第32話 ライブラ支配者アルデバラン攻略5

「き、きさま! この臆病者め! これはどういう魔法だ!?」


 ペテルはアルデバランに聞こえるように大声で言った。

「魔法じゃなくて、科学だよ。アルデバラン。君の体は磁石にくっつく体質だ。磁石化した鉄をばらまいたとき、そう確信したよ」

 アルデバランには何を言っているのかわからない。


「くそおおおお、このような魔法、チカラづくで振りほどいてみせるわあああああっ」

 鉄の壁に貼り付けられたまま、力任せにもがいて見せる。


 ビクともしない。


 アルデバランは、力くらべで蹂躙されているこの状況に、少なからずゾッとした。

 なにか得体の知れないものと戦っているような気さえした。


「うおおおおおおっ!? 動かぬ!? どうなっているのだ? この魔法はどうなっているのだああああっ?!」

「だから、魔法とかじゃなくて科学なんだって」




 ペテルがアルデバランに最初に放った鉄の棒は実は磁石だった。

 アルデバランの身体が、磁石にくっつく体質かどうかを、まずは試したかった。

 それには磁石が必要だった。

 だが、鉱山ならばあるかもしれないと思っていた、天然の磁石は内通者のドワーフの家には無かった。


 だから作ったのだ。

 磁石を。


 電気の魔法を応用して、作る方法もないではなかったが、コイルが必要だった。

 コイルを作るには、ちょいと手間がかかる。

 ペテルは手っ取り早く磁石を作る方法を選択した。


 鉄の棒を南北に向けて、ハンマーで端を何度か強く叩く。

 立体的に南北に向けるのがコツだ。

 惑星の磁場を利用した、磁石を作る方法だった。

 鉄の棒は磁石になった。

 それらをアルデバランに投げつけた時、それらは体中にくっついた。

 それを見て、ペテルは確信した。と、いうわけだ。




 黒い壁。つまりは巨大な鉄板の後ろには、巨大なコイルがくっつけられている。

 コイルから発する電磁波が、この巨大な鉄板を『電磁石』へと変えているのだ。

 電力は、ペテルがボルックスから奪った装置である。


『半永久稼働型超電力バッテリー』


 出力は調整できるが、今は最大出力のギガ電子ボルト級の電流をコイルに流し、鉄の壁を電磁石化している。

 ちなみにジュール熱を抑えるために、スピカが壁の後ろで冷却魔法を浴びせ続けている。


 その磁力、およそ18テスラ!!


 ペテルの星でははるか昔、磁力で車両を浮かして動かす列車が、街中を走っていたというが。

 その仕組みに使われていた磁力が、およそ1テスラだという。


 車両を浮かせ、そのまま移動させることに使われていた磁力が1テスラ。

 単純にその18倍の磁力。


 アルデバランは全く動けない。

 武器である戦斧も、からめとられ黒い壁にくっついている。


「ぐぬおおおおお……。この俺をどうする気だあああ……」

 壁に貼り付けにされながら、アルデバランが聞いてくる。


 ペテルは坂道を折りて、アルデバランに近づいてきた。

 もちろん、くっつきそうな金属類は外してある。

 そして、アルデバランの腰にぶら下がっていた袋のなかに手を突っ込んで、あるものを取り出す。


「返してもらうよ」


 ペテルが探していた、アイテムの一つであった。

 ペテルが満足げな軽い足取りになり、下ってきた坂道を登っていく。


「そ、それはくれてやってもいい。し、しかしこの状態でやられるのは屈辱以外の何ものでもない。どうか、最後に戦士として正々堂々と戦うことを望む……」

 観念したのか、はりつけにされた状態でガックリとうなだれるアルデバラン。


 その声が届いているのか、いないのか。

 ペテルは坂道を登りきり、一番上へと到着した。

 そうして坂の上に、巨大な鉄の球を持ってこさせた。


 プカプカと浮いている。

 下に反重力装置がくっついていた。

 コレのおかげで、楽に運んでこれたのだろう。


 表情は変わらないし、体に血液が流れているわけでもないのだが、アルデバランは全身の血が引くのを感じたようだった。


「お、おい……。それはなんだ?」

「なにって、鉄の球だよ」

「そ、それをどうする気だ……?」

「どうって、君にぶつけるね」

「き、貴様正気か……? そんなことをしたら」

「うん、君たぶんペシャンコだね」


 ペテルはそう言いながら、鉄球の方向を変えて反重力装置を外す。

 ズズゥン、と鉄球が一気に。

 地面に沈むように落ちる。


「直径200cm。鉄の比重は約7.85だから、3万2千8百トンオーバーの鉄の塊だよ」


 ペテルが鉄球を撫でながら答える。

「ちなみにドワーフ君たちは、一晩でこれを作り上げてくれました。いやあ、スゴイねドワーフ。やったねドワーフ。尊敬するよねドワーフ」

「まさかそれをっ?」

「うん、ここから転がすね」


 坂道の頂上から。

 ペテルが、ドワーフたちが、隣にいたベガが鉄球を押す。

「や、やめろおおおおっっ!!」

 アルデバランが叫ぶ。

 もちろん身動きは取れない。

 鉄球が坂道を転がり始める。


 坂道は両側が壁で覆われており、間違っても横道にそれることはなさそうな地形であった。

 そんな坂道を。急な坂道を。黒い鉄の塊の球体が転がってくる。

 黒い塊がゴロゴロと音を立てて転がってくる。

 加速してくる。加速してくる。加速してくる。


「やっ! やめろおおおおおおうっ! それでも勇者か! 勇者というのはだな!」

 加速と回転を増した鉄球がアルデバランの直前に向かってくる。


「うああああああーーっ! ベネトナシュ! 魔王様ああああああああっ」!


 金属と金属と金属が、激しくぶつかり合う音が鳴り響いた。

 ペテルたちは、耳を塞ぐ。


 鉄球は壁をなぎ倒し、鉄板の後ろのコイルを破壊し、数十メートルは転がり、そこで止まった。


「アルデバランは?」


 アルデバランは紙に張り付いた押し花のように。

 鉄の板にくっついたまま、鉄球に伸され潰され。

 無様にひしゃげて横たわっていた。

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