第17話 星の勇者の伝承1

「これはすごいな。いったいどうやったんだ?」


 衛兵の隊長らしき男が、魔法陣に捕らえられた盗賊たちを見て感心する。

「この魔法をかけた方はどちらだろうか? このままでは近寄れないので、解いてほしいのだが」


「あ、ワタシです」

 スピカが名乗りを上げる。


 解いた後でも盗賊たちが逃げないように、衛兵達が魔法陣の外側をグルリと囲むように包囲している。

 盗賊たちも、武器が無いのでおとなしくしているほかは無かった。


 スピカが杖を振りかざし小さく呪文を唱えると。

 魔法陣の円周から立ち上っていた障壁は、噴水の水が引くかのごとく消え去った。

 剣や槍などを構えて、衛兵達が威嚇している。

 装備が無い盗賊たちは、抵抗することなく町の衛兵達に捕まり連れ去られていった。


 

 盗賊たちが逮捕されて数時間後。

 スピカと一緒に町を訪れて。

 ペテルは目に映る風景を見て、感心した感想を率直に述べた。


「村とはやはりだいぶ違うんだなぁ」

 二人は、衛兵の隊長に案内されて。

 ペテルたちはエルフ村の先の町を、訪れていた。


 衛兵達に、ことの経緯を説明するためである。

 エルフの村では平坦な土地に、畑が広がり家畜が所々に見えていた。

 そしてスピカたちの村は、木造りの家ばかりだった。

 ここでは石造りの家が立ち並び、道路もある程度舗装されている。

 少なくとも視界に入る中に、田畑が見える事はなかった。

 


 少し先に露店が両側に並んでいる通りが見え、一番そこが活気があるように感じる。

「こっちだ」

 衛兵の隊長は、賑わっているそちらへは行かず、むしろ逆方向の2階建てくらいの建物の方へと向かった。


 門の前で係りの者と話して、中に入る。

 窓からは、衛兵の訓練している姿が見える。


 衛兵達の詰め所のようなところであろう。

「こちらへどうぞ」

 レンガ造りの建物の中に入り、会議室のような部屋に通される。

 出てきたお茶を、なんとなしに啜っていると。

 案内してきてくれた衛兵の隊長が入ってきて、テーブルを挟んで向かいの席に座った。


「ハマル団は、数年前から手を焼いていてな。今回一網打尽にできたのは、非常に大きなことだ」

 と、頭を下げる。

 ペテルとスピカは顔を見合わせる。


「しかしいったいどうやったのだ? 盗賊たちをあれほど一箇所に集めて束縛できるとは……」

「いやあ、それは企業秘密と、いうヤツでして……」

「キギョウヒミツ? 聞きなれん言葉だが?」


 隊長は一度茶をすすり、

「君たちはエルフの森の住人なのだろう? 以前から、盗賊団をあのように捕まえる作戦と言うか算段を練っていたのか?」

「いいえ、ワタシの隣に居るペテル様のおかげですわ」


 隊長の関心が、ペテルのほうに向く。


 ペテルはどうしたものかと、とりあえず笑顔で返している。

 照れたような困ったような、笑いを返しているペテル。

 隊長はペテルをマジマジと見つめながら、

「気を悪くしないでもらいたい。尋ねたいのだが君はエルフとはまあ、ちょっと違うようだが?」

 スピカはその言葉を。待って言わんばかりでしたわ! という風に身を乗り出した。


「彼は、ペテル様は! 星に遣わされた勇者様なのです!」

 スピカがその疑問に対して、自慢げに嬉しそうに返答した。




 隊長に対してスピカはペテルとの出会いを説明した。


 知らないものに対して、何度か説明しているので。

 要点だけを絞って、いくらか簡潔に説明できるようになってきている。


 エルフの森の外れに流れ星が落ちたこと。

 流れ星のおかげでドラゴンから自分が救われた事。

 その流れ星の中から、ペテルが現れた事。

 そして伝承に沿った出来事である事。


「たしかに、伝承通りによればこの方が勇者であることになるでしょうが……」

 わずかに細めた目をペテルに向ける。


「いくら盗賊団を一挙に捕らえるチャンスを作った功績があるとは言え、それがイコール勇者だとは結びつかないと思います」

 出会いが伝承どおりだったとしても、確かに偶然かもしれない。

 隊長は若干曇った疑いをペテルにかけた。


「スピカ、ちょっと隊長さんと2人で話をさせてくれないかな?」

「えっ? でも?」

 心配そうに見つめ返す。


「大丈夫、僕が勇者である事をキチンと説明するだけだから」

 やや、強引にスピカを部屋の外へ出して扉を閉める。


 数分の時間が静かに過ぎた。

 スピカは、聞き耳を立てることなく、廊下の壁にもたれかかって時間を過ごした。

 近くの窓からは、衛兵達の訓練するときの掛け声が聞こえる。


 しばらくして、ギィときしむ音をわずかに立てて。

 応接間の扉が開く。


 出てきたのは隊長だった。

 隊長はスピカに歩み寄り、

「スピカ殿、申し訳ない!」

 と、頭を下げた。


「この者、いや。この方は、まことの勇者殿でございますぞ!」

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