第40話 魔王城アンタレス攻略1

 ペテルたちの部隊は20番隊。


 他の21~22番隊も近くにおり、300人ほどで行動していた。

 その中で、とある部屋にたどり着いた。

 

 なんだ? 暗い部屋だな……?

 湿り気がすごい。そしてなんだか、臭い……!

 モヤがすごい。暗いし数メートル先も見えないような状態。


 全員が入ったとたんに、部屋の扉が閉まった。

 開くことはなく、閉じ込められてしまったようだった。

 暗く、だいぶ大きな部屋のようだった。


 兵士たちのざわめきが、私語が聞こえる。

 わざと大声を上げるものも居る。

 反響はなかった。

 だいぶ広い部屋ではなかろうかと、ペテルは推察した。


 湯気のようなモヤや、靄が立ち込めている。

 そして、異臭がする。

 いや、これは死臭か?


「うわああああっ!」

 遠くから叫び声が聞こえる。

 斬りあう音。

 切り刻む音。

 何度かの金属音。

 そして何かが倒れる音。

 聞こえる、悲鳴。


 それらが、少しずつどこかの周りから広がり始める。

 モヤと暗さのおかげで、遠くが見えない。

 しばらくして、別の部隊の隊長がペテルの近くへと来て、こう叫んだ。


「勇者様! アンデッドです! アンデッドたちに囲まれています!」


 叫んだ刹那、部隊長の周りの土が盛り上がり、ゾンビやグールといった敵が姿を現した。

「うおおおおおっ!?」

 部隊長がビックリして剣を構える。

 死体の魔物は部隊長に、重力に任せて関節が曲がる動きのまま、群がってきた。

 部隊長はそのままあわてて、剣を薙ぎ払う。


 助けに行こうとしたが、ペテル達の周りにもスケルトンやゾンビが姿を現していた。

 ベガがハルバードを振りかざす。

 スピカが火炎魔法で焼き尽くす。

 ペテルが、超新星の剣で切り払う。


 相手が恐ろしいのは、痛覚が無いことだった。

 斬られようが焼かれようが、行動不能にならない限り襲い掛かってくる。

 ゴーストやレイスといった、死霊の類も宙を飛んでいた。

 そのうちの一匹が、先ほどの部隊長に乗り移る。


「ぐっ! あっ? カカカカカッ!?」


 部隊長は身動きが取れなくなったようで。

 立ったまま痙攣し、剣を落とした。

 そこにゾンビたちが群がる。


 部隊長が、生きながら食われ始める。

 気持ち悪っ!?

 そのおぞましさに、ペテルは目を背けた。


「勇者様! 呪文をかけます!」

 スピカがペテルに向けて杖をかざす。

「フィーシード!」

 ペテルの体が、薄い光に包まれた。


「これは?」

「これでしばらくの間は、死霊の類に憑りつかれたり、体を乗っ取られたりされなくなりますわ!」

「ありがとう、スピカ!」


 スピカはうなずいて、ベガにも同じ呪文をかけた。

 やがて、ゾンビたちが食事を終えて次の獲物を探しに、またさまよい始める。


 応戦しながら、哀れな屍と化した部隊長をペテルは横目で見た。

 あんな死に方はしたくないなぁ。

 うえぇと、舌を出しながらそう思う。

 そこへ。


「キサマが、勇者とやらか……」


 しわがれた声が聞こえた。

 声のする方を向く。

 見えにくいこの空間でも、視認できる場所にそいつは居た。

 紫色のローブを着ている男だった。


 骸骨に薄い皮を貼り付けただけのような、骨と皮だけの身体。

 頭と手が服の外に出ていた。

 その頭には小さな王冠をかぶっている。

 額の部分には大きな赤い宝石が埋め込まれていた。


「どうだ? 我のシモベたちはどうだ? かわいかろう?」

 むき出しの歯をカチカチさせながら、そう言った。


「アイツは!?」

 ベガに問う。

「おそらく……、最後の四将校かと!?」


「そのとおり。初めましてだな。勇者御一行どの」

 男のくぼんだ両の眼下に、薄い光がともった。

「我こそは、四将校の最後の一人、アンタレス。アンデッドマスター、アンタレスだ」

 

 ついに出てきたか!

 ペテルはそう思い、

「おまえがアンタレスか! 僕は勇者……」


 ペテルと言おうとしたところで。

 数体のゾンビが襲い掛かってきた。

 ああ! もう!


 超新星の剣で応戦する。

 その中の一体のゾンビを切り伏せたとき。

 ベテルはギョっとした。

 そのゾンビは、先ほど食われて死んだ、部隊長のゾンビだった。

 お約束過ぎる!


 ペテルはそう思ったが。

 実際目の当たりにしてみると、これほど恐ろしい物もない。

 襲われて死んだ者は、ゾンビとして復活し、敵となり味方だった者を襲うのだ。


「勇者御一行よ、会ったばかりで申し訳ないが、魔王様の元へは行かせぬよ」


 アンタレスが、カチカチと歯を鳴らす。

 笑っているのだろうか。


「お前たちは全員ここで、屍となり土に還り。我の永遠の傀儡かいらいとなるのだ」

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