第22話 将校登場

 都市を取り戻すには、その都市を支配している将校を倒せばよいらしい。


 モンスター達は、基本的に自分より強いものに恐れを抱き、逆らう事はないらしい。

 町にもモンスターは居るが、将校を倒した強さや証を見せ付ければ、モンスター達は逃げ帰るということだ。

 モンスターの他には、主にその都市には、将校が生み出した魔物たちが徘徊しており。

 将校を倒せば生み出した魔物たちは、消滅するということだった。


 最終的に魔王を倒せば、魔王が生み出した魔物たちは消滅し、元から居たモンスターたちは支配から解放される。


 ところで将校が生み出した魔物に支配されてはいるが、町の人々は生きているとの事だ。

 ただし服従を誓わされ、強制的な労働を強いられたり、食料や財産を奪われたりされているらしい。


 ペテルはとにかく、将校たちが持っているはずの、自分のアイテムが気になった。

 とにかく、そいつらを倒して盗まれたモノを早く取り返したかった。

 しかし、その将校たちがどんな奴らなのかをまずは知りたい。

 ペテルはカノープスに尋ねた。


「ひとまず、そのボルックスというのはどういう敵なのですか?」

「ボルックスは、一輪車にまたがった道化師のようなヤツだ」

 カノープスが語る。


 一輪車?

 バランス悪そう。

 あんまり強そうなイメージが沸かないなぁ。


 ちょっとたいした事なさそうだな、とペテルは思ってしまった。

 カノープスの鷹のような目が、察したようにペテルを睨んだ。

「将校たちを、甘く見てはいけない」

 カノープスは、ペテルの心の中を見透すかしたように彼に言った。




「勇者を甘く見てはならぬ」


 玉座から、威圧的な声がこだました。

 ここは魔王城。

 暗黒の地。邪悪の巣窟。聖なるものとは反対側の者たちが集う場所。

 魔の居城である。


 階段の上の玉座から魔王の声が、響く。

 階段は長く、魔王の姿は階段上の黒い霧に隠れていてよく見えない。

 階段の下には3人の、いや3匹。いや3体か。

 異形の魔物3体が、膝まづいていた。


「いえしかし魔王様。私の情報では勇者は名前だけで、たいした功績はあげていないかと」

 一輪車に乗ったまま、うやうやしく頭を下げている道化がそう答える。

 仮面をかぶっているので、表情は分からない。

 そして頭を下げている間も、この魔物はジャグリングをかかさない。


 道化師の頭上では、剣が、玉が、カードが。

 くるくると忙しく、それでいて休まることなく輪を描いて宙を舞っている。


「そうそう、勇者なんてたいした事ないわ」

 口まで裂けた、鱗に覆われた人の顔。

 頭に細いヘビの髪がわしゃわしゃと蠢いている。

 太いオロチのような胴体。

 両手先にも蛇の頭がついた女が、二本に分かれた舌をチロチロと出しながら言った。


「まったくだ! 魔王様は勇者を過大評価なさっておられる!」

 巨大な戦斧を携えながら、全身鎧の騎士が立ち上がり腕を組んだ。

 騎士の下半身は馬の形をしていた。

 もちろん馬の部分も、鎧でできている。


 前足を果敢に踏み鳴らす。

 全身鎧に包まれた、伝説の半人半馬ケンタウロスといった姿だ。

「まあ、待てアルデバラン」


 魔王から制され、アルデバランと呼ばれた、鎧の半人半馬は再度膝まづいた。

「勇者をあなどってはならん。だが、様子も見たい。ボルックス。どうやら貴様が支配している都市に向かうようだ」

「アクエリアスへ、ですか」

「そうだ。アクエリアスへ、至急戻れ。そこで勇者を迎え撃つのだ」

「ハッ! 承りました!」

 ボルックスが、一輪車に乗ったまま、うやうやしく敬礼する。

 我が、都市まで飛ばしてやろう。

 その言葉の後に。

 ボルックスが、その場からピシュンと音を立てて消えた。


「勇者殿ネェ。かわいい顔してるっていうじゃない。アタシが可愛がってあげるのに……」

 ヘビ女が、舌をチロチロと出しながら笑みを浮かべる。

「口を慎め、ベネトナシュ」

 魔王が注意し、ヘビ女ベネトナシュはハハッと、頭を下げた。


「まあよい。とりあえず、ボルックスに任せるとしよう。お前達、下がってよいぞ」


 アルデバランと、ベネトナシュは短く了解の意を唱え、魔王の玉座の元から去って行った。


 3体の魔物は居なくなった。

 魔王は玉座に腰を落ち着けたまま、

「勇者か。我と同じく死んだと聞いていたが……。星の導きによりまた現れるとはな……」

 と、ひとりごちた。

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