第12話 ハマル団攻略1

 森の中を、スピカは一人で歩いていた。


 少し大きめの荷物を背負い、ときどき周りの様子を伺うように辺りを見回す。

 先日馬で通り抜けた、湖に続く道とはまた別の道だ。

 だいぶ先だが、森を抜ければ小さな山があり、さらにそこを超えると例の盗賊団のアジトがある。


 あたりは少し薄暗くなってきている。


「お嬢さん、そんなに大きい荷物を抱えてどこへ行くんだい?」


 前方から声がした。

 立ち止まり、魔術用の杖を手に持ちスピカは身構える。

 茂みの中から、目の前に3人の男達が立ちはだかった。


「身ぐるみとは言わねぇ。その荷物と食料と、持っていれば金も置いていきな」

 それぞれ、剣やナイフを持って、これ見よがしに見せ付けている。


「おとなしく差し出せば、命はとらずにに逃がしてやるよ」

 男達が、ジリジリと距離を詰めてくる。


 杖を構えたまま、後ろに下がるスピカ。

「そんな大きいモン抱えてたら、逃げるに逃げれないだろう?」

「いいから、置いていきな」

 3人の盗賊はさらに距離を詰めてきた。


「あ、あなた方はハマル団、なのですか……?」

 スピカが問う。


「よく知ってるな。そうよ、俺たちがハマル団だ」

 そう言って盗賊の一人が、手の甲に掘られた刺青を見せ付けてくる。

 間違いなく、ハマル団のマークだった。


「さあ、どうする? 選択肢は一つしかねぇと思うが」

 後ずさりしながら、スピカは呪文を唱え始めた。


「そうはさせねぇぜ!」

 一人がにやけた顔で、剣を突き出してくる。

 スピカは呪文の詠唱をやめて、剣の軌道をかわした。


 呪文を唱える隙を与えないつもりらしい。

 互いににらみ合う。

 スピカと盗賊たちの間に、緊迫した空気が漂った。


 その緊迫した空気に、割って入るように。

「スピカ! よくやった!」

 草むらの影からペテルと、エルフの兵士3人が飛び出してきた。


 ペテルはスピカと盗賊団の間に。

 兵士3人は盗賊団の後方へと現れた。

 挟み撃ちの形となる。


 スピカが「よっこいしょ」と、背中から荷物を地面に下ろす。

「これ、全部中に詰まってるのは、藁とか紐とかなんですの」

 そう言って、背負いカバンの隙間から、中を見せる。 


「なんだぁ! てめえら!?」

 色めきたつ盗賊たち。


「いや~、期待通り現れてくれてよかったよ」

 ペテルが剣を構えて、問答無用で斬りかかる。

 一番前の盗賊も、持っている剣で応戦する。


「てめえら、手伝わねぇか!」

 他の盗賊たちに呼びかける。

 しかし、その二人にはエルフの兵士が戦いを挑んできていた。

「くそっ! 隙見て逃げるぞ!」

「そうはさせませんわ」


 スピカが呪文を詠唱する。

「ロープラー!」


 カバンに入っていた紐がヘビのように這い出してきて、盗賊に飛びかかる。

 そのまま、ペテルと戦っていた盗賊を縛ってしまった。

 グルグル巻きで身動きが取れなくなり、その場に倒れこむ。


 エルフの兵士と応戦していた2人組は、それを見て逃げていった。

「お仲間さんに、あっさり置いていかれたね」


 寝転がり、イモムシのようになった盗賊を上から見下ろす。

「お、俺をどうする気だよ? 殺すなら殺せ!」

「いや、君にはやってもらいたい事があるんだ」


 兵士3人に抱えられ、盗賊の男はペテルとスピカにエルフ村へと連れ去られた。




「本当に俺を、どうする気なんだ?」

 ペテルの部屋に連れてこられた盗賊は、怯えていた」

 床に縛られたまま、転がされている。


 スピカや兵士などは居ない。

 部屋にはペテルと盗賊の男だけだ。


「僕の質問に答えて、嘘を言わなかったら帰してあげるよ」

 男の目の前で、剣の先をちらつかせる。

「わ、わかった……」

 男が見上げて、そう答える。


「まず、数日前だけど。君たちのアジトに白い大き目の袋というか。カバンを持って来たヤツっていなかった?」

「い、いた……。中身を見せてもらったが、何かよく分からんものがゴチャゴチャと入っていた」

「それで、そのカバンはどうしたの?」

「持ってきたヤツが、首領に見せていた。そしてそのまま、首領がカバンごと持ち去った……」

「あれ僕のなんだよねぇ。人のもの盗っちゃダメだって教わらなかったの?」

「へ、へへへっ」

 盗賊の男は、怯えつつも笑っている。


「いまは、あんたらの親分さんが持ってるってコトか。ねえ、親分さんは出かけたりしないの?」

「しゅ、首領はあまり、外には出ネェ。ときどき狩りや盗みや、魔王軍の魔物と交渉するために出る事はあるけどよ」

「だいたいはアジトの中なんだね。アジトの中はどうなってんの?」

「俺たちのアジトは、岩場にできた洞窟の中だ。洞窟と言っても、そんなに深くない。下にくだって行けば首領の部屋にはすぐ行ける」

「ふうん」

 だいたいイメージがつかめてきた。こんなトコロかなと考えていると。


「だがな。首領には勝てねぇと思うぜ。最近、魔物の力を手に入れたとか、言ってたからな」

「そんなに強いのかい?」

 ペテルはしゃがみ込み、顔を近づけて聞く。


「ああ、翼が生え角が生えて、怪力で炎を吐くことだってできる。ありゃあ、よほどの戦士か魔法使いか。はたまた、一兵士団くらい持ってこないと無理だと思うぜ」

「そうかぁ」

 ペテルはグルグル巻かれている縄を解き、手と足は縛ったままの状態で、盗賊を立たせる。

「な、なんだ?」


 そして、宇宙服の手をかざす。

 手から緑色の光線でできた、輪っかが現れる。


 その輪を、盗賊の頭から足の下までくぐらせた。


「な、なにをしたんだ……?」

 盗賊の男は、意味が分からないという感じだ。


「君、もう帰っていいよ」

 両手だけ縄を切ってやって。

 ペテルは部屋を出て行った。


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