第16話 ハマル団攻略5

 「お前ら寝ている場合じゃねぇ! 起きろ!! 仕事だ!!」


 勢いよく扉が開けられ、部屋から魔物に変身した姿で首領が出てきた。

 酔っ払って、いい気分で寝ていた手下たちはその声で目を覚ます。

 そして何事かと、のそりのそりと起き出した。


 それでも半分くらいは、まだ寝ている。

 寝ている者たちを、叩き、蹴っては起こして廻った。

 盗賊同士で、隣の者を起こす者も居る。


「なんなんですかボス! 急に!?」

 抗議する者も居ないではなかったが、変身した姿で睨みつけると押し黙った。


 全員が起きたのを確認すると、ボスはステージに飛び乗り、全員に聞こえるように大声で言い放った。

「これから、俺の部屋のお宝を外へ運び出す! いいか、残らず全部だ! 全員で取り掛かれ!」


 言わずもがなだが、このボスはミラージュモードで変化したペテルである。

 本物のボスはベッドの下で、目覚めることなくオネンネだ。

 盗賊たちの中がざわつき始める。


「あのぅボス。なんだって、そんな事をするんですか?」

「まだ眠いですよ。なんだってこんな時間に……」

「明日でいいじゃないですか」

 口々に不満を垂れ始める手下たち。


「うるせえ! 魔王様に、お宝を全部献上する事になったんだ! 使いのモンが取りに来るのを忘れていた!」

 理由などどうでも良かったが、もっともらしい理由がないと動きそうに無い。

 ペテルはでまかせを言った。


「それとも、俺の言う事が聞けねぇってのか!?」

 凄みを効かせた声で、全員を睨みつける。


「い、いやあ、そういうわけじゃ……」

「わ、わかりましたよ。やりますよ」

「しかたねぇなぁ……」


 ボスの命令で、しかも変身した姿。

 盗賊たちは、ノロノロと動き出した。


 首領の部屋の扉は、ペテルが飛び出してきてからずっと全開だった。

 換気は十分だろう。

 首領の部屋に、盗賊たちを呼び込む。


 ペテルはベッドの上に飛び乗り、盗賊たちにあれやこれやと指図しはじめた。

 ベッドの下には本物の頭領の死体がある。

 万が一ベッドを動かされたり、下を覗かれてはたまらない。

 それを防ぐ為にベッドの上に乗った。


 乗っていれば、下を覗こうという輩はさすがに居なかった。

 全員で取り掛かり、数十分で部屋の3分の1を埋め尽くしていたお宝は全て外へ運び出された。

 そうして、全員外に出るよう指示をする。

 武装しようとした盗賊たちを見て、装備はいいから早く外へ出ろと追い出すように盗賊たちを外へ出した。


「ボスの考えてる事は、わからねぇ」

 などと言いながら、盗賊たちは全員外へ出た。


「ようし、全員出た様だな!」

 盗賊たちを前に、お宝を後ろにしてペテルは叫んだ。


「ところで、お前たちの後ろに丸い円が2つあるな?」

 盗賊たちが後ろを振り向く。

 彼らから見て、斜め前方の左右に、木の棒か何かで地面に描かれた直径10M程度の円があった。


「いまから、お前ら半分に別れてその円の中に入れ」

 盗賊たちは、不思議がりながらもボスの命令ならば仕方ないと、半分ずつ二組に別れて円の中へと移動し始めた。

 約20人ずつが、地面に描かれた円の中に納まった。


 それを確認して、ペテルが叫ぶ。

「いまだよ! スピカ!」

「ホールディ!!」

 スピカが現れて、杖を突き出し呪文を唱える。


 円の中の魔方陣が発動し、円周に沿って赤色の薄い光の壁が立ち昇った。

 光の壁は、触れる事は出来るが、すり抜けることは出来なかった。

 なにがどうしたのか。

 わけが分からないまま、盗賊たちは全員、円の中に閉じ込められた。


「なかなか、上手く行ったね」

 ミラージュモードから元の姿に戻って、スピカのほうを振り向く。


「勇者様の、お力添えがあっての事ですわ」

 満悦したペテルを見て、スピカも嬉しそうだった。 

 彼女は、夜空の星々を見上げてこうも言った。


「そして、御曐様のご加護があっての事ですわ」



 スピカが放った術は、半日は円の中の相手を拘束する力があった。

 エルフの森を抜け、その先の町から衛兵達が盗賊どもを捕まえる為にやってくるそうだ。

 ペテルとスピカについてきた兵士が、村に戻り馬を走らせて呼んできたのだった。


 意気揚々と戻ってきた兵士は、馬から降りながら報告した。

「ペテル殿が救った女性も無事ですよ!」

 正直言って忘れていたが、そういえば檻に捕らえられていた女性も救ったんだったなと思い出した。


「それで、その女性は?」

「とりあえず、私たちの村で保護することにしたので、送り届けましたぞ!」

 晴れやかな表情で、兵士は返した。


 女性は水も食事もほとんど与えられず、憔悴しきっていたらしい。

 早めに休息を取った方がよいだろうという事で、一足先に村まで送ったということだった。


「それにしても、よくもまあ集めたもんだね」

 ペテルは山積みになった、お宝に近づく。

 その中から一つ二つ手に取り、

「これちょっとくらい貰っても、構わないんじゃないかな?」

 冗談なのか本気なのか、ペテルが出来心をあらわにして、スピカに尋ねる。


「ダメですよ。ちゃんと衛兵さんたちにお渡ししないと」

 だよねーー。ですよねーー。

 と、言いなガら、お宝を元に戻す。

 少し残念そうな表情で。

 そんなペテルを微笑ましく見つめて、視線を財宝の方に移す。


「あら、これは?」

 その中に、とある紋章が入った煌びやかな腕輪があるのに気がついた。

 手に取り眺めていると、

「ちょ! ちょっとそれを見せてください!」

 遠目で傍観していた兵士が、慌てて走り寄ってきた。

 スピカが不思議そうに、腕輪をその兵士に渡す。


 兵士は腕輪と紋章を見つめながら、

「これは、この国の王家の紋章です! しかも、この腕輪は王家から行方不明になっていた、王族の腕輪かもしれませんよ!」

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