第15話 ハマル団攻略4

 階段を昇り、盗賊たちが酒盛りをしている開けた空間に出る。

 盗賊たちは、相変わらず楽しげに、そして下品な冗談を言いあいながら、酒を飲み食事をつまんでいる。

 ペテルはステージの方を見た。


 首領が居ない……。

 ペテルは近くに居た、盗賊の一人に聞いた。


「なあ、ボスはどこに行ったんだ?」

「ああ? 自分の部屋に引っ込んじまったぜ」

 酔っ払った盗賊は、アゴを広間の奥の扉を方へ向ける。


「ボスに会えるか? ちょっと聞きたい事があるんだ」

「ああ、適当に入っていけばいいんじゃねぇの? どうせまた、自分の部屋に溜め込んだお宝でも見てんだろ」

 なるほど、あまり礼儀とかには厳しくないようだ。


 だいぶ酒も進んでいるのか、ところどころ横になっている者や、眠っているものも見受けられる。

 ペテルは酔った盗賊たちの間を抜けて、ボスの部屋の扉の前に立った。


 扉は見た目でも強鋼な造りであった。

 岩の穴にサイズに埋まるように、ピッタリとした扉が目前にある。

 両手を押して開くタイプの扉だった。

 ペテルは両手を押して、扉を開いた。


 手動で扉を閉める。

 閉鎖的な空間だ。

 思ったより狭いなとペテルは思った。

 その部屋の右奥にベッドがあり、ベッドと壁の間には無造作にお宝が積まれていた。


 首領はベッドに座りお宝の一つ一つを手に取って、うっとりした目でしばらく眺めては、また元に戻していた。

 ペテルが近づくと、首領は気づいたのか、ペテルの方へ体を向けて座りなおした。

「おう、なんだ。どうした?」

 酔っている赤い顔で、ペテルに尋ねる。


「いえ、ちょっとそのベルトのことで、聞きたい事がありまして」

「おうなんだ、また見たいのか?」

 首領が立ち上がり、ズボンに手をかけようとする。


「いえ、そうではなくて。俺が聞いた話ではそのベルトの他にも、いろいろと品々があったと思うのですが」

「ああ、なんだそんなことか」


 首領は詰まれたお宝を横目で見て、

「残念ながら、ここには無いな」


 えっ?

 目の前が揺れた。

 地面が傾いた気がした。

 ここには無い? じゃあどこへ行ったんだ!?

 僕の他の6つのアイテムを、こいつはどこへやったんだ!?


「もの珍しいものばかりが詰まったバッグを受け取った時にな。丁度、魔王軍の使いが来ていたのよ。俺はベルトが気に入ったんで、それをもらったがな。それ以外は魔王の使いにくれてやったわ!」


 ハァアア? 

 ハアアアアアアアッ!? 

 ペテルはその話を聞いて、倒れそうになった。

 なに言ってんだコイツ!

 ま、魔王の使いにくれてやっただと!?


 僕の大事なアイテムを! そんな得体の知れない奴らに、くれてやっただと!?

 ぶるぶる震える体を抑えるのに、一苦労だった。


「ああ、そういえば、使いのヤツ、こうも言っていたな」

 首領は思い出したように、語った。


 こいつは珍しい品々だ。幹部達に配れば、私の評価もより一層高まるに違いない。


 ペテルはもう、なにがなんだか分からなくなった。

 配る!?


 僕の大事なアイテムたちを、魔王の幹部たちに配る!?

 先人達が作り出した、テクノロジーの結晶を、使い方も分からない原始人達に配るううううッ!?


「あの、あの、あの……」

 ペテルの、動揺を無理やり冷静に転換するしぐさを無視して。

「ゲハハハハ! おかげで、さらにこのような力を手に入れたぞ!」

 ベッドに座ったまま、首領は座ったまま変身を遂げた。


 バリバリバリと服が裂けた。

 筋骨隆々になり、肌の色が紫色になる。

 角が映え、尻からは尻尾が生えた。

 爪は伸び、犬歯は牙となる。

 グルルルルと吐く息から、小さな炎が見えた。


 しかし上のベルトははじけ飛んだが、その下のベルトは弾けとばずそのままだった。

「う、ぐ。腹がキツイな」

 首領は腹を押さえて、すぐに元の姿に戻った。


 戻ったあとに。

「グハハハハッ、どうだ! この力でこの辺りの者どもを制圧してやるわ!」

 と、自慢げに笑う。


「は、はあ。そうですね。では、失礼します」

 首領はまた、お宝を愛でるため壁の方に向き直った。

 ペテルはフラフラと歩み去り、出口へと近づいた。

 ペテルは、憎しみの権化のような表情で。

 胸からなにか装置を取り出した。

 それを部屋を出る前に部屋の片隅にそっと措く。


 地獄へ落ちろ!


