第43話 魔王アークツルス決戦2
へい! リッシーッ!
ペテルはサングラス型の小型の端末を装着して叫んだ。
端末のAIが反応し。
「ご用件をどうぞ」
と喋りだした。
「同じ姿の僕を、もう1体出してほしい」
ペテルがそういうと、数体のプロペラがついた昆虫程度の飛行体が現れた。
その飛行体の一台が、上空へ飛んでいき光を投影した。
1体のペテルの立体映像がそこに現れた。
「ホログラムだよ。自律型AIで制御されている。僕の意思とは関係なしに動く。もちろん命令をすることだって可能さ」
「ジリツガタ……? ホログラム……」
聞かない言葉だ。
「じゃあ、いくよ!」
ペテルが剣を振りかざし、魔王に突っ込む。
「無駄だ」
アークツルスは攻撃をよけてかわし、手刀をペテルの胸元へ繰り出した。
だが、感触はない。
「一応かわしてみたが……。やはり、幻影か」
「まあね」
「だが、幻影と分かった以上、恐れるに足らん。この程度であれば十分動きを予測し貴様を殺すことはたやすい」
「この程度と思われたら、困るんだよなぁ」
ペテルがパチンと、指を鳴らす。
ホログラムの数が増えた。
8体の幻影のペテル。
「!?」
「これなら、どうかな?」
ペテルの合図とともに、一人残して、一気に8体のペテルが襲い掛かる。
「馬鹿め、幻影と分かっていればかわす必要など」
すまし顔で立っていたアークツルスだったが。
右腕に痛みと血しぶきが走るのを見て、若干の驚きと痛みの表情を浮かべた。
「仏頂面が、動いたねぇ」
「貴様……!」
「いまのは完全に油断してただろ? ホログラムの中に僕が居ないなんて一言も言ってないよ」
距離を取り、離れた位置からペテルは話す。
「お次は、こうなる」
指を鳴らして。
ホログラムの数が増えた。
16体のペテル。
「これなら、どうかなっ?」
合図とともに一気に襲い掛かる。
今度はどっちだ!?
すべての攻撃をかわすアークツルス。
そして、全てのペテルに手刀を繰り出す。
すべて幻影。
空振りに終わる。
「く、くそっ」
パチン。
ペテルが指を鳴らす。
32体のホログラム。
一気に襲い掛かる。
かわさざるを得ない。
全て空振りに終わる。
「さすがに捌ききれなくなってきたみたいだね」
パチン。
64体。
「いいかげんにしろおおおおおっ!!」
アークツルスは魔法弾をペテルに向けて撃ち放った。
しかし、幻影は消えず襲い掛かってきた。
魔法で作られた幻影ではないのだ。
ホログラムなのだから。
しかも自律型AIが全てバラバラに動かしている。
「おおおおおおおっ!?」
避けきれない。
次は左肩から血しぶきが飛んだ。
「じゃあ、クライマックスといこうか」
パチン。
数が格段に増えた。
256体のペテルの幻影が。
魔王の周りを埋めつくした。
本物も入れれば、257人。
合図とともに、魔王を中心とした渦のようになり。
ペテルたちは、襲い掛かった。
もはや予測もへったくれもあったものではない。
だが、
「ここだ!」
アークツルスが手刀を繰り出す。
「おおっとお!?」
硬い物がぶつかり合う音が聞こえた。
「よく分かったねえ!?」
離れたところからペテルの声が聞こえる。
大量のホログラムのおかげで、本体の姿は隠れてしまっている。
「クライマックスとか言ったな。それなら、ペテル。貴様がこの攻撃の中に潜んでいることは明白。我にとどめを指すべく、胸や腹などの急所を狙ってくるであろうと思っていた。だから、そこを狙ってくる攻撃だけに集中しておったのだ。残念……、だった……な?」
体に強烈な痛み。
口もとから、血があふれだした。
アークツルスの胸元から何かが生えていた。
槍だ。
槍の先端が胸から突き出ている。
ベガのハルバードだった。
「アークツルス。君の方が残念だったね」
パチン。
幻影ペテル達の動きが止まる。
「油断すると、予測を止めてしまうのがキミの悪いクセだと思うよ」
槍はとっておきの、巨大ボウガンのような射出機から放たれたものだった。
そこへ強力な電撃。
スピカの雷撃魔法!
「はぐあああああああああっ!!」
槍に直接電流を流している。
最大級の雷の魔法がアークツルスの体を、内側から焼いた。
パチン。
一時停止を解除したように。
すかさずそこへもう一度、257体のペテルたちが襲い掛かった。
ホログラムの幻影たちに紛れて。
ペテルは超新星の剣を打ち下ろし。
アークツルスの胴体を斜めに、一刀両断した。
魔王アークツルスは倒れた。
勇者ペテルがついにやったのだ。
魔王が言っていた通り、変身はしなかった。
あとから、後ろに控えているさらに強大なボスが出てくる展開も考えていたが、それもありそうにない。
「勝った……?」
とある部隊長が、魔王の亡骸を見てそう言った。
「勝った! 勝ったぞ! 魔王を倒したんだ!!」
生き残っている軍勢の兵士たちに、このニュースを大声で広めてまわる。
まだ半信半疑と戸惑いが垣間見える中。
軍隊たちの兵士はこぞって勝どきを上げた。
入ってきた時は5000人を超える軍隊だったのだが、魔王の部屋にいるのはその100分の1よりも少ない。
50名以下の、100分の1にも満たない兵士たちだった。
しかし、生き残ったことには変わりなない。
世界にこれで平和が訪れた。
そしてその瞬間を目の当たりにした。
なにより、生きて帰れることが兵士たちの喜びの根底であった。
「おれ、国に還ったら結婚するんだ!」
「おれは、やめていた酒をたらふく飲んでやるぜ!」
「はぁ~うめぇ。この一服。生きててよかったわぁ」
兵士たちが次々に安堵の音場と態度を漏らし始めた。
「まだ油断はならぬぞ! この城を出るまで安心はできぬからな!」
部隊長の一人が、だらけはじめた兵士たちを見て、渇を入れる。
兵士たちは軍列を組み、緊張を取り戻して、魔王の城の出口へと歩み始めた。
すでに魔物たちは消滅し、モンスターたちも洗脳が解けたのか。
各々で城の外へ出てしまっている。
ペテルはというと、魔王の玉座の辺りで近くの棚の中を物色していた。
「何かお探しですか?」
「ああ、奪われた最後のアイテムがあるはずなんだよ。アークツルスが身に着けていた様子はなかったから、ここら辺においているんじゃないかと」
言い終わらないうちに。
「ああ! あったあった」
細長く白い楕円形の物質を見つけ出した。
細長い大きな卵のようにも見える。
「それですか?」
スピカが尋ねる。
「うん、最初からこれがあったら、こんなに苦労しなくてもよかったかもしれないなあ」
そう言いながら、カバンの中へとしまった。
軍勢はもう遠くに行ってしまっている。
魔王のなきがらは、棺桶に詰められて兵士たちに運ばれていた。
ペテルとスピカは、急ぎ足で部隊と合流した。
その後彼らは、特に妨害や罠や、魔物の襲撃に合うことなく魔王の城を出た。
首都サジタリウスに向かう道中でも魔物やモンスターたちと出くわすことはなかった。
軍勢の者たちの多くが、この行進は平和を運ぶ使者の行進だという想いで来た道を戻っていた。
二日ほどかけて、サジタリウスへの道のりを戻り。
ペテル、スピカ、そしてベガを含む軍勢48名は。
無事、王都サジタリウスへとたどり着いたのであった。
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