第34話 スコーピオン支配者ベネトナシュ攻略1
ペテルたちがついていくと、街中のとある食堂へと着いた。
というか、完全に酒場であることは、ペテルも入る前から感づいていた。
しかし入らないわけにはいかない。
内通者に誘われるままに、ペテル達一行はテーブルの席に着いた。
内通者はチョッキを脱いで、その細い身を重そうにふんぞり返って椅子に腰掛けた。
「おおい! この者たちに食事を!」
今度の内通者は、だいぶなんだか偉そうで。
ご立腹のようだ。
「ベガ……? どうしよう」
ペテルが困っているのを見て。
ベガがお任せあれと、胸を張って叩いた。
内通者が注文し、人数分の酒が運ばれてくる。
小さなグラスに透明な液体が入っている。
匂いを嗅いだだけで、不思議な気分になりそうだ。
キツイお酒だと印象だけで分かる。
これが噂に聞く、燃える水の酒なのだろうか。
「まずは、あなたがたを歓迎します」
内通者はそう言って、拳よりも小さなグラスを高く掲げた。
ペテルたちも、それに倣って、グラスを高く掲げる。
内通者はグラスをグイッと傾けて、中身を一気に飲み干した。
ペテルは酒が苦手だったので、形だけ唇をつけた。
それだけでも、いやな気持ちになった。
カハァ。と内通者が、焼けた息を漏らす。
ベガが、ペテルが飲めないのを横目で見る。
そのグラスを頂戴して、ペテルの分もベガが飲んでくれた。
「あなたがたをずっとお待ちしておりました」
内通者がうつろな目で言った。
「この町の物は、ベネトナシュの牙という牙にやられて、大半が石化し、残りの者も毒やマヒで死んでいきました……」
内通者の近くに、ボトルが置かれる。
彼は手酌でそれをグラスに注ぎ、酒をあおり始めた。
「だ、大丈夫ですか?あまり飲みすぎになられない方が……」
スピカが心配して、止めに入る。
「大丈夫です。大丈夫です。あなたがたがもっと早くスコーピオンを訪れてきてくれてれば、私の妻も死なずに済んだかもしれないのに……」
内通者の男が、グラスに酒を注ごうとする。
その手をベガが止めた。
首を横に振る。
もう止めておけ、という意思表示。
男はボトルを置き、体を震わせ始めた。
「ベネトナシュは、ベネトナシュは! 領主の館の二階にいます……。実はこれから、アイツの館に仲間と討ち入ろうと思ってたのです。ですが、あなたがたに任せた方がよいのかなと……。しかし俺は妻の敵を討ちたい! ですが、もう! もう、どうしたらいいのか、分かりません……!」
「安心しろ。我々が、勇者ペテル殿が、きっと敵を!」
ベガが男の肩に手を乗せた。
そんな時ではあるがペテルは小声で、スピカに、
「ねぇ、なにかお腹にたまるものが食べたいな。注文したらダメかな?」
「勇者様、もう少し我慢なさってください。そういう雰囲気ではありませんわ」
口を尖らせて、ペテルは引き下がった。
「仲間たちは、もう討ち入りに行っているかもしれない。お願いです。ベネトナシュの館に行って、彼らを助けに行ってはくれませんか?」
「無論!」
ベガが槍を手にして立ち上がった。
続いてスピカも杖を手にして立ち上がる。
ペテルはやれやれと言った風に、若干重い腰を上げて。
まあその為に来たんだからな。
と、思った。
干し肉や乾燥野菜の非常食ような食べ物を口にし、ペテルは多少空腹をまぎらわすことができた。
ベネトナシュが住む、館へと進む。
魔物やモンスター達に見つからないように、街の中を進む。
天か、はたまた星の導きが味方したのか。
強い風が度々吹き荒れ、砂ぼこりが舞ってペテルたちの姿を隠した。
「ここがベネトナシュが居る、元村長の館です」
白く、つなぎ目のない壁でできた屋敷だった。
「ベネトナシュは二階に居ると思います」
内通者は二階の窓を指さした。
「どの部屋かとか分かるかい?」
裏からなら。
と言うので、四人は裏手へと回った。
あそこです。
五つあるうちの窓の、ちょうど真ん中を指し示す。
内通者がそう言った途端、その真ん中の窓が割れ!
一人の男が落ちてきた。
鈍い音を立てて地面に落ちてきた男は、血を流し泡を吹いていた。
内通者の男が走って近づく。
ペテルたちも、後を追って近づく。
「デレク! デレクじゃないか!」
内通者の男が、落ちてきた者の名前を叫ぶ。
デレクと呼ばれた男は泡を噴いているだけでなく、ケイレンもしていた。
目が白黒と、せわしなく動いている。
抱き起こそうとしたとき、全身の力がスッと抜けたように動かなくなりピクリともしなくなった。
「おお、デレク……。魂は星々の、シリウスの神の元へ……」
デレクの手を握り、無念そうに膝まづく内通者。
デレクの死と、魂の行く末に祈りをささげる。
内通者の男は涙を溜め、真ん中の窓の下へと戻った。
そして、懐からロープを取り出す。
「あそこから侵入します」
ロープの先には、カギ爪がついていた。
先端を回して、割れた窓に目掛けてカギ爪を投擲する。
一発で、窓の淵にカギ爪が引っかかった。
グイグイと引っ張り、強度を試す。
しっかりと引っかかっているようだった。
「大丈夫です! 行きましょう!」
内通者の男が先に登り始めた。
ペテルたちも、その後に続いて登って行った。
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