第10話 ハマル団のことについて、なにか知らないかな? 1

ペテルとスピカが、村の入り口まで歩いて行くと。

「これはこれは、勇者さまではありませんか」

 門番のエルフの兵士は、彼らを見るなりうやうやしく敬礼した。


「いやいや、別にいいよ」

 ペテルが、気さくに手を掲げる。

 ちょっと偉い感じになった気分だ。

 やはり、勇者になるって気持ちいいカモ。


「それでさ、聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう?」

 険しい顔を崩さず、兵士は答える。


「ハマル団の事について、何か知らないかな?」

「なにかされたのですか!?」


 一人で色めき立ち、槍を構える門番。

 それを見てペテルは、頬を指で掻きながら、

「い、いやぁ。大したことじゃないんだけど。大事なものが盗まれちゃってさぁ」

 と、答えた。

 

 個人的には大したことではあるのだが。

 いかにも大したことではない風に、装って答えた。


 あまりこの人に言うと、大騒ぎになりかねない。

 なんか、そんな気がする。

 そういう風に思わせる仕草が、ペテルの説明を短縮した。


「なにか知ってたら教えて欲しいんだ」

「わかりました」

 兵士は構えを解き。

 再一度、うやうやしく敬礼した。




 ハマル団は、数年前からここらへんの地域を荒らし始めた、盗賊集団だ。

 この村から、昨日突き進んだ森を抜け。

 その先にある山岳中央の、岩場にある洞窟を根城にしているらしい。

 

 ときどきはこの村から町へ向かう街道の方まで足を伸ばして、道中の人間を襲う事もあるらしい。

「町の人たちとか、この村の人たちは退治しに行かないの?」

 ペテルの疑問は、聞いただけの者にはもっともだったが。

 あまり被害は甚大ではなく、村の人たちも街の人たちも。

 あまりハマル団のことは重要視していなかったようだった。


「それより、魔王軍のモンスターの方が脅威でして」


 先ほどの村から町への道中に、以前よりも増してモンスターが現れるという。

 この村を訪れる商人や、村からの使いの警護に人員を裂くので、

 とてもそんなことに、手を焼いている暇は無いというのだ。


 この村には結界が張られているというが、実は森全体にも微力な結界が張られている。

 しかしどういうわけが近年、その結界を破り、モンスターや魔物がこの森にも入ってくるようになったのだ。

 しかも、弱い魔物も入ってこれるようになってきた。

 ここまで説明を受けてスピカが、

「魔王の力が強大になって、影響しているのかもしれません」

 と、言った。


 と、いうことは、だ。

 魔王の影響を受けて、弱いモンスターとか魔物とかの。

 結界を破るほどの力が、強大化しているか。

 はたまた、魔王の影響で結界自体が弱小化しているか。

 はたまた、その割合が五分五分程度の両方なのか。

 ペテルは、思案した。


 ところで、それとは別に。

 ペテルは、先ほどからひとつ、気になっている疑問をぶつけてみた。


「君たちは、外の怪物を時には魔物とか、時にはモンスターとか言ってるけど。違いはあるのかい?」

 その疑問に、門番の兵士は戸惑った顔を浮かべる。

「ああ~。いや確かに、そう言われてみれば……」

 どうやら意図せずに、同じ意味で使っていたらしい。

 兵士の困った姿にクスッと笑って、スピカが、助け舟を出した。

「その疑問には、ワタシがお答えしますわ」


 スピカの説明によるとこうだった。

 「魔物」は、魔王が生み出した怪物たち。

 「モンスター」は、魔王が現れる前からこの世界にあった怪物たち。


 モンスターの中には、人を襲うものもあったが、それはそれとしてバランスを保ちそれなりに共存していた。

 たしかに、遠くの国では普通に人を襲う動物も居るものなぁ。

 説明を聞きながら、ペテルはそんなことを思った。


 ただし、魔王が現れてからは、モンスターも魔王の影響を受けて、凶暴化しており