第19話 ですから勇者としての証明をお見せいただきたい
酒場の扉が勢いよく開く。
現れたのは、昼間話しをしていた隊長殿だ。
「ここに、ペテル殿とスピカどのが居ると聞いてきたのだが?」
凛とした眼差しであたりを見渡す。
スピカは片手を挙げ、ペテルは机に突っ伏したままで弱弱しく手を上げた。
「む、そこか」
隊長が、衛兵2人を連れてテーブルに歩み寄る。
「王がおぬし達に会いたいそうだ」
そう言いながら、ペテルを助け起こす。
起き上がったペテルもスピカもキョトンとした表情で隊長を見つめる。
スピカに至っては、少し酔っているのかもしれないが。
「明日、あなた方の宿に使いのものを渡します、馬車も用意しますのでそれに乗って、向かいなされませ」
隊長はそれだけ言うと、規律正しくまわれ右をして、食堂から立ち去った。
「ペテル様! お、王様との謁見ですって!」
スピカは信じられないという風に、口を両手で塞いだ。
ペテルは思考が回らない頭で、
「へええ~。ふううん。そおおおおおぉなんだぁ」
と、重要さを理解できるはずも無く。ぐるぐる回る頭をかかえながら。
天井の中央でゆっくりぐるぐる回る、大きなプロペラを見つめていた。
スピカはよく眠っている。
宿屋の同じ部屋で。
結局同じ部屋に連れてこられた。
しかし、そんなことは問題ではない。
2人用のベッドの上で、スピカはよく眠っている。
明日は迎えに来るのが早い。
馬車で迎えに来ると聞いている。
ペテルは宇宙服に備え付けられたコンソールを、キーボードを。懸命に操作している。
しばらくして一通り、入力は終わった。
そうして、一度試験的に作動する。
壁に飾られた宇宙服が音も立てず、とある人物の姿に形を変える。
うん、うまくいったようだ。
プログラミングは、うまくいったようだ。
宇宙服の全身を眺めて、ペテルは満足そうな笑みを浮かべた。
ペテルは、こんなにガタガタ揺れる乗り物に乗ったのは初めてだった。
スピカが操る馬に乗っていたときは、馬の筋肉とか柔軟性とかがクッションの役割をしていたのだと改めて思った。
「これが、馬車ですか」
ペテルは向かいの席に座る、いかにも貴族というか王家的ないでたちの男性に思わず聞いた。
「ふむ、そうですが?」
馬車にも乗ったことが無いのかという風な、侮蔑を含めたまなざしで男は返答する。
ペテルの隣にはスピカが座っている。
しかし、スピカはうとうとと、重たげな瞼を上げることに頑張っていた。
こんな振動でよく寝れるなぁと、ペテルはある意味感心した。
まあ、それだけ疲れているのかもしれない。
緊張で、昨日あまり寝れなかったとか言ってたしな。
ときどき頭をペテルの肩に預けるスピカを見て、そう思った。
「ところで、勇者様でしたかな?」
前方の男が、くるりと巻いたカイゼル髭の片方をいじりながらペテルに問う。
ペテルはその高飛車な態度に、若干の不快感を抱きながら答えた。
「ああ、どうやらそうらしい」
「ふむ、その証明は?」
「証明……?」
「王に会っていただくならば、勇者といえるその証を示していただけませぬかな?」
「……」
ガタガタと馬車が揺れた。
石を車輪が噛んだのか、馬車が大きく揺れる。
睡魔と覚醒の狭間にいたスピカが、夢から起きたように目を覚まして叫ぶ。
うとうとしながらも、2人の会話を聞いていたのか、はたまた反射的になのか。
「この方は勇者様なのです!」
ペテルの肩から頭を離して。
スピカは覚醒と同時にそう言ってのけた。
しかし、前方の男はやれやれといった風情で、首を振った。
「ですから、その証を見せて欲しいといっておるのです」
「それは、ですから馬車に乗る前に言ったとおり……」
「それだけでは不十分と言っておるのです」
「い、いえ! でも!」
スピカが、半分寝ぼけながら。
狭い馬車の中で立ち上がろうとしたその時、
「いいから、スピカは寝てて」
ペテルの静止が入る。
「え、ええ。でも?」
「いいからいいから」
笑顔で肩に手を当て、スピカをなだめる。
は、はぁ? と。
スピカは戸惑いながらも落ち着き、その内睡魔に負けてペテルの横で肩にこうべを垂れてしまった。
スウスウと寝息を立てるスピカを見て、次に前方の男を見据える。
「勇者の証が必要と言ったね?」
「う、うむ。そうだが!?」
毅然とした態度に、躊躇する前の男。
「じゃあ! これならどうかなっ!?」
ペテルが前髪を掻き揚げる。
「おっ! おおおおっ! それはっ!!」
ペテルの額の中央に光り輝く紋章。
眩しい光を放ちながら、光り輝く紋章。
まばゆく光を浴びながら。
男は目を開けてはいられない。
まぶしく目を細めながら男は、目の前に勇者がいることを、改めて認識した。
おおおおっ。
まことに額に勇者の紋章!!
「あ、あなた様は確かに! 真の勇者様でございます!」
ペテルが前髪をもとに戻す。
光はとうに収まっていた。
馬車の中の男は、狭く揺れる中で立ち上がり。
頭を下げ、今までの非礼を詫びた。
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