第13話 ハマル団攻略2
「くそっ! くそっっ! くそがあっ! コケにしやがって!!」
エルフの村から、解放された男はアジトへ戻るべくその方向に歩を進めていた。
「戻ったら、首領に話して総攻撃だ。こんな村ぶっ潰してやる!」
怒り心頭で、歩む速度も多少速くなる。
暗い森の中。
盗賊の男は、帰り道を無心で歩く。
暗い森の中。
虫や鳥の鳴く声。
なにか獣か、モンスターか魔物か。
ガサガサと通る足音。
風に合わせて、ワザめく木々。
男の足取りは、自然と。
次第に早くなっていた。
そんな中。
無心で歩いている途中に。
突然、目の前に人影が現れる。
盗賊の男は、心臓ごと急ブレーキがかかったかのように、立ち止まった。
誰かと思い。
現れた者をよく見る。
薄明かりに照らされる相手の男を見て、男は見間違いかと思い、たじろいだ。
「お、俺が居る?」
男と全く同じ姿。同じ背格好。同じ顔の男がそこに居た。
「な、なんで……? なにが……?」
何が起こっているのかわからない。
違うのは、自分は何も持っていないのに、目の前に居る男は剣を持っているということだ。
そして、剣を持った男の方が。
動けずにいる盗賊を斬撃一閃、切り伏せた。
盗賊の男は。
自分に自分が斬り伏せられたと、錯覚しながら。
血しぶきを巻きながら、絶命した。
「せっかくスキャンしたのに。君が帰ったら、この変身がばれちゃうだろう?」
ブウンと鈍い音がして、盗賊だった男の姿が、宇宙服を着たペテルに変わる。
『ミラージュモード』
宇宙服の機能の一つで、スキャンした相手に変身できる。
周りの光をゆがめて、そのように見せてあるだけなのだが。
「これ、バッテリー使うから、あんまり使いたくないんだよねぇ」
使って90分くらいかな。
バッテリーの残量を見ながら、ペテルは算段する。
そして、息絶えた男を見ながら、
「人を斬ってもみたかったし、一石二鳥だね」
ペテルは月明かりの下で、ニッコリ笑って剣をしまった。
明後日。
ペテルとスピカと、兵士3人は。
ハマル団のアジトの近くまで、来ていた。
ハマル団のアジトは情報通り、岩山の中央辺りに位置していた。
近づくに釣れ岩陰に隠れながら、登山するのはなかなか骨が折れた。
宇宙服は折りたたんで、兵士3人に交互に背負ってもらった。
辺りが暗くなってから、ペテルとスピカ、そして兵士3名を引き連れた一行は行動を開始した。
「はああ、結構キツかったよ」
「大丈夫ですか? 勇者様?」
岩陰で休む一行。スピカが冷気の呪文を弱めた魔法を、ペテルに浴びせる。
「ありがとうスピカ。涼しいよ」
スピカも疲れているはずだが、惜しみなくペテルに貢献してくれる。
献身的なスピカに、ペテルは笑顔で返答した。
「それにしても、どうするのですか?」
見れば、岩場の洞窟の入り口前には見張りが居る。
額におおきなバツ印のような傷がある男だ。
しばらく見張っていると、仲間らしき盗賊たちが洞窟の前までやってきた。
「合言葉を言え」
バツ印の、見張りの男はそう言った。
やってきた盗賊の一人が答える。
しかし、ここからでは何を言っているのか分からない。
合言葉をクリアした仲間らしき盗賊たちは、洞窟に入り闇の中へ消えていった。
「なんだか、合言葉とかが必要みたいですよ」
「うんうん、そうだね」
あまり、危機感を感じていないペテル。
「どうしましょう。あの見張りの男が居る限りは入れないのでは?」
「いや、まあ大丈夫だと思うよ」
兵士3人を呼び寄せる。
そして、兵士たちから宇宙服を受け取った。
皮の鎧や、兜などを装備から外す。
そうして慣れた手付きで、ペテルは宇宙服を身につけた。
胸の辺りにある、計器類の上にあるボタンを押す。
ペテルの姿が、数秒かけて、見た事がある盗賊の姿にうつり変わった。
スピカも兵士たちも、思わず声を上げそうになった口をとっさに防ぐ。
「どうだい?」
ペテルはちょっと自慢げに、自分の姿を披露して見せた。
「で、でも。合言葉が分からないのには、変わりないのでは?」
スピカがもっともな疑問を投げかける。
「いやまぁ。見ててよ。君たちはここで、ジッとしてて」
ペテルは、盗賊に扮した姿のまま、見張りに近づいていった。
見張りの男に歩み寄ると、男はバツ印のような額の傷がある顔を向けて言った。
「おお、お前どうした。久しぶりに見たぞ」
ペテルは片手を軽く挙げて、ヒラヒラと返す。
「しばらく見なかったからな、死んじまったと思ったぜ」
「いやあ、いろいろあってな」
ペテルは、ヘラヘラ笑って。返事を返す。
そのまま、通り過ぎようとすると、
「まて、合言葉はどうした?」
見張りの男が、ペテルを引きとめた。
岩陰から見ているスピカと兵士3人は、心配でハラハラしている。
「ああ、やはり、合言葉がなければ中には、入れないのですわ」
スピカが心配そうに小声でつぶやく。
「あ、ああ。そのことなんだが、実は合言葉の変更があってな」
「なに、そんな話は聞いてないぞ?」
疑うように、ペテルを睨みつける見張りの男。
「首領から言われた大事な話しなんだ。ちょっと、コッチへ……」
「お、おう。そうか……」
見張りも首領の言葉とあらば、従わざわるも得ないらしい。
ペテルが手を引くまま見張り男ともども、スピカたちが隠れている岩とは別の岩陰に姿を隠す。
間もなく岩陰から、何度かの短いうめき声が聞こえた。
ドザッと、何かが倒れた音もする。
しばらくして。
額にバツ印の男だけがヌッっと、岩陰から出てきた。
「勇者様は!?」
スピカがハッとして声を上げる。
その声を聞きつけてか、バツ印の男はスピカたちが隠れている岩陰のほうを向く。
そして岩陰に向けて、ニヤリと笑う。
笑いながら手を突き出し。
シーーッと、人差し指を口の前に立てて見せた。
「あれは、もしかして勇者様なのですか?」
その声が聞こえたのか、ウンウンとうなずく見張りの男。
先ほどの盗賊とは違った、バツ印の見張りの男の姿に。
変身した勇者ペテルであった。
見張りの男であれば、合言葉はいらない。
見張りの男が居た場所に、何食わぬ顔でペテルは立った。
しばらくして、仲間らしき盗賊たちが数名、入り口の前まで帰って来る。
ペテルは言った。
「合言葉は?」
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