第48話 エピローグ

 とうとう行ってしまわれるのですね。


 音もなく、空からまぶしい光を称えた巨大な飛行物体が、ゆっくりと降りてくる。

 着陸し、光の階段が降りてくる。

 中から一人の、ペテルと同じ姿の者が現れた。

 ペテルと何か話している。


 よく晴れて、星がよく見える夜だった

 見送りはスピカとその両親、エルフの里の長老と他数名だけだった。


 最初に出会ったエルフの森。

 脱出ポッドが不時着した湖の近くに。

 開けた場所があった。

 木々が生い茂っていない、草むらだけのその広場で。

 スピカたちは、ペテルとの最後のお別れをしていた。


 ペテルはスピカたちを振り返り、見て思った。


 ありがとう。

 君達を利用していたのは、実は僕もなんだ。




 ペテルは心の中で告白した。

 魔王に支配されているという情報を聞いたとき、僕はどうしようかと思った。

 でもスピカが僕のことを勇者だと言い出したとき、心の奥底では。

 これはもしかしたら使えるかもしれない、と思ったんだ。

 僕が勇者とやらになることで、この星の人たちは魔王討伐に協力してくれるのではないかとね。

 僕の目的と利害が一致したわけだ。

 何より、奪われたものを取り返す必要があったし、取り返さないと母船と連絡も出来なかったからね。

 僕のことを勇者だと信じない人たちには。

 僕が直接、催眠をかけて勇者だと信じ込ませた。

 エルフの村の占星術師さんや長老さんにも。

 最初の町での隊長さんとかも、なかなか信じてくれなかったからね。

 キミたちが協力してくれたおかげで、無事アイテムも取り戻せたし魔王も倒せたよ。

 カノープスやデネブのことはちょっと想定外だったけどね。

 そうそう、スピカは寝ていたから知らないかもしれないけど。

 勇者の紋章が額に浮かび上がることが必要だと分かったとき。

 僕は前日ヘルメットに細工をしたんだ。

 馬車に乗る前から、ヘルメットをかぶり、僕の顔に変化させておいた。

 あとはタイミングを見計らって、操作すれば額に紋様が浮き出るようにね……。

 ただ、勇者の紋章の形はスピカも知らなかったから。

 なるべつ強い光量を浴びせてハッキリとは分からないようにしたんだ。

 馬車の中で、城の使いの人に試してみたけど、なかなか上手く行ったよ。

 必要とあらば、王様にも使おうとは思っていたけど結局必要はなかったな。

 カノープスのやつは、最初からボクを勇者として利用するつもりだったみたいだから。

 すぐにボクを勇者と断定したけどね。

 まあアレのおかげで周りの人々の、信頼のバックアップを得ることができたわけだから。

 結局はお互い利用しあっていた、って感じかな。

 さてとそろそろお別れだ。

 

 母船からのまばゆい光の下で。

 手を振り、船から降りた階段を登り始める。

「さようなら、ありがとう勇者様!」

 スピカは誓った。

 私たちはあなたのことを、語り続けます。

 消して忘れず、語り続けます。


 階段が収納され。

 浮かんだままの宇宙船が、ゆっくりと上昇していく。

 そして、ある程度小さくなったとき。

 宇宙船は途中で止まり、一筋の光を投影した。

 そこに、ペテルのホログラムが現れた。


「そうそう。キミたちに言っておかないといけないことがあったんだ」


 ペテルのホログラムは両手を開いて、話し出した。




「僕は母星に帰ったら、軍の評議会に、この星は植民地として最適ですって報告するつもりなんだ。議会の審議と、過半数の賛成が必要だけど、多分可決されるだろうね。そしたら今度は艦隊をひき連れてこの星を訪れるよ。だから今度会うときは、この星を侵略しに来たときってことになるね。僕は案内役として連れてこられると思うから。そのとき、また会おうね」




 それだけ言うとホログラムは、緩やかに夜の闇に溶けていった。

 宇宙船は空の彼方へと飛び去り。

 あとには、幾千の星々が煌めく夜空があるだけだった。


【完】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る