第29話 ライブラ支配者アルデバラン攻略2

 翌日、朝食を済ませ、屋敷へ向かうため準備をする。

 装備を整える前に、ペテルは内通者のドワーフから何かを受け取った。

 それは数本の、短剣くらいの大きさの鉄の棒とハンマーだった。


 ペテルはそれを持ってドワーフと一緒に別室へ閉じこもった。

 なにやらその部屋から、ガチンガチンとした金属音が鳴り響く。

 その音が鳴り止み、しばらくして扉が開く。

 ペテルは、何かが入った麻袋を下げて出てきた。


「準備ができたよ。さあ、行こうか」


 アルデバランの屋敷へはそう遠くはなかった。

 敵と戦うのは、労力以外の何物でもないので避けて通るために、抜け道を歩いている。

 内通者のドワーフとは、別のドワーフが案内してくれている。

 町のいたるところに張り巡らされた、トンネルのような抜け道。

 炭鉱へと続く通路でもあるのだそうだ。


 ライブラの町並みは、石を削って作ったような家々が立ち並んでいた。

 道路は石畳みで綺麗に整備されている、石やレンガで造られた町。

 そして、坂や階段が多い。

 ペテルたちが今通っているような、トンネルも多かった。

 山が近いためか、斜面を削って平らにした部分に家が建っている。

 そんな風景の街だった。


「アルデバランの屋敷は、町の一番上にありまする」

 案内人のドワーフは言った。

 今は町の中腹あたりか。

 階段や、坂道を登って行った頂上に、屋敷がそびえ建っているのが見えた。


「けっこう、登るんだねぇ」

「勇者様、お疲れですか?」

「いやぁ、疲れているわけじゃないんだけど」

 そう言って、屋敷まであとどのくらいなのかを黙視する。

「抜け道を通っていけば、あとひといきふたいきで着きまする」

 案内人が先頭から声をかける。

 街中にも、魔物やモンスターがうろついていたが、隠れる場所も多く。

 彼らの目を盗んで屋敷の前までたどり着くことができた。


「ここかぁ」

 屋敷の前で、ペテルは汗をぬぐった。

 剣を杖代わりにして、階段や坂道を登ってきたのだ。

 スピカから水筒をもらって、中の水を半分くらい飲んだ。

 少し元気を取り戻す。


「アルデバランは戦士ですから。望めば1対1の戦いも受けてくれるかと思います」

 案内人のドワーフは言った。


「それじゃ、呼び出してみますか」

 四人は屋敷の前に立つ。

 ペテルが前に出て、準備はいいかい? と、皆に聞く。

 三人がうなずくのを確認して、ペテルは大声を出す。


「アルデバラーンッ! 出てこい! 勇者ペテルが、貴様を倒しに来た!! 貴様が戦士なら、サシで僕たちと戦え!!」

 屋敷を前にして、剣を抜いて果敢に叫んだ。




 そのままの姿勢で、ペテル達はしばらく身を構えていた。

 前方の屋敷の扉が観音開きに、大きな音を立てて開く。


「貴様か! 自分を勇者だと称する、命知らずの愚か者は!」

 銀色の鋼鉄の体。

 二メートルを超える巨躯。

 巨大な戦斧を抱え、四本足で躍り出る。

 下半身が馬、上半身が人間の動く鎧。

 意思を持ったプレートメイルである。


「あれが、アルデバラン……」

 スピカが、後方で息をのむ。

「ペテル殿、お気を付けて!」

 ベガが、ハルバードを握り締めてペテルに注意を喚起する。


「大丈夫だよ。とりあえず、打ち合わせ通りに動いてくれ」

 剣を構えたまま、ペテルが答える。

 後方で二人はうなずいた。


「一人で来てくれて嬉しいね! こっちは三人がかりだってのに」

「フアハハッ! たかが三人で俺を倒せるとでも思ってるのか? そのチンケな剣で? たわいない魔法で? 貧相な槍で? バカめが! 貴様らではカスリ傷一つこの俺につけられんわ!」

 アルデバランが身構える。


「いくぞ! 地獄で後悔するがいい!」

 屋敷の前の広い庭で、戦闘は始まった。


 アルデバランが突っ込んでくる。

 戦斧を、薙ぎ払うように大きく振るう。

 ペテル達三人は、逃げるように大きく回避。

 三人が散り散りになる。


「おお、怖い怖い」


 かすっただけでも、致命傷を負いそうな攻撃だ。

 さすがは将校の一人、といったところか。


 ベガが雄叫びを上げて横から、槍で刺突。

 しかし、鎧には突き刺さらず、跳ね返される。


 多少の引っかき傷のようなダメージは与えることができたが。

 徐々に傷は塞がり、元へと戻った。


 長期戦は不利と判断。

「スピカ!」

「ジメール!!」


 スピカが放ったのは岩の呪文。

 アルデバランの足元が、大きく崩れる。

 そこだけ地割れができたように、大きく穴が開く。

 そして、大きな岩が空中から降り注いだ。


「バカめが!!」

 足が埋まり、動くことはできないが、降りかかる岩を、戦斧で薙ぎ払い叩き割る。

 岩の雨が止むと、アルデバランは戦斧を振りかぶり、スピカに向かって投げた。


「あっ」

 ギロチンのような刃が一直線にスピカに迫る。


 ガギィイインッ!

 と金属音。

 大盾を持つベガが、それを跳ね返したのだ。

 しかし、当たったところが歪んでいる。

 なんども、攻撃を耐え切れそうにない。


「勇者様!?」

 スピカがペテルの方を見る。

 アルデバランが動けない間。

 ペテルは麻袋から何かを取り出し、アルデバランに投げつけていた。

 それは今朝、隠れ家を出るときに持ってきた、何本かの鉄の棒であった。

 そんなものが、アルデバランに効くはずもない。


 しかし、投げた後の結果を見て、ペテルは満足そうだった。

「スピカ、もういいよ!」

「はい、勇者様!」

 スピカが杖を構え呪文を唱える。


「ダークスモーク!」


 灰色と紫が入り混じった煙が、もうもうと立ち込め始める。

 あっという間に、まわりは煙幕に包まれ見えなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る