第21話 王都サジタリウス2

「アルニラムが、失礼した」

 王は玉座についたまま、謝罪した。


「占星術師のカノープス殿も、お主が勇者と言う。そして、従者もお主が勇者という。しかしながら、ワシはお主が勇者ということに、いまいち確信が持てぬ……」

 王は若干の疑いの眼差しをペテルに向ける。


 ペテルもスピカも、頭を下げたままだ。

 どうすべきかなぁ?

 ペテルが頭の中を回転している最中に。


 一人の家来が、王に近づき、そっと耳打ちした。

 その耳打ちを聞いた途端。

 王の両目にいきなり涙が溢れ出した!

「おっ! おおおおっ! お主が!」

 王は玉座に座ったまま涙を流し続けた。

「お主が、お主がっ! 王妃の腕輪を、取り戻してくれたというのかっ!?」



 王が話すには。

 数年前から、王妃の腕輪は行方不明になっていたらしい。

 いつの間に無くなったのか。

 いったいドコにいったのか。

 そのときはハマル団の。

 盗みの仕業とはわかるハズもなく。

 たいそう城の中を洗いざらい探し回ったらしい。

 

「あれは、妻の。王妃の形見でな……」

 王は顔に手を当て、下を向き打ち震えている。

「アレを無くしたときの、アルニラムの取り乱し様はすさまじいものだった」

 王は続ける。


「ワシも平常心ではおられなかったが。まさか、我が元に戻ってくるとは夢にも思わなかった」

 そして絞り出すように言った。

「ありがとう、ペテル殿」

 王は玉座についたまま、頭を下げた。


 いや、このままでは失礼だな。

 王が立ち上がり、もう一度ペテルに向かって頭を下げた。


「正直に言おう。お主が勇者だとかそういうことはどうでもいい」

 王は立ったままもう一度頭を下げ、

「お主が腕輪を取り返してくれたこと。アルニラムの笑顔を取り戻してくれたこと。それらに感謝したい。引いては占星術師が、従者がお主を勇者だという。ワシもそのことを信じねばなるまい……」


 その言葉を聞いて。

 ペテルは膝まづいたままで答えた。


「いえ、王よ。僕は当たり前のことをしたまでです。あくまで勇者として当たり前のことをしたまでです! もう一回言います! 当たり前のことをしたまでです!」

 膝まづいたままで王に向かい、凛とした表情と口調でペテルはそう王に返答した。


 王のまなこから涙が溢れ出し。

 王の頬を幾度なく涙が通過する。

「まぎれもなく、おぬしは勇者殿だ。ワシが保証する。魔王軍討伐のため、ひいてはこの国のため。世界のためにどうか力を貸してはくださらぬか?」




「王よ、僕は実は遠くの地から参りまして。この土地の事を、ましてや魔王軍のことをよく知らないのです。どうか、詳しくお聞かせ願えますか?」

 ペテルは仰々しく、王に向かい知りたかった事を伝えた。

「なるほど、ではカノープス。説明してやるがよい」


 王の横にいた水晶玉を持った老人が、段差を降りて近づいてくる。

 カノープスと紹介された老人は。

 王直属の占星術師であった。


 褐色のローブを頭までかぶり。

 そこから覗くワシ鼻。

 鋭い眼光。

 猫背の姿勢。

 曲がりくねった杖と水晶玉を両の手に持っている。


「立ち話もなんでしょう。こちらへどうぞ」

 ペテルとスピカは、カノープスについていった。

 しばらく王宮内を歩く。

 王の間から出て廊下をずっと歩いてついていって。

 とある一室へと案内された。 


 何かの会議に使われる部屋のようだ。

 縦に長い豪奢なテーブルと、その長さに合わせた数の豪奢な椅子が、テーブルの長さだけ並んでいる。

 しかし、部屋にいるのはペテルとスピカとカノープスだけ。


「適当に座るが良い」

 ギョロリとした目でペテルたちを見て、カノープスはすぐ側の椅子に、先に座った。

 倣って2人も近くの椅子に腰掛ける。

 カノープスは机に地図を広げながら。説明し始めた。


「ここが、今我々がいる都市サジタリウスだ」


 地図の真ん中辺りに描かれた、大き目の都市の絵を指す。

 この世界の真ん中にあるから、中央都市とも呼ばれる。

 カノープスは地図を見ながら、そうつぶやいた。


「ここから、東に行くと水の都市『アクエリアス』がある」


 サジタリウスから、右の方へ指でなぞる。

 地図には途中から川があり、海に面した町の絵があった。


「西に行けば、鉄鋼都市『ライブラ』だ」

 今度はサジタリウスから反対側、

 左へと地図上の指を滑らせる。

 山々に囲まれた、山岳の下のほうに町の絵が描かれていた。


「南に行けば、『スコーピオン』。砂漠と燃える水の都市だ」

 燃える水というのは、石油の事だろうか?


 砂漠に囲まれた場所に、都市の絵があった。


「そして、魔王城はこのサジタリウスの北にそびえ立っている」

 指を上に滑らせる。

 黒く禍々しく描かれた城の絵が、そこにはあった。


「カノープスさん」

 ペテルが言った。


「占星術師と呼べ」

「じゃあ占星術師さん。僕たちはどうしたらよいのですか?」

「うむ、魔王軍には4人の将校と呼ばれる幹部クラスの部下達が居る」

 地図の先ほどの3つの町を指し示す。


「先ほど説明した町だが。それぞれ4人のうち3人がそれぞれの町を攻め入り制圧し、支配して占領している。おかげで、それらの町から運ばれてくる資源や物資が途絶えている状態だ。今は何とか、この都市近隣で出来るもので食料などはまかなっているが、徐々に厳しくなってきている」

 ペテルは今一度、地図に目を通した。


「3つの町の内、最初にどの町に行くべきか? ワシが占ってやろう」

 水晶玉をうやうやしく取り出し、なにやら呪文のようなものを唱えて、両手をさしだし水晶玉を地図にかざした。


 しばし、そのポーズのまま、水晶玉を見つめる。

「御曐様にお伺いを立てた」

 カノープスは水晶玉をしまう。


「勇者殿には、この水の都『アクエリアス』を、まずは取り戻して欲しい」


 カノープスが指し示す東の、海のそばの大き目の都市。

 中央都市から伸びる大きな川も、サジタリウスの近くから添って、アクエリアスに面した海に続いている。




「アクエリアスを守るのは、4将校のうちの一人。ボルックスだ」

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