第20話 王都サジタリウス1
王都サジタリウス。
この世界の中央に位置する、一番大きな都市であり首都でもある。
そこには王都の名前通り、この世界を支配する国王が居る城があり、城の元には城下町が広がっている。
市場や産業が出発した町とは比べ物にならないほど活発なのが、見てとれた。
石畳で舗装された道路や、モルタル造りの家や店が立ち並ぶ。
そして人の多さも、比べ物にならないほど多かった。
しかし、その人々が進んで道を開ける。
王家の馬車の進行を妨げる民はこの都には居らず、見ただけで距離をとり、ひれ伏し、頭を下げた。
城下町をスムースに通り抜けたその先に橋があり、大きな門があり、衛兵達が門を守っていた。
一度門の前で馬車が止まり、門が開くと同時に馬車はさらに中へと進んだ。
よく手入れされた庭園をさらにしばらく進むと、王宮の入り口が見えてきた。
「ここから先は、歩いていただきます」
使いの男が、馬車から先に降りペテルとスピカを宮廷内に招き入れた。
石造りのアーチをくぐり、赤い絨毯が伸びる部屋や廊下を、案内されるがままに歩を進める。
いくつかの階段を昇ったその先に、王の玉座がある部屋へと到着した。
いよいよ王様の謁見である。
部屋に入ると一段高いところ。
玉座に威厳の象徴な存在が座っていた。
国王が玉差に座っていた。
少し離れた、隣り合った席にはお妃様が座っている。
ハズの座席は空白だった。
王の前に、従者とスピカが膝まづく。
それを見て、ペテルも倣って膝まづいた。
「お主が、勇者なのか?」
王はゆったりとした眼差しでペテルとスピカを玉座から、貫禄ある眼差しで見つめた。
顔立ちや蓄えたヒゲにまで貫禄がある。
言葉もなんだか、重みがある。
「Gがキツイなあ」
ペテルはボヤいた。
「Gって何ですか!?」
スピカが小声で返す。
「Gっていうのは重力で。ここでの意味は、相手からの圧力って意味」
「黙りなさい! 王都の謁見の最中ですよ!?」
隣の従者が、二人を叱る。
二人を連れてきた従者は、
「王よ、私が保証します、この者は真の勇者なのです」
膝まづいている姿勢で、頭を下げる。
「ふうむ」
と、王は信じているのかいないのか、中途半端なため息を漏らした。
「カノープスよ。おぬしはどう思う」
玉座の右側の柱から、フードをかぶった老人がおずおずと出てきた。
杖と水晶玉をその手に持っている。
老人は王の側へ歩み寄った。
そして正面を向いて、水晶玉を片手に杖をグルグルとまわす。
しばらくその動作をしたあと、カノープスと呼ばれた占星術師は、
「王よ、この者は真の勇者の者にござりまする」
と、占いの結果を告げた。
「おお! まことか!」
「はい、ワシの星の、導きによればこの者は紛れも無い勇者でございまする」
カノープスがしわがれた顔と声で、うやうやしく国王に告げる。
「おおなんと。よもや魔王を倒すものが、現れようとは」
国王は玉座に座ったまま、感動しているようだった。
しばらく、その様子を見ていたペテルとスピカだったが、
「姫! お待ち下さい! まだお召し物が!」
右側から女性の声が聞こえてきた。
右奥の扉から、走りにくそうに駆け寄ってきたのは、煌びやかなドレスに身を包んだ、お姫さまだった。
「まあ、まあ! すごい! あなたが勇者さまなのね!?」
まるで、劇場でアーティストが目の前に来たときのファンのようだ。
と、ペテルは思った。
ペテルの側まで来て、憧れの存在が目の前にいる奇跡にキャァキャァと喜びを隠せないようだ。
「これこれ、その辺にしておきなさい」
王が玉座から姫に注意する。
「ええ~。ハァイ」
名残惜しい態度で、姫はペテルからおずおずと離れた。
そこに、
「姫様! ですからまだ、お召し物が!」
煌びやかな上着を抱えた女性が、奥の部屋から飛び出してきた。
「もう~、ライラったら、そんなのいいのに~」
姫が、頬を膨らませる。
「いえいえ、勇者様の御前とあっては、きちんと身なりを整えませんと!」
召使いがそう言って、姫に上着を着せようとしたその時、
「ああ! あらあらあら! まあまあ!」
召使いの動きが止まった。
ペテルとスピカもその女性の召使いを見て、思わず目を見張った。
召使いは、盗賊の砦に捕まっており逃がした、牢の中の女性であった。
「姫様、ワタシはこのお方に、命を救われたのです。でも、そのときはこの方が勇者様とは知りませんでした」
ライラと呼ばれた召使いは、偶然に感動するように。
意外な事実に驚きを隠せないように、勇者と姫の間で説明した。
「なんてことかしら! あなた様がライラを救ってくれた恩人なのですね!」
姫は王に止められたのも忘れて、ペテルの両手を取って感謝の限りその手を握った。
「いやいや、これまた、まいったね?」
ペテルがスピカのほうを振り向くと、スピカはニコニコ笑った表情で眉間にしわを寄せている。
額のあちらこちらに血管が浮き出ている。
表情は笑顔をとりつくろってはいるが、なにかお怒りのようだ。
「これこれ、アルニナム。いいかげんになさい」
玉座から、王の柔らかな叱咤が降り注ぐ。
「ハァイ」
皇女であるアルニラムは、再度おずおずとペテルから距離をとった。
「ライラを助けてくれてありがとう!」
それだけは言いたかったと言って、姫は頭を下げて。
召使いとともにその場を後にした。
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