第39話 超新星の剣

 軍は隊を成して、魔王城へと進んでいたが。

 3分の2くらいまで進んだところで、軍隊は進むのを止めていた。


 一部の部隊が、軍から分かれて、山に向かっている。

 その舞台が戻ってくるまで、行進を止めている。

 その部隊は山を目指していた。

 山の頂上を目指していた。


 もちろん、魔王を倒すための武器を手に入れるため。

 超新星の剣を手に入れるためである。


 ペテルとスピカ。

 そして部隊を率いるのはベガ。

 部隊の人数は500人を超えていた。

 山には多数の魔物やモンスターがうごめいていた。


 スライム、ゴブリン、コボルド、ハーピィ、オーク、トレント、サーペント、オーガー、トロール、ガーゴイル、ゾンビ、スケルトン、フェンリル、ジャイアントスパイダー、グリフォン、ゴーレム、キマイラ、サイクロプスそしてドラゴンなどなど。


 だが、こちら500人。

 数匹の敵に対して、数十名で襲い掛かる。


 マンモスを狩る、原始人のように。

 大きな獲物をしとめる、軍隊アリのように。

 もちろん、回復呪文や攻撃呪文の使い手も多くいる。


 目的の頂上まで。

 勇者の墓に刺さっている剣を目指して。

 着いた頃には部隊の半数以上をを失っていたが。

 部隊はペテル一行を含めて、勇者の墓へとたどり着いた。


 墓は一つだけで、カノープスの言った通り、周りには結界が張られているようで、魔物やモンスターたちの姿は無かった。

 ペテルは一人、勇者の墓の前へと近寄った。

 墓の周りを囲むように、兵たちはそれを見守っていた。


 墓標に名前は書かれていない。

 墓標のすぐ前に、剣が突き立てられている。

 汚れや張り付いた苔などが、時間を感じさせた。


 だが、崇高な雰囲気は失われていない。

 錆びてもいなければ、どこか欠けている風でもない。

 柄を見ただけで、神々しさを感じさせる剣だった。


 ペテルはカノープスから受け取った籠手を着用し。


 剣に手を伸ばし。

 両手で柄を握り。

 一気に引き抜いた。


 剣が地面から抜き放たれる!


「軽い! これが、勇者が使っていた剣!?」

 ペテルが抜き放ったとき、歓声が沸き上がった。


 ためしにと、近くの岩に向けて振り下ろしてみた。

 吸い込まれるように、剣は岩の中を通過し。

 ナイフを入れたプティングのように、両断された。


 長年放置されていたとはとても思えない。

 劣化という言葉とは、無縁の切れ味であった。

 ペテルは、おおスゴイとその切れ味に驚き、刀身の部分を見た。

 太陽に反射して、まばゆいばかりに輝く。


「みんな! これが超新星の剣だあっっっ!!」

 ペテルが剣を天に向かって突き上げる。

 周りの兵たちの歓声が、拍車をかけて大きくなった。




 山を下りる時間は、登った時よりも早かった。

 下りなので、歩くスピードが早かったというのもあるが、超新星の剣の攻撃力がすさまじかった、

 

 来る敵来る敵を、ほぼ一撃で斬殺することができるのだ。

 切れ味が抜群すぎるので、そのままでは危ない。

 余っている鞘を適当に選んで、もらい受けた。

 その中に剣を収めている。


 本部隊と合流したのは、午後になってからだった。

 ベガの報告により。

 剣を無事手に入れた知らせを受けた軍団長は、報告を受けてから少し休憩を挟んだあと、軍勢を再出発させた。

 魔王城に近づくにつれ、魔物やモンスターは増えてきたが。

 軍勢はそれらをもろともせず。

 山からさらに1日かけて。

 軍勢は魔王城の前へとたどり着いたのであった。


 暗黒の城。 

 朽ち果てた城。

 暗雲が上空に渦巻いている。

 禍々しさと重々しさが見ているだけで伝わってくる。

 魔王の住む城にふさわしいビジュアル。


 まさにイメージ通りの城だなあ。

 と、ペテルは感心すらしてしまった。


 軍団長がペテルを前方へと呼ぶ。

 ペテルが皆の前に立ったあと、軍団長は声を張り上げた。


「今こそ魔王を討ち取るとき! 我々には勇者ペテル殿がついている! 世界平和をこの手につかみ取るのだ!!」

 士気が波を打つように、伝播する。

 軍団長の号令がかかる。


 魔王城へと、5000人を超える軍勢がなだれ込んだ。

 魔王城は当然のごとく迷路のように入り組んでいた。

 さらに、これまた当然のごとく、魔物や罠、様々な仕掛けも待ち構えていた。


 しかしそこは、さすがに5000人。

 数は徐々に減っても、確実に魔王城の中を突き進んでいく。


 だいたい100〜200人の部隊に分かれ。

 手分けして敵を撃破しつつ、正解ルートをさぐりつつ、城内を攻略していった。


 100名が揃って命を落とすこともあった。

 しかし、魔王城の攻略度合いに比例して、軍勢の数は減ってはいったが。

 魔王の元に近づいているのは、間違いなかった。


 ペテルとスピカ、そしてベガは同じ部隊にいた。

 これだけの人数で力押しで進めるなら、自分いらないんじゃないかなぁ?

 そんなことを、ちょっと思ってしまうペテル。


「ペテル殿、油断されてはなりませぬ」

 ベガがそんな考えに、感づいたようにペテルに語りかける。

「まだ、魔王の前に四将校の一人が残っておりまする」


 そうだった。

 まだ一人残っていたのだ。

 魔王の前に、うちたおすべき相手が。

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