第42話 魔王アークツルス決戦1

 アンタレスを倒すと同時に。

 土の中からゾンビたちが出てくるのが止まった。


 しばらくして、ゆっくりと。

 部屋の扉が、音を立てて開いた。

 入ってきた扉とは反対側の扉だった。


「勇者様!新たなる道が………!」

 別部隊の隊長が、ペテルに声をかけた。


 ああ。

 ペテルもそれを見て感じ取った。

 決戦の時は近い。

 魔王はおそらくこの先にいるであろうことを。


「よし!行こう!」

 超新星の剣を鞘にしまい、ペテルが扉へと歩を進める。

 ペテルが動くのに合わせるように。

 軍勢の残りが、扉に向かって進み始めた。




 扉の先は広い広い階段だった。

 登った先は、どうなっているのかは見えない。

 階段を軍勢が登っていく。


 ペテルもスピカも、そしてベガも。

 軍勢と一緒に登っていく。

 途中に魔物やモンスターは現れなかった。

 階段を、長い階段をとにかく登って行く。


 やがて、上り詰めた先には。

 一つの大きな扉が落ち構えていた。


 巨人の魔物なみに、大きな扉だった。

「この先に魔王かいるのかな?」

 そんなことをペテルは口に出す。


 軍勢はその言葉で、魔王が目前だということを上書きするように意識した。

「ようし! 押せ押せ!」

 どこかしら、部隊長の声が上がる。


 いまや軍隊の人数は。

 入ってきた時の10分の1以下になっていたが。

 500人足らずの力で、目の前の扉を押した。


 重い扉が、ゆっくりと音を立てて開く。

 半分以上開いたところで。

 押すのを止めて、軍隊は進行した。


 大広間だ。

 先ほどのアンタレスが居た部屋よりはずっと狭い部屋だが。

 その部屋の一番奥に。

 座っている男が居た。


 薄明るい闇の奥で。

 足を組み、ひじ掛けに腕を乗せて。

 下賤なものを見る眼差し。


 睥睨するレッドの目。

 頭から生えた、ねじれた2本の角。

 とがった爪でひじ掛けをトントンと叩いている。

 整った顔だちは人間に似ていた。

 青を基調とした、背中まで伸びたストレートヘア。

 黒と緑と紫が入り混じった、布製の衣装を着ている。

 肩や肘の部分だけ、金属のパッドで覆われていた。


「ようこそ。勇者諸君」

 やや甲高い声で、彼は言った。


「ウジムシ風情が王の間に入り込んでくるとは。アンタレスのヤツはなにをやっておるのやら」

 タメ息をつく。


「おまえが、魔王アークツルスか?」

 ペテルが剣を構えて、男に問う。


「王の前にして、不遜な輩よ。そうだ。わたしが魔王」

 男は。

 いや、魔王は玉座から立ち上がり自己紹介した。


「おまえの言うとおり」

 蔑する。

「我こそが魔王。アークツルスだ」

 蔑する。

「貴様らがここに来ることは予見していた」

 さらに蔑する。


 アークツルスは、玉座から立ち上がり。

 軍勢に歩み寄りながら言った。

 玉座からの段座を下りて、徒歩を勧めて。

 兵士たちの目の前に立つ。


 数名がここぞとばかりに、斬りかかる。

「バカ者どもめ」


 アークツルスはその攻撃を全てよけて、両手を瞬時に叩き込んだ。


「貴様らがそうくることは、わかっていた」

 斬りかかった者たちが。

 魔王が繰り出す手刀に貫かれて、次々と倒れていく。


 鎧すらも軽々と貫通していた。

 そこへ炎の塊が、氷の岩が、雷の矢が、死の言葉が、次々とふりそそぐ、


「そうくることは、わかっていた」

 アークツルスの魔法障壁。

 いや、魔法を跳ね返すバリアーが全身を覆っている。


「痴れ者どもめ」

 すべての攻撃魔法が跳ね返り、周囲の兵士たちが瞬く間に命を落とした。

 弓矢が、投石が離れたところから、雨あられと。

 魔王に向けて放たれる。


「そうくることも、わかっていた」

 アークツルスはすでに着地点には居なかった。


 除雪車のように、軍隊をかきわけて前方へ進む。

 片手を振りかざしただけで。

 兵士たちはまとめてなぎ倒され、体をバラバラにされた。


「愚か者どもめ」

 そして大砲のような魔法弾を何発も、絶え間なく繰り出した。


 逃げ惑うもの。

 死の間際に絶叫するもの。

 いちかばちか攻撃を仕掛けるもの。

 誰一人として、生き残るものは居なかった。


「貴様らが次に踏みしめるのは、地獄の大地だ」


 あらゆる攻撃を予見し。

 避けては跳ね返し、魔法弾と手刀で兵士たちをなぎ倒していく。

 その魔王の手刀が受け止められたとき。

 アークツルスは歩みを止めた。


 いわずもがな。

 ペテルの超新星の剣が、魔王の手刀をくいとめている。


「どうやら、攻撃だけは予見できるけど、こちらが防ぐ分は予見できないみたいだね」

「だから何だというのだ。きさまが攻撃しようとすれば我はそれを予見する。その攻撃をよけたとき、隙が生まれる。そこを突けば一巻の終わりだ」

 剣と手刀がせめぎ合っている。


「貴様が何者であろうとな。勇者ペテルよ」

「さすがは魔王様だ。最終ボスにたがわぬ強さだ。変身とかするのかい?」


「変身……? そのような能力は無いが。いまのままでも貴様ら全員を葬り去るチカラはある」

 追い詰められてから、真の姿をみせる。

 といった、ゲームとかではよくある設定は無かったようだった。


「そう都合よくあるわけないよなぁ」

 一度魔王と距離を取り、ペテルは考える。


 まあしかし特に奥の手は無いらしい。

 この魔王を倒すことができれば世界に平和が訪れる!


 倒せれば、の話だが……。


 すべての攻撃を予見するアークツルス。


 剣や斧の斬撃はかわし、弓矢や投石の遠距離攻撃はよける。魔法は防がれるか、場合によっては跳ね返される。しかも人間を紙くず同然に引きちぎる怪力で手刀を繰り出してくる。

 鎧兜など貫通してくる。

 装備などおかまいなした。


 防戦一方であった、ペテルたちであったが。

「アークツルス。お前は直前の光景が見えると聞く。その光景を見て僕らの動きを予測しているんだね」

「そうだ」

 アークツルス短く答えた。


「じゃあ、こういうのはどうかな?」

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