第23話 アクエリアス支配者ボルックス攻略1

 東の都市、アクエリアスは海に面した土地であり。

 サジタリウスから一番近い山から海へと流れる川も近くに流れていた。


 水が豊富で港があり、漁師たちの使う船が多く停泊している。

 漁業が盛んな土地らしかった。

 都市のいたるところに水路が整備されており、大きな水路だとゴンドラのようなものも見えた。


「きれいな町ですねぇ」


 街中に入ったスピカは、素直な感想を漏らした。


「だが、この美しい町も、今は魔王の手下の手に落ちておる。嘆かわしいことだ」

 そう答えたのは、鉄の鎧に身を包んだ、騎士風の男だった。


 口ひげを生やした年配者であり、歴戦のもののふといった印象を受ける。

 身長ほどの、先が3又に分かれたジャベリンを持っている。

 槍はその反対側も矛先がついていて、尖っている。

 両側の端の穂の部分に、攻撃部分がついている槍だった。


 道案内も兼ねて、占星術師カノープスから、この旅に同行するよう言われて仲間に加わった男だった。


 名をベガ、という。


 王都では随一の槍の使い手だという。

 一分隊の隊長を任せられているという話だ。


 3人は、街中を堂々と歩いているわけではない。

 町の中の内通者を通じて、とある建物の中の窓から、町の内部の様子を伺っている。

「ベガ殿の言うとおりです。毎日、ボルックスは、私たちが漁獲した量の3分の2を収めろと言って来ます。また、私たちが飲んだり使ったりする一日の水の量も制限してきます。それ以上は高額なお金を支払わないといけません。逆らえば、ボルックスのカードや剣が飛んできます」

 建物の中にかくまってくれている、内通者の男が支配されている内容を伝えた。


「なんてヒドイ……」

 スピカが、手で口を覆う。


「早く、ボルックスを倒し、この町の人々を解放してやりたい所だが……」

 ベガが、窓から数件先に見える、一つの屋敷を見やる。


「まず、あそこまで辿りつかねば、ボルックスと戦う事すらできん」

 辺りの民家より、一際大きく一際立派な屋敷が視線の先にあった。


「あの、建物の中にボルックスが居るのですか?」

 スピカが尋ねる。


「ええ、はい。元々はこの都市の市長の屋敷だったのですが、市長が殺されてからはボルックスがあの屋敷に居座っています」

 内通者がそう答える。


「ふーん、そっかぁ」

 ペテルも、窓の外から屋敷を眺める。


 僕はボルックスが、どんな姿でどんな戦い方をするのかが見たいな。

 でないと、対策が立てられないよ。


 そう思いながら、視線を下に落とす。

 民家の下には整備された道路が広がって伸びている。

 道路の中央には川が。

 大きな幅の水路が流れている。

 そういえば、街の中は道路に沿って至るところに。

 入り組んでいるように、水路があることに気がついた。


「ねえねえ。街の中に水路がいっぱいあるようだけど、市長の屋敷にも繋がってるの?」

「ええ、はい。確か庭の大きな噴水に繋がっていたかと」

 思い出すように、内通者は答えた。

「スピカ、ベガ。ちょっといい事考えた。二人はここにいて。僕一人だけ、先に様子を見てくるよ」



 ペテルは水中の中に居た。

 宇宙服を着て、浮かんでこないように、重い石をリュックに詰めて。


 水路の中を進んでいた。


 辺りは薄暗くなってきている。

 あまり暗くなると見えなくなるので、まだ薄明るいこの時間帯を選んだ。

 昼と夜の境目。おうまが時ってヤツだ。


 宇宙服の『大気分析調整装置』は、水中から酸素を取り込むモードになっている。

 降り立つ惑星が、陸の無い海だけの惑星の可能性もあるので、そういう機能もついているのだ。


 ときどき方向を確認するため、頭だけ水中から出して屋敷を確認する。

 ときどき街中をうろつくモンスターを見かけたが、それらから見つかる事はなかった。


 そうして水路の中をどんどん進み、ペテルは庭の大きな噴水の中に辿り着いた。

 辺りはだいぶ暗くなっていた。

 見つからないように、こっそりと噴水から出て茂みの中に身を隠す。

 そこから、屋敷の様子を覗いた。


 玄関らしき大きな扉の前に、門番のように2匹の魔物が扉の両側に立っていた。

 コウモリのような翼と頭に角を生やした、人間型の魔物だった。

 ペテルは、茂みから出て扉の前に立つその魔物の一人に近づいていった。

「ボルックス様はおられるか?」

「おお、貴様は……?」


 魔物がペテルを見て、声を上げる。

「たしかハマル団とかいう盗賊団の首領だったな。しばらくぶりだな」


 ハマル団の首領の姿に変わったペテルがそこにはいた。


「ボルックス様に、勇者について報告したいコトがありまして」

「そうか、ボルックス様ならいつもの1階の中央の、一番突き当たりの大きな部屋におられるぞ」


 門番の魔物が、そう言いながらペテルを屋敷の中へ招いてくれた。

 屋敷の中は、思ったより入り組んでおらず、ボルックスが居るであろうと思われる部屋もすぐに当たりがついた。

 屋敷内にはチラホラ魔物がうろついているのが眼に入ったが、思っていたより多くは無かった。

 ペテルは、あちこち見て回りながら、大広間を特にアチコチへと周った。

 隅から隅まで。


 ほぉう、この柱はいいな。

 この壁は、絵画とか飾ったほうがいいな。

 この床の絨毯は、角の方の装飾がよくないな。


 そう言いながら、観察して周る。

 一通り、見て回ったあとペテルは満足して、ボルックスが居る部屋に向かった。


 中央の突き当たりの部屋。

 門番が言ったとおり、ボルックスはそこに居た。

 こいつが、ボルックスか・・・・・・。


 一輪車に乗った道化の姿。

 顔には半分が笑って、半分が泣いている表情の仮面をつけている。

 一輪車に乗ったまま静止しており、なにやら本を読んでいる。

 しかし本を読みながらも、ジャグリングは欠かさない。

 本を手に取る手と、ジャグリングする手がせわしなく動き回っている。


 読書に集中していたのか、しばしペテルが入ってきた事に気づかなかった。

「ん? 来客とは気づかなかった」

 ペテルの存在に気づくと、顔を挙げ本を閉じた。


「何用だ? ハマル団の団長殿?」

 手に持っていた、本が消える。


「ボルックス様、に折り入って報告がありまして」

「ほう、わざわざ使いでなくお前が来るという事は、重大な案件らしいな」

「はい。最近噂になっている、新たな勇者についての情報を手に入れまして」

「それは、興味深いな。よし、手下に茶と菓子でも持ってこさせよう」


 ボルックスが、扉のほうに視線を送る。

「いや、酒と肴の方が良いかな?」

 仮面の顔をペテルの方へ向ける。


 途端に扉が勢いよく開いた。


「ボルックス! 今日こそがお前の命日だ!」


 入ってきたのは、10名ほどの武装した男達だった。

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