 そのアイテムを残したまま、ペテルは首領の部屋を後にした。

 広場に戻ると、もうほとんどの盗賊たちは横になり、いびきや寝言を言いながら眠っていた。

 

 彼らを遠巻きに見ながら、ペテルにはさらにフツフツとした怒りが湧いてきていた。

 それにしても、いまいましいのはこの盗賊団の奴らだ。

 人の物を盗んでおいて。

 どいつもこいつも、何食わぬ顔であらゆる所で高いびきをかいている。


 首領の部屋にあった、積まれた財宝を思い出す。

 どうせアレも全部、盗んできた物なのだろう。


 首領の部屋に残してきたアイテムの効果が現れるまで、若干の時間を要した。

 ペテルは、電子レンジにかけた冷凍食品ができあがるのを待つように、扉の前でそれを待った。


 寝ていない盗賊たちは、相変わらず酒盛りを続けている。

 そろそろいいかな。

 キッチリとした造りの、扉を開けて中に入る。

 そうしてまた、キッチリと扉を閉める。


 盗賊の姿をしているが、ペテルの着ている服は宇宙服である。

 ミラージュモードで、盗賊の姿に化けているだけなのだ。

 首領はベッドに横になっている。

 首領の息遣いが荒い。


 ペテルが近づいてきたのを見て、うっすらと目を開ける。

 おお、お前か。

「おい、お前。助けを呼んできてくれ。なんだか体がおかしいんだ」

 具合が悪そうに、身をよじる。

 ペテルはその姿をしばらく見下ろして、とある物を回収するために部屋の隅に歩いていった。


 パネルやメーターがついた、四角い弁当箱くらいの装置を回収する。

 メーターの数値は38.7%を示していた。

 さらに数値が少しずつ上がっている。


「な、なにしている。く、苦しい! 早く助けを……」

 むりやり起き上がり、助けを呼ぼうと立ち上がる。

 フラフラで、息苦しそうに悶えながら扉の方へ行こうとする。

 そんな首領の前に立ちふさがり。

 近くに落ちていた金色の杖で、首領の頭を思い切りぶん殴った。


「おぶえっ!?」

 首領が180度回転して、まわれ右をした形でベッドに倒れこむ。

「な、なにをしやがる!?」

 頭を抑えながら、ペテルを見る。

 ペテルは答えない。

 金色の杖を持ったまま、首領を見下している。

「お、おのれ!」

 首領が変身する。


 牙を爪を伸ばし、角を尻尾を生やし、肌を紫色に変えて立ち上がる。

 息を吸い込み、炎を吐こうとする。

「な、なんだ? うまく吸い込めない?」

 さらに、炎は出るには出たが相手の体を焼くことなく、ペテルに届く前に消え去ってしまった。

「バカな? どうして?」


 混乱する首領にもう一度、金色の杖をペテルはおみまいした。

 首領はベッドに倒れこみ、割れそうな頭の痛みにのたうちまわった。


 ペテルが先ほど部屋に置いていった装置は『大気成分分析出力装置』だ。

 大気の成分を自動で分析。

 その一部の成分だけ、出力できる装置だ。

 

 今回成分抽出したのは、二酸化炭素。


 二酸化炭素は、全体の30%で吐き気、めまい、記憶混濁などの症状を引き起こす。

 40%にいたっては命を落とす。

 現在44.6%。

 十分な数値だ。


 人間の致死量で死に至らないのは、さすが魔物の力を借りた怪物といったところか。

 だが、求めるように荒い息で全身が震えだした首領を見て、ペテルは思った。

 時間の問題だな、と。


 元々「大気成分分析出力装置」は、立ち降りた惑星の大気が自分達に適して居ない場合において、適した大気内の成分を自動的に検出して、周りや宇宙服内に散布するための装置だ。


 ただし、その設定は手動でも換えられる。

 プログラミングが必要だが、ペテルはコンソールであらかじめプログラミングしておいて、その装置を部屋の片隅においておいた。

 若干のプロテクトがかかっていたが、それは造作も無い。


 空気中の二酸化炭素を増出するように設定。

 あとは、ご覧の通りだ。


 ベッドの上で苦悶して、息も絶え絶えになっている首領を見て、装置の出力を止める。

 室内のパーセンテージは、十分すぎる程上がっていた。


 ついでにミラージュモードも解除する。

 スキャン用の、光る輪っかを取り出す。

 首領の目に、宇宙服を着たペテルの姿が映る。


「だ、誰だお前は……?」


 それが、首領の最後の言葉となった。

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