第45話 魔導の森に魔女一人
森は魔導の森と恐れられていたにしては、いたって普通の森のように感じた。
スピカが暮らしていたエルフたちの森とそう変わらない。
魔王が滅びた後なので、そう感じるのかもしれないが。
ときどきモンスターがいるらしき気配は感じるが、ペテル達の前に姿を現すことはなかった。
油断めさるな。ペテル殿。
といったベガの声さえ遠くに聞こえるほどだ。
森の途中の空き地で、キャンプを張り、一晩泊まった。
そこでも特に襲われるなどということはなく、普通に夜が明けまた出発した。
「カノープスの話だと、もうすぐ着くはずなんだけど」
占いにより、魔女の居場所は地図に書きしるされていた。
さらに、渡されたダウジング用の振り子によって、おおまかな方向は分かるようになっていた。
振り子の反応を頼りに森の奥深くへ進んでいくと、木々が無い開けた場所へと出た。
そこに一軒の小屋があった。
井戸があり、煙突から煙が登っている。
小屋の裏手には、お墓があるのが垣間見えた。
ペテル達は小屋に近づいた。
小屋の材質は、一見木材のようだが、よくよく見ればそれは岩を溶かして再度固めたようなものだった。
「なんなんでしょうか? これは?」
スピカが不思議そうにそれを眺める。
窓にはガラスが貼り付けられてあったが、こちらからでは中は見えなかった。
「面妖な。魔術の類なのか? カーテンも無いのに中が見えぬとは……」
ベガが顎を撫でながら、窓ガラスを覗き込んでいる。
「いいよ。なんとなく僕の感じていた通りだ」
ペテルは玄関と思われる扉の前に立つ。
そして軒下を見上げる。
丸い透明な球体が二つ取り付けられている。
球体は半分が外に出ており、中に黒く丸い球体が入っていた。
黒い目玉のような物体。
いや装置。
ペテルはそれが何かを知っていた。
監視カメラだった。
ペテルは玄関の扉を叩いた。
呼び鈴があるかなと軽く探したが、それらしきものは無かった。
カメラに向けてペテルは声を上げた。
「僕らが来ているのは分かっているんでしょ? 魔導の森の魔女さん。僕は勇者ペテル。話したいことがあるんだ。中に入れてもらえないかな?」
返事はない。
「魔女さん。煙が出ているから多分中に居るんだろう?開けてくれないかな。危害を加えるつもりはないんだ」
剣をはずして、地面に置いて見せる。
「監視カメラで見てるんでしょ? 多分マイクで音も拾ってるよね。聞こえていたら、返事くらい聞かせてくれないかな?」
ペテルは二人にも合図して。
武器を地面に置くように頼んだ。
三人両手を挙げて、敵意が無いことを示す。
しばらくして、声がした。
「……アンタは、何者だい?」
「勇者です。勇者ペテル」
自分の名前を言った後、
「おそらく、あなたと同じ者です」
ペテルはカメラを見つめてそう言った。
またしばらくして。
「入りなさい」
声がして。
横に音もなくスライドして、ドアが開いた。
武器はそのままにして。
ペテルたちは、魔女の住む小屋へと足を踏み入れた。
中に入ると、まず温度が違っていた。
外は少し蒸し暑いくらいだったのだが、中は清涼な感じで涼しかった。
壁や柱は、見たことがに材質のものだった。
何かを積み重ねて作られておらず、つなぎ目も見当たらなかった。
イスとテーブルのある部屋に案内される。
座って待っていると、魔女がグラスに飲み物を注いで持ってきた。
自分の分も含めて4杯のグラスを配る。
茶色い水が入っていた。
「えっ? 冷たい?」
触ってみて、スピカが驚いて手を離した。
ベガは怪しがって、手を付けようとしなかったが、
「あー、生き返るね」
ペテルがゴクゴクとうまそうに飲み干すのを見て、恐る恐る口につけた。
魔女も座り、ドリンクを一口飲んで。
首をまわして三人を見た。
「勇者とか言ったね。あんたらがここに来て、森の魔物が姿を見かけなくなった。と、言うことは……」
「お察しの通りです。魔王は僕たちが倒しました」
「そうかい……」
魔女はややうつむいて。
水滴が周りについたグラスを、じっと見つめた。
「それで、魔女さん」
「魔女ってのはやめてほしいね。わたしは別に魔法が使えるわけじゃないし。名前をそういえば言ってなかったね」
老婆は、自分の名をデネブ。だと答えた。
「勇者さん。ペテルさんか。あんたはわたしと同じ者だと言った。あんたが感づいている通りわたしはこの星の人間じゃない。そう言った意味ではわたしとあんたは同じだ」
デネブはもう一口ドリンクを飲んだあと、ペテルを眺めてこう言った。
「ペテル。あんたもこの星の人間じゃないんだろ? そしてあたしと同じ地球人でもないよね?」
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