第18話 星の勇者の伝承2
ペテルとスピカは、その日その町に泊まった。
宿は隊長が用意してくれた。
特に安くもなく、高くもない宿屋に、男女である事を配慮してか、二つの部屋が取ってあった。
そういえば、自分がお金を持っていないと気がついたペテルは、その事を隊長に話すと。
盗賊たちを捕まえたということで、それなりのお金を工面してくれた。
ペテルは宿に着くと、着替えを済ませスピカと一緒に町の食堂へ食事へと繰り出した。
町には幾つかの食事を出している店があった。それぞれが独特なそれでいて空腹を刺激する匂いを辺りに漂わせている。
どこがいいのかな? とスピカに尋ねるも、どこも似たり寄ったりですわと彼女は言った。
小さな町であり、物流はそれほど多くなく、食材も限られているのだという。
隊長さんや宿屋の主人にオススメの店でも聞いておけばよかったと、ほんのり後悔しなが、だいぶ陽が落ちた町の中を歩く。
結局空腹に耐え切れなくなったところで、一番近い店に入った。
店の中はそこそこ賑わっていた。
翻訳機で言葉を話す事はできるが、文字を読む事はできない。
ペテルはスピカにメニューを見せる。
スピカの解説を聞きながら、大体の料理や飲み物を想像する。
スピカにメニューを指差しながら、
「じゃあコレとコレとコレをお願い」
と言ってメニューを元の位置に立てかけた。
スピカが店員を呼んで、品々を注文する。
ほどなくして、テーブルにまずは飲み物と料理が二皿並べられる。
「じゃあまずは乾杯しよっか!」
ペテルは杯を掲げる。
「乾杯? ですか?」
スピカは聞きなれない言葉と仕草にを傾ける。
その手は指を組んでいた。
それを見てペテルはああそうかと、自分の持っているコップを置いた。
食事前に、御曐様に祈りを捧げなければならないのだった。
祈りを捧げて、結局乾杯をすることなく2人は食事を始めた。
「そういえばさ」」
フォークでサラダを口に運び名がらペテルは尋ねる。
「勇者の伝承について、聞きたいんだけど」
「ペテル様は、勇者様の物語を知らないんでしたっけ」
スピカの方だけはお酒を注文していた。
特に酔ってはいない素振りで、スピカは返答する。
「うん。僕がなぜ勇者と呼ばれるのかをずっと疑問に思っていたんだ」
「まあ、そうでしたか……」
スピカは少し意外そうな表情をして、手に持ったスプーンとフォークを置いた。
スピカにとっては、ペテルは勇者として遣わされた者だという自覚が、彼にもどこかあったのではないか。
と、いった反応だった。
今の今まで、自覚が無かった。
というより、何故自分が勇者に仕立て上げられるのだろうか?
という、根本的な疑問が彼にはあったが、彼女には無かったという事だ。
スピカがそれだけ純粋だった。
そして、思い焦がれていたのかもしれない。
スピカがペテルを見るときの目は。
希望、憧憬、ある意味崇拝、そしてかすかな恋慕もあるのかもしれない。
今、ペテルを見るスピカの目はそれとは若干違ったが、
「わかりました。お話しましょう」
姿勢を整えて息を整えて。
スピカは朗読するように、伝承を語り始めた。
いつ頃からか、魔王がこの世界に降り立った。
魔王はこの世界を手中に収めようとし、様々なモンスターを生み出し解き放った。
魔王とこの世界の戦いは拮抗していた。
魔王が解き放つモンスターや脅威に人々は脅えて暮らすばかりだった。
そんなとき勇者が現れ、その強さで魔王軍を瞬く間に蹴散らしていった。
占星術師が言うには。
その勇者は、流れ星に乗った勇者であると。
星の導きによって遣わされた勇者であると。
勇者の証明として、額に紋章が浮かび上がると。
民は、勇者の出現に沸き立った。
彼ならば、勇者様ならば必ず魔王を打ち倒してくれると。
その期待通り、勇者は魔王の手下達を次々に撃破していった。
予言した占星術師から、与えられた勇者の剣によって。
魔物やモンスター達を次々と倒し、勇者は魔王の城へと到達した。
しかし、魔王はその玉座にいなかった。
魔王は城を部下を見捨てて逃げたのだ!
勇者は怒り狂った。
そして、魔王を探すべく王都や各地の町々へ、魔王を探すべく招集をかけた。
数年後。魔王ははるか北の、とある森の奥で見つかった。
魔王は勇者の手にかかって打ち倒された。
森の奥で何を魔王が企んでいたのかは知る由も無いが。
とにかくこれで、世界に平和が戻ったのだ。
国を挙げて、盛大にそれを祝った。
しかし、それからしばらくして。
勇者は病気にかかって、死んでしまった。
勇者は死んでしまったが魔王が居ない今、平和は恒久に続くように思えた。
だが今から数年前……。
魔王が突然復活した!
魔王は以前より強大な魔力を保持しているらしく、新たに4体の強力な魔物たちを生み出した。
それが、4将校。
4将校は中央都市から東、南、西につながる重要な都市にそれぞれ攻め入り、そして都市を制覇した。
今では、その3つ都市に4将校の内の3将校が、都市を征服して鎮座しているという。
いつしかスピカは熱が入り、店の者に紙とペンを持ってこさせ、形が分からない物は簡単な絵を描いて説明してくれた。
勇者の紋章についてペテルは聞いてみたが、スピカは形までは知らない、分からないということだった。
しかしそこまで聞いて、ペテルはなんだか全身の力が抜けるような気がした。
ペテルは話を聞いて、グラスを持ったままテーブルの前に突っ伏した。
ああ~!
じゃあ僕の大事なアイテムも、そいつらがそれぞれ持っているということかぁ!?
たしか、盗賊の首領は言っていた。
奪ったアイテムは魔王様に献上したと。
そして、それぞれの品を将校たちに配る。
とか、言ってた気がする……。
テーブルの上にある、皿とか調味料とかどうでもいい。
流れるままに、テーブルの上に突っ伏した。
「ペテル様ッ!!?」
突っ伏したまま頭の中を、自暴自棄がかけめぐっていた。
「ペテル様?」
心配そうなスピカの声が上からかけられる。
「大丈夫ですか!?」
おかわりのアルコールが入ったグラスを慌てて置いたスピカが、テーブルの前から身を乗り出した。
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