった。
「この者はな、勇者にひそかに憧れておったそうだ」
「ペテルどのよ。カノープス様や王への忠誠もある。騙すことはまかりならぬ」
ベガは真新しい鎧と剣を、装着していた。
「そしてさらに」
ワシのこの薬を注入すれば、たちまち強靭な肉体が手に入る。
カノープスが何やら薬品が入った注射器を取り出す。
「以前もこの薬で勇者を作り上げたのだ。デネブのやつめ、ワタシの気持ちを踏みにじったばかりか、魔王などと恋に落ちよって!」
ベガに薬品を注射する。
ベガの体がガタガタと震えだして、筋肉が一回り大きくなりはじめた。
カノープスが語りだす。
この星の大半の人々は占星術と、それを神格化した宗教を信じていた。
ワシはそれを見て占星術師となれば、この星の者たちの尊崇と敬意を集めて掌握できるとふんだ。
だから、あらゆるテクノロジーを駆使して未来を読んだのだ。
天候などは衛星を打ち上げデータを取った。
使える技術はなんでも使って。地球人だったワシは占星術師となり、予言し奇跡を起こしたよ。
民の信頼を得て。
王に取り入られるまで、そう時間はかからなかった。
そして、デネブの居場所を突き止めた。
そこで勇者の出番だ。
ワシは占星術で勇者を選んだといい、星の導きにより天から舞い降りた使者だとふれ回った。
実際はワシが、この注射で作り上げた一人の戦士だったがな。
初代勇者は、ワシの言うことは何でも聞いてくれたよ。
魔王を倒し、その子供も殺し。
デネブのやつは始末し損ねたが。
魔王のやつが死んだと聞いて、ワシの胸の内はひとまず納まった。
しかし数年前魔王が復活し、もういちど勇者を作り上げるべきか悩んでいたところに。
おまえが、ペテル貴様が現れたのだ。
正直、好都合だと思ったよ。
ワシの言う通り、魔王まで倒してくれたのはよかったのだがな。
その超新星の剣も、ワシが勇者の為に造ったものだ。
専用の籠手が無ければ、引き抜けない。などというのは大ウソだ。
お前に渡したのは、何の変哲もないただの籠手だ。
周りのバカどもにそう思わせるための、単なる演出だよ。
だが、勇者といえど剣が適当に引っ張っただけで引き抜けると思われても、少々都合が悪い。
何か別の資格というか、理由づけが必要だった。
そうすることで、伝説にも勇者というブランドにも。
さらに風格がつくというものだ。
たまたま、人が近づけぬところで先代勇者がその剣を突き刺したにすぎぬ。
墓は作ってやったがな。
ベガが闘牛の牡牛のように興奮している。
さて薬の副作用で、先代勇者は長くは持たず死んでしまったが、今回のこの薬は違うぞ。
純粋に肉体を強化する。
新たに勇者が現れたと知ったとき、魔王討伐とデネブを殺すのに役に立ってもらおうと思っていたのだよ。
しかし、デネブを殺さずに戻ってくるとはとんだ期待はずれだ。
「このベガどのが、貴様に代わる新しい勇者だ!」
ペテルが超新星の剣を構える。
カノープスがベガに命令する。
「いくぞ、ペテル!」
ベガが剣を振るう。
ペテルは超新星の剣で受け止めた。
剛剣の圧力に吹き飛ばされる。
石畳の床に倒れ込み、そのままごろごろと転がった。
急いで起き上がり、体勢を整える。
またもやベガが踏み込んでくる。
豪快に剣をふるった。
押されながらも、剣で斬撃をはじく。
隙を見つけて、ペテルも斬りこんだ。
鎧に当たる。だがしかし斬れない。
ベガの斬撃をさらに防ぐ。何度か防いでいるうちに、超新星の剣にひびが入った。
「その剣も、魔王を倒すためにワシが作ったやつだと言ったろう。ベガ殿に着せてある鎧や剣は、その剣より精度が上だ。超新星の剣は効かぬぞ」
大きくペテルは距離をとった。
剣は効かないんだね。
「じゃあコレならどうかな?」
剣を鞘にもどし、剣の代わりにとあるアイテムを取り出す。
ペテルの手に握られたもの。
それは、魔王から取り返した細長いたまご型のアイテムだった。
中央のボタンを押しこむ。
瞬間ペテルの手の中で、ボタンの中央から。
光る幾何学的な模様が、たまごの表面に走り。
コンマ数秒でたまごの形が変形した。
グリップを握り。
構えるベガに狙いを定めて。
引き金を引いた。
パシュン。
一筋の光線が一直線に走り。
ベガの右肩を打ち抜いた。
右肩が爆ぜる。
「うがああああっ!?」
右肩を抑えて、剣を取り落とす。
「この銃の一発の破壊力は、城を一撃で消滅させるくらいのエネルギーが凝縮されててね。こいつが最初に手に入っていたら、もっと簡単にものごとは進んだと思うんだよ」
パシュン、パシュン、パシュン。
胸に、腹に、左ひざに。
何発もの光線に打ち抜かれ、穴だらけになるベガ。
出力を弱めて、念のためとどめに頭に1発。
ベガの頭が爆ぜて消滅した。
新しい勇者は。
体中にトンネルを開けられた首なし死体となって、床に転がった。
穴の周りは焼けこげて、細い煙が出ていた。
ペテルは、ツカツカとカノープスに歩み寄り。
そしておびえ動けないまま、言葉を出そうにも出せずにいる自称占星術師に。
銃口を向けてニコリと笑った。
「やっぱり剣より、銃の方が強いよ」
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