第14話 ハマル団攻略3

 しばらく見張りの位置に立っていると。

 洞窟の中から、一人の男が近づいてきた。


 盗賊団の一人のようだ。

 毛皮のチョッキを着ている。

 その男は言った。


「おい、交代の時間だ」

 黙ってうなずくと、交代の毛皮の男も黙ってペテルの位置と交代した。


 ふう。と、一息ついて洞窟の中に入る。


 入るといきなり坂道だった。

 洞窟の中は意外に明るかった。

 ところどころに、松明のような灯りが灯してあるのだ。

 しばらく周りを見ながら、坂道を下った。


 ときどき壁面にチョロチョロと、水が沸き出て下に流れていっているのが確認できる。

 水の辺りに平べたい虫や、別の黒い生物が逃げていくのが見えた。


 下り坂をもうしばらく下って行くと、平らな開けた広場へと出た。

「どぅやら、ここが終着駅のようだな」


 ペテルはその広場で、酒盛りをしている盗賊集団を見て、そう言った。




 酒盛りをしている、盗賊集団の一番奥にふんぞり返っている大男が、盗賊の首領らしかった。

 大きな盃に酒をなみなみと注がれ、首領はグビグビと飲み干す。


「よろこべ! 皆の衆! 俺はついに王家のお宝を手にしたぞ!」

 部下達である盗賊団たちを前に、杯を高らかに掲げて、首領は宣言した。


「ウッホウ! 首領ついにやったな!」

「首領、マジ! リスペクト!」

「首領! エモイ! ジーマーで! めっちゃエモいいいい!」


 首領は、赤ら顔のままごきげんになり。

 盃を投げ捨てて立ち上がると。

 すぐ近くの、前方の組み上げられた高めのステージへと、登り立った。

 そこで。


 ホッホウ!

 ホッホウ!

 と、頭の後ろに手を伸ばしながら腰をふる。


 手下の盗賊たちも、それに合わせて。

 ホッホウ!

 ホッホウ!

 と、拳を上げて叫ぶ。


 ホッホウ! と、拳を突き上げる。

 手下どもも、ホッホウ! と拳を突き上げる。


 何度も腰を振り。

 何度も拳を突き上げた。

 ノリノリだ。


 ペテルは思った。

 売れないアイドルのコンサートか、これ?


「おまえら! 愛してるぜぇっ!」

 投げキッスを、近くのギャラリーにばら撒く首領。

 それを見て、ペテルはちょっと。

 いや、だいぶ引いた。


 首領はステージの上で、なにか知らないがとにかく踊りづづけている。

 首領は踊りながら、ズボンに手をかける。

 腹に巻いた、ベルトの下のズボンをずり下ろす。


「俺が実は! お前らに見せびらかしたいのは、これだぁっ!」


 ステージの上で、ベルトを巻いたズボンを腰の下までおろして、盗賊たちに見せびらかした。

 ズボンのベルトをおろした下に。

 腰の位置にしっかりと巻いたベルトがあった。


 巻きついているのは、腹の中央に幾何学のような模様が入ったベルトだ。

 二重のベルトを巻いたまま、首領はステージの上で踊りながらゆっくりと回る。


「うおおお~! いいぞボスううううー!」

「ボスー! かっちょええええ!」

「いかしたベルトだぜえええ!」


 部下の盗賊たちが、ステージの首領に向けて声援を送る。

 そのベルトを見て、ペテルは震えた。


 アレは! 僕のだ……。

 僕のアイテムだ……ッ!


 ペテルのアイテムを装備して、首領は自慢げに今も踊っている。


 ずっと踊っているがいい。

 ペテルはその姿を睨めつけながら思った。

 

 何も知らずに!

 何も知らないクセに!


 先人達の科学の集結を、その身につけているのだぞ!

 知らず知らずのうち、右拳に握力が集まる。


 だれが、許すことができようか。

 なにが、されようか。

 たとえ、お前らが信仰している御曐様おほしさまとやらが許したとしても、僕はお前を許さない!


 醜悪なその姿態に、芸術品を巻きつけたその罪は重い、と。

 その罪は万死に値すると。




「どうした、ノリが悪いな?」

 仲間の一人らしき男が、肩を叩いてきた。


「あ。ああ、ちよっと疲れててな」

 具合が悪いフリをする。


 ただ、首領のあの姿をみて、具合が悪くなったのは本当だが。

「こないださらってきた、娘の所にでもいくか?」


 粗野な発想だったが、捕らえられている人間も居るのか、と思った。


 捕らえられている人たちがいるのなら、確認はしておきたい。

 男にそそのかされたフリをして。

 牢獄に案内してもらう。


 細い丸太を格子状に縛っただけの、単純な牢獄だった。

 ただ、何も刃物などの道具が無ければ、抜けるのは難しいだろう。

 牢獄は1つしかなく、捕らえられている者も一人だけのようだった。


「ホレ、ここだ」

 牢獄の中には一人の若い女性が居た。


 エルフでなく、人間の女性のようだ。

 着ているものは剥がされてしまったようで質素なボロボロの服を着ている。

 あきらかに、部屋の隅でおびえている。


「カギは渡しておくからよ。楽しんだら、返してくれや」

 男はそう言って去っていった。

 完全に去った後、ペテルは牢獄へ近づく。


 近づくとその女性は後ろに。

 逃げ場はないのにさらに後ずさりして、縮こまった。

 怯えすぎて、こちらを見てもいない。


「安心してくれ、僕は君を助けに来た者だ」

 部屋の隅で震えているのは変わりなかったが、うつむいていた顔が少しだけ上がる。


「助け、に?」

 だがまた、顔を伏せて言う。


「無理ですよ。手下が20人も居るんですよ? それに見たところ、あなた一人みたいじゃないですか。逃げ切れませんよ……。それに首領は最近魔物と手を組んで、強大な力を得たと聞きます」


「逃げる逃げないかは、君の勝手だけどね」

 カギを開き、扉を開けながらペテルは続ける。


「こっちは親切心で言ってやってるんだ。勘違いしているようだけど、僕はお守りじゃないから君の護衛なんかはしない。カギは開けておくから君が地上まで逃げるんだ。無事洞窟から出たら、スピカっていう女の子のエルフが近くに居るはずだから。かくまってもらうといい。僕の仲間だ」 


 あっけにとられる女性に背を向け、ペテルは薄明かりの中の奥に消えていった。

 階段を昇る、コツコツという音が遠かざっていく。

 松明の炎が、天井からぶら下がるコウモリたちの影を揺らした。


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