第38話 北の魔王城へ
朝となり。
日もだいぶ高くなったころ。
王宮では、軍隊の招集が行われていた。
隊列を組み、規則正しく整列し、号令に返事をする兵隊たち。
勇者ペテルが、魔王城に乗り込むのだ。
ここぞとばかりに、王は国の戦力を。兵力を総動員した。
いままで、都市奪還のために兵たちを派遣したこともあったが、全て返り討ちにあってきた。
なので王は、三都市の奪還にはあえて兵を派遣しないでいた。
ある意味、ペテルは捨て駒だったのだが。
ペテルは見事、三つの都市の将校を討ち果たし、都市を開放してきてくれたのだった。
残すは北の、魔王城だけである。
もう兵力を出し惜しみする必要はない。
そう判断した王は、軍隊を出すという結論にいたったのであった。
しかし、それを止める者がいた。
占星術師のカノープスであった。
「王よ、いまひとときのご辛抱を」
カノープスは水晶玉を王に見せながら、
「星の神々も、いまはそのときではないと申しております」
「なぜじゃ。いまこそ魔王を討ち果たすために、全力を注ぐ時ではないのか? 勇者ペテルは、みごと3つの都市を魔王の手の者から解放してくれた。魔王の支配からこんどこそ、この世を我らの手に完全に取り返す機会ではないのか?」
「いえ、そのためには、魔王を討ち果たすことのできる、先代勇者が使っていた『超新星の剣』が必要かと」
「超新星の剣……」
ベガが顔を上げ、言葉を漏らす。
隣にいたペテルとスピカも、カノープスを見た。
カノープスは言った。
「勇者ペテルよ。先代勇者がなくなった墓に、その剣は刺さっておる。勇者が魔王を打倒したときに使っていた剣だ。そしてその墓はあの山の頂上にある」
カノープスは、サジタリウスから見える、北東の山を指さした。
「おお、その剣があれば、魔王を討ち果たすことができるのか……」
王は窓に歩み寄り窓から、その勇者が眠るという山の頂を見た。
「星々の神々も言っております。その剣が必要であると」
カノープスが再度王に告げる。
王はペテルに向き直って言った。
「ペテルよ、魔王討伐の前にその剣を取ってきてはくれまいか。おそらく、勇者でなければ抜けぬ剣なのであろう。魔王を討ち果たすには、その剣が必要なのだ」
カノープスからも声かがかる。
「ペテルよ、これを授ける。先代勇者が使っていた籠手だ。これがあれば、きっと超新星の剣を抜くことができる」
ペテルは、うやうやしくカノープスから、その籠手をちょうだいした。
自分でも、やや芝居がかっているな。とは、思いながら。
「勇者の墓の周りには結界が張られており、魔物は近づくことはできん。そこに至るまでが魔物の巣窟となっておる。しかし、軍を率いて魔王城に攻め入る今ならば、軍ごと勇者の墓までたどり着くことができるだろう。魔王城へ行く前に、超新星の剣を手にいれるのだ!」
カノープスがペテルに言い放つ。
王室内にどよめきが走り、それは歓声へと変わった。
翌日。
数百規模の軍隊が、隊列を組みサジタリウスから、出発をする。
歩兵隊、騎馬隊、弓矢体、投擲隊、魔法隊、食料隊、物資隊などにわけられ、草原の道を更新していく。
北の大地にそびえる、魔王城へは真っすぐ行けば二日ほどで到着するという。
しかしその途中、超新星の剣を入手するため、勇者が眠るという山にも寄らねばならない。
おそらく三日はかかるだろう。
と、ベガは話していた。
ペテルとスピカは、中央の騎馬隊にいた。
二人とも、兵を運ぶための馬車の中に乗せてもらっている。
ベガは、騎馬隊の副隊長として、先頭の方にいた。
スピカは、ペテルと姫の間に何かあったのではないかと、すぐれない表情だ。
だが、ストレートに聞くわけにもいかず、馬車の中でペテルの顔を見ては。
目が合おうとすると、顔を伏せる。
ということを、繰り返していた。
ペテルは、そんなことにはまったく意を介さず。
外を眺めたり、あくびをしたり。
ときどき、剣の手入れをしたり。
隣の兵士と話したりと、のんきなものだった。
そのうち、スピカの態度を気にしてか。
ペテルがスピカに話しかけてきた。
「なかなか壮観なものだねぇ」
軍勢を見て、ペテルは感心した。
「こういうのは、昔の映像でしか見たことなかったよ」
「えいぞう、ですか?」
スピカが聞いたことのない単語を聞き返す。
「ああ、いやいいんだ」
「それより、ゆうべはおそくまで、何かされておられたみたいですけど……」
「ああ、ちょっとね」
大切なアイテムたちが入ったカバンに目を移す。
ベネトナシュから取り返したアイテムは、実は二つあった。
そのうちの一つが、とても重要だった。
「魔王戦に向けての準備をちょっとしていてね。ついつい夜更かししてしまったよ」
まあ……。
スピカの表情が、柔和に色づいた。
昨日の晩は姫と過ごしていたわけではないらしい。
そして、魔王討伐の為に真面目に準備をしていたのだ。
少しでも疑いを持った自分を、スピカは恥じた。
感嘆の意を込めて、
「さすがは、勇者様ですわ……」
と、スピカはペテルに、改めて敬意を表した。
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