第35話 スコーピオン支配者ベネトナシュ攻略2
登った部屋では、ベネトナシュと男性二人が交戦中だった。
ペテルたちは窓から一人ずつ入ってきたが。
ベネトナシュはそれをギョロリとした目で一瞥したあと。
意に介さないといった感じで、目の前の戦いに目を向けた。
何人増えても同じことだ、とでも思っているのだろうか。
剣を持った男と、杖を持った男と向き合っている。
男性二人は、部屋の入口。
扉を背に、ベネトナシュと戦っている。
「ハリス!」
剣を持った男が、内通者の男が入ってきたのを見て。
彼の名を呼んだ。
内通者の男はハリスという、名だった。
剣を持った男は、ハリスの姿と一緒に入ってきたペテルたちの姿を見て、ほくそ笑んだ。
「ベネトナシュ! 貴様の命運もここまでのようだぞ!」
しかし相変わらずベネトナシュは意に介さない。
頭と両腕の、蛇の頭から舌をチロチロとのぞかせながら。
じりじりと剣を構えた男に近づいてくる。
「助けが来たからって、何だというのさ……。アタシの牙にかかれば命を落とすか石になるか……。どの道、動かなくなること以外に選択肢はないのさ」
「おおおおおっ! 御曐様のご加護を! シリウス様の御加護ををっっ!!」
剣を何度か素振りし、男は剣を構えなおす。
太刀筋は素人目から見ても、何かの訓練を受けた者の軌道だった。
ベネトナシュはさらに男に近づく。
危ない!
スピカが呪文を唱えようとした。
待って。
スピカの行動を、ペテルが制した。
アイツにも呪文が効かないかもしれない。
詠唱を途中でやめて、スピカが杖を握りしめる。
それに彼は 御曐様に自分の功績を認めてもらいたい。
そんな気がするよ。
あの目を見てごらん。
剣を持った男の目は、陳腐な表現で現すならば闘志で燃え上がり。
他の者は手を出すな、といった意思表示がオーラのように漂っていさえする感じがした。
やはりベネトナシュは、そんな茶番を意に介さない。
蛇の顎を大きく開けて、男に襲い掛かろうとする。
「俺がやられたときは! どうかあなた方! どうかベネトナシュを!」
彼は目の前の、蛇の魔物に剣を振りかぶった。
剣は、鋭利に加工された鉄の切っ先は。
ベネトナシュの頭に食い込んだ。
意外にあっさりと攻撃が通り、男は一瞬たじろいだ。
ベネトナシュの頭を半分ほど切り刻む。
やった!? やったのか!?
ベネトナシュの半壊した頭の一部が床に転げ落ちる。
その床に落ちた一部分が、一瞬にして何匹もの蛇へと変化した。
「ヒイッ!」
それを見て、男は剣を抜き後ずさりする。
見れば、斬ったはずの頭の傷口からも無数のヘビが顔をのぞかせている。
「アタシの美しい顔になんてことをするんだい」
ベネトナシュは薄く笑って、さらに男に迫った。
「うおおおっ! おのれ!」
男は剣を立て一直線に構え。
踏み込む。
と同時に袈裟斬りにする。
剣は鎖骨から横腹にベネトナシュの体を通過し。
左側の肩から腕ごと切断した。
切断した部分が床へと落ちる。
それが、一瞬にして無数の小さな蛇へと変わる。
先ほどと同じように。
斬ったはずの頭の傷口からも、無数のヘビが顔をのぞかせている。
そして、その全ての蛇が男に襲いかかっていた。
大中小、様々な大きさの蛇たちが男に噛み付いていた。
まとわりつかないように、男は剣を振り蛇を切り刻む。
しかし、大きな蛇を切り刻めば。
小さな蛇へと分解するだけだった。
「うわぁっ! うわあっ! うわああああーーっっ!」
男が無我夢中で剣を振りかぶる。
もはや型も剣技も関係なく、やみくもに剣をふるう。
そのたびに、ベネトナシュの体が切断され、一部が床に転がる。
その肉片全てが、無数の蛇へと変化した。
蛇たちは、床を這いまわり、男を攻撃したあと。
またベネトナシュの体へと戻っていく。
「無駄だねぇ。アタシの体は、数え切れないくらいの無数のヘビでできているのさ。切り刻んだところで、小さな蛇が増えるだけ。アタシに斬撃とかは効かないのさ」
そう言いながら、剣の男の首筋に噛みついた。
今度は素早かった。
ベネトナシュが男から口を離すと。
恐怖の表情のまま男は動けなくなった。
噛まれたところから石化が始まる。
「ハ……、ハリス……」
首は動かせず目だけ、杖を持った男とハリスの方を見て。
すがるような、後悔するような眼差しのまま。
やがて男の体は、全身が石化した。
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