第41話 魔王城アンタレス攻略2

次々とわいてくる。

 ソンビやグール、はたまたワイトといった、死霊の魔物たちが。


 次々と、次々とわいてくる。

 わいてくる、という表現は、死を連想させるものなのだろうか。

 ウジ虫。ばい菌。害虫。カビ類。


 いや。

 腐食しているのだ。

 この空間自体が。


 とにかく切りがない。目の前に目の前に。

 また、目の前に。

 死せる魔物が、土くれから姿を現す。


 いいかげんにして欲しいな!

 ペテルは超新星の剣の、斬撃をまといながらアンタレスへと近づこうとした。

 だが、阻まれる。


 それは死霊の壁。

 ソンビたち。

 いまや、味方もゾンビと化して群がる、死霊の壁。


「なんとか、アイツに近づけないかなぁ……?」

 ペテルが、アンタレスを見据えて、そう言った。

「なにか、お考えがあるのですね?」

「よろしい。ならば、わたしが活路を開きましょう」

 そう言ったのはベガだった。


「どうやって?」

「このハルバードは、祝福の槍。一度だけですが、聖なる一撃を、相手に放つことができます」

 ベガと、ペテルは目を見合わせて頷いた。


 まずは中央突破!

「うおおおおおおりゃあああああっ!!」

 ベガがスピカが、そしてペテルが。

 武器を振りかざし、魔法を連呼して。

 アンデッドたちを縦横無尽に斬りさき、破壊し。

 突破し始めた。


「ほほう」

 アンタレスは、感心してその位置から動かずにいる。


 ペテルがアンタレスの目の前に飛び込む!

「ペテルどの!」

 ベガが両手を身構える。

 その手を踏み台にして。

 ベガがペテルを宙へ打ち上げる。


 ベガの力を借りて、上空へジャンプ。

「おおおおおおりゃああああああっ!!」

 超新星の剣を、アンタレスの頭上へ振り下ろした。

 金属音が鳴り響く。

 王冠が、意外に硬いッッ!?

 しかし、力任せに振り下ろす。


 振り下ろしたあとは、王冠を切り裂き。

 アンタレスの頭、上半分を砕いていた。

 アンタレスの背後に、ペテルは尻もちをついて着地する。


「クカ! クカカ! おみごと!」

 アンタレスが残った下あごで笑う。


「まだまだ!」

 ベガが、アンタレスに突撃する。

 ハルバードが。

 聖なる槍が、アンタレスの胸を貫いた。


「こいつが本命だ!!」

 至近距離からの、聖なる秘蔵の一撃!


「くらえ! ホーリーブレイク!!!」

 ベガがハルバードの秘めたる力を解き放つ。

 アンタレスに突き刺さった槍の位置が、爆心地となったように。

 まばゆいばかりの白い光が、爆炎のように広がり。

 部屋中へと広がっていった。


 白い光が、やがて消え去ったころには。

 周囲のアンデッドたちは、全て浄化されていた。

 ただ一人。

 槍に突き刺さった、アンタレスを除いては。


「ハ、ハハハァ……。こんな、奥の手があったとはな……」

 槍を掴み、後ずさりする。

 胸に刺さった、槍を引き抜いた。


「ば、ばかな……」

 ベガが、槍を構えたまま、呆然としている。


 来ていたローブは、崩れ落ち。

 骨と皮だけの、姿になったアンタレスは、

「わたしに神聖魔法は効かないのだよ」

 と、指を振った。


「お、おおおおお……」

 ベガが槍を構えたまま、打ち震える。

「残念であったな。本命の攻撃が空振りに終わって」


「いいやぁ。本命はこっちだよ」

 ペテルが背後にいた。


 なにか筒のようなものを持っている。

 近づいたとき、アンタレスから取り返した、ペテルのアイテムの一つだった。


 その、筒のようなものを、アンタレスの首筋に打ちつけている。

 プシュ。

 音がした。

 ペテルが後方へジャンプ。距離を取る。


「な、なんだ? なにをした?」

 アンタレスが、首筋を抑えて、ペテルの方を振り返る。

 ペテルは筒のようなものを持って、こう言った。


「なにって、注射したんだよ」

「注射……!?」

 聞きなれない言葉に、アンタレスはたじろぐ。


「『超高性能医療用ナノマシン』さ。死滅した細胞すらも復活させて、蘇らせるよ」

「な、なんだそれは!?」

「速度は一番早い1000倍速で設定しておいたからね。あっという間に体の中で増えて、君の細胞という細胞を復活させるよ。ゾンビにためしたことはないけど。さあ。どうなるか楽しみだ」


「ナ、ナノマシン……?」

 またもや聴き慣れない言葉。

 しかし効果というか、違和感はすでに現れているようだった。


「ああああああああああ!!」

 アンタレスが身体中を押さえて、震え始める。


「バカな、このわたしに感覚がッ!?」

 絶えきれず、地面を転げまわり始める。


「くすぐったい!くすぐったい! ああああああ! 痒い痒い痒い痒い!! なんだこれは! なんだこれは! なんだこれわあッッ!!」


 身体の内側から起こるむず痒い感覚。

 打ち込まれたナノマシンたちが、死滅したアンタレスの細胞を取り込んでは分析し再構築し、新しい細胞へと蘇らせている。


 ナノマシンは筋肉や皮膚組織だけでなく、神経組織、呼吸器、循環器、内臓、骨格、はたまた血液から脳細胞に至るまで、再生を行なっていた。

 地面を転がりながら、全身のむず痒さに耐えきれず嘔吐しはじめる。


 一通り再生が終わった後。

 アンタレスは泥まみれの身体を起こし。

 立ち上がった。


 そこには赤ん坊のような、細やかな肌の男性が立っていた。

「えへふあはふあははぁ」

 アンタレスは笑っている。


 生存本能のみの、純粋無垢な脳のためか。

 全身を埋め尽くす、おぞましい感覚に脳が耐えきれなかったのか。

 白亜の意識を持ったまま。

 時間も場所も自我さえ理解できていない。


 そして、自分の身に何が起こったのかも。

 次の瞬間。

 得体のしれない衝撃と激痛。

 視界が上に向かってスクロールする。


 アンタレスは自分の体を地面から、横になった視点で見上げていた。

 やがて途切れる意識。


 超新星の剣で首をはねられ。

 アンタレスはなにもわからないまま、絶命した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る