第31話 ライブラ支配者アルデバラン攻略4

 爆破のあとの、煙か砂ぼこりか。

 両方入り混じったと思われる、もうもうとした煙が晴れるまで、しばらくの間かかった。


 瓦礫の山と化した屋敷だった破片の中に、数十体の魔物の腕や足が見え隠れしているのがわかる。

 恐らく、屋敷内にいた魔物たちだろう。

 ピクリとも動かない所を見ると、全員命を落としているらしい。

 その中で、瓦礫の中心部だけ何かが動いていた。


 瓦礫の中から銀色に光る鎧が立ち上がり、姿を現した。


「どこのどいつだ……、この俺の大事な屋敷を粉々にしおってからにいいいいいっ!」

 瓦礫をまといながら立ち上がり。

 戦斧を力任せに振りかぶり、側の崩れ落ちなかった柱に叩きつける。


「怒ってる怒ってる」

 ペテルは物陰から覗いて、口に手を当て笑っていた。

「でもやっぱり、ダメージは負ってないようじゃ」

 ドワーフの一人が、アルデバランを遠目で見てそう言った。


「ああ、うんまあ。想定内だよ」

 ペテルはそう言って、君たちは先に戻ってて。

 と、ドワーフたちに帰るよう伝えた。


「勇者どの、大丈夫ですかい?」

「まあね。いいから、魔物たちに見つからないように帰るんだよ」

 心配そうなそぶりを見せつつも、ドワーフたちは来た道を戻っていった。


 彼らが見えなくなった後で、ペテルは物陰から姿を現して、こう叫んだ。


「オオーーーーッイッ! へっぽこアルデバランーー!! お魔の屋敷を爆破してやったのは、この勇者ペテル様だぞーーッ!! 悔しかったら、ここまで来て僕を倒してみろーーッ!!」


「ぐぬうううううっ!! 貴様か! 貴様か!! この勇者の名を騙る卑怯者がああああっ! この俺を怒らせてどうする気かは知らんが、今度こそ殺す! 殺す! 殺すうううううっ! いいから、殺す! とにかく、殺す! 死んでても殺す!! そこを動くな! 肉塊にしてやるわああああっっ!!」

 激情の塊と化したアルデバランが、戦斧を担いで猛進してきた。


 待っていろと言われて、ペテルはその場で待たないタイプだった。

 ましてや、殺されそうだったら。

 まともな思考の持ち主なら、誰だって逃げる。


 ペテルも例に漏れず、ワザとらしく叫んだあと一目散に逃げだした。

 町の中を通らず、抜け道をかいくぐるように走って逃げる。


 立体の迷路のようなライブラの町を。

 抜け道を通り道を、すたこらさっさと逃げる。


「逃げるなああああっ! この卑怯者めが! 臆病者めがああああっ!」

 アルデバランが追いかけてくる。

 執拗に追いかけてくる。


 ライブラの町の迷路のような抜け道を登ったり降りたり、ときには直角に曲がったり。

 とにかく角を曲がり、坂を登ったり降りたりしつつペテルは逃げ惑う。


「ぐぬおおおおおおうっ! 逃げるな! 逃げるな! それでも勇者かああああっ!」

 アルデバランが怒号を発しながら追いかけてくる。


 しかし、ペテルのほうが素早かったのか。

 はたまた、この町の地形が複雑だったのか。

 アルデバランはとうとう、ペテルを見失った。


「く、くそう!」

 怒りに任せて、近くの家の壁を力任せに打ち砕く。

「ハァ……、ハァ……」

 左手を近くの壁についた。


 左側の壁はダンジョンの壁ように連なり、遠くまでつながっていた。

 上には空が広がっている。


 石やレンガでできた、壁に手をついている。

 その壁が伸びている途中に、一部だけ黒いブロックの壁があった。


 一つだけ、その黒いブロックがあることにアルデバランが気づく。

 アルデバランは違和感を感じて、そこまで近づいてみた。

 そして、その壁を少し離れて眺めた。


「なんだ? ここだけ、色が違うな……?」

 アルデバランが壁の近くに歩み寄る。


 黒い壁は他の壁と同じ高さ。

 約二メートル程度の正方形の、重量感がある壁だった。


 そこから、いきなり音がした。


 カーンカーン。カーンカーン。

 乾いた音だった。


「なんだのだ、この壁は……?」

 アルデバランが壁に近づき、手を置き触れてみた刹那。


「いまだよ!!」

 ペテルの声が飛んだ。


 途端に、アルデバランは今まで自分の身に受けたことのない衝撃が、体全体を襲うのを体感した。


「ぬぐおおおおおっ!? なんだぁっ!? これわああああっ!?」


 体全体が、黒い壁に引き付けられていた。

 アルデバランの体は、黒い壁とくっつき、ものすごい力で固定されてしまった。

 横向きに身体が固定される。


「か、からだが動かぬ! なんだこれはああああっ! どういう魔法なのか!? 魔法ならばこのおれのアンチマジックのスキルでうち破れぬはずはないのにいいいいっ!!」


 壁に貼り付けにされたまま、アルデバランが叫ぶ。

「いやあ、これは科学だからね」


 黒い壁の正面に、百メートルほどの急な坂。

 その坂の頂上にペテルはいた。


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