第44話 そして平和が訪れるには

 ついに魔王を倒した。


 もう支配に恐怖に怯えることはない。

 世界に平和が訪れた。


 この朗報を聞いたとき王は感涙の涙を流し。

 玉座から立ち上がり、そして歩み寄り。

 ペテルの両手を掴んで「よくやってくれた」と涙を流し。

 何度も感謝の言葉を述べた。


 そこへ、占星術師のカノープスも歩み寄ってきた。

 カノープスも激励に来てくれたのか。


 と、ペテルは思ったが表情がそれらしくない。

 彼はいつも通りの険しい顔を崩さずにいた。


「王よ。まだ安心はできませぬ……」

 やはりというか、予想通りというか。

 いまだ安心はできない。


 そんなことを思わせる何かをカノープスは知っている。

 そんな発言だった。


「何を申すかカノープス。魔王は倒れたのだ。勇者ペテル殿の手によって。これで魔王の支配に怯えることも無い。この世界は平和になったのじゃ」

「また、魔王が復活すると知れないとしてもですか?」

 王の目は見開かれ、何かに気づいたようだった。


「そうです。この度倒した魔王は、倒したはずの魔王。つまりは復活した魔王。そして……」

 カノープスが手に持った水晶玉を見つめながら語る。


「そう何年もたたぬうちに、倒されたはずの魔王が復活するとの掲示が占いで出ておりまする」


「おおお! なんという……!」

 王は両手で顔を覆い。

 悲痛に体を震わせた。


 しかし、そこでカノープスが険しい顔を緩めてこう言った。

「しかし、ご安心を。わが占いでは、魔王を復活させた者の居場所も突き止めてございます」


「なんと! まことか!」

 王がカノープスを見やる。

 カノープスは水晶玉をかざしながらこう言った。


「わが占いで示す、愚かな大罪を犯した者は。魔王城があったさらに先の魔道の森。その奥深くに住む恐ろしき魔女にてございます」

 それを聞いた後、王は玉座へと戻り、ふう。と、ため息をついた。


「カノープスよ」

「ハイ」


「その魔女を倒せば、全てが終わるのだな?」


「さようにございます。魔王がもう復活する恐れはないかと」

 カノープスが横目で王をじっと見つめる。


「よし、わかった」

 王は理解したという風に立ち上がった。

 手を振りかざして命令する。


「再度、軍隊を結成する! 向かうは北の魔道の森!!」

 その場にいる者たちが、闘志をやる気を声に出して叫ぶ。


 その中でペテルは王に歩み寄り、

「王よ! お待ちください!」

 と声を投げかけた。


 その声が響き渡り。

 叫んでいた者たちは口をつむぐ。


「いかがなされた。ペテルどの?」

「その任務。私たち三人で行かせてもらうわけには、いけませんか?」


「しかし、その魔女がどのような存在かも分からぬのだぞ。強大な魔力を持っている者かもしれぬ。

魔王が居ぬいま、全力でかかるのが妥当であろう?」

「いえ、王よ」

 ペテルは胸に拳を当ててこう言った。


「だからこそです。相手がどの様な存在なのかわからないからこそ、慎重に事を運ぶべきなのです。それに、話しあえばわかりあえる存在かもしれません。まずはわたしは話し合って、そしてできれば改心させてみたいのです。そして僕はいささか、倒す、殺すの所業に疲れました……」

 フッと視線を床に落とす。


「おお……」

 カノープスの反対側にいる司祭が数歩近づいて、

「ペテルどのには慈悲の心が、慈愛が、おありじゃ……」

 とペテルを見据えて言った。


 周りの者たちから拍手が沸き起こる。

「ううむ」

 王が唸る。


「お願いします、王様」

 ペテルは片膝をついて。

 胸に拳を当てたまま。

 王の目を見つめながらそう言った。

 真っすぐな視線。

 キラキラと輝く瞳。

 その瞳の奥に。

 何百何千と光る星々の輝きを。

 王は見た気がした。

 そして目を閉じて思案したあと。

 

「わかったペテルどの。魔女の討伐の件はお主らに託そう」

「ありがとうございます! 王様!」

 ペテルは立ち上がり頭を下げた。

 拍手がやり止まない。

 王は言った。


「気を付けよ。魔物はもうおらぬが、魔道の森はもともと危険な場所じゃった。それが魔王城の影響で北部地方全域が、魔物の巣窟になり近づけないでおったのじゃ。いまはどうなっておるのか全く分からぬのだ」

 ペテルはもう一度王に頭を下げ。


 反対側を向き扉へと向かった。

 拍手が部屋中をこだまする中。

 ときどき、ペテルやスピカ、ベガの名を呼ぶ声も聞こえる。

 讃える声が聞こえる中で、ペテル一行は部屋から退場した。


 退場する直前にスピカは言った。

「よかったですわね。ペテル様」


「ああ、魔女ってのに興味あったからね。ちょっと会って話をしてみたかった」

「そうなのですね。よかったですね」

 ペテルは部屋を出る瞬間にこう言った。


「うん。うまくいってよかったよ」

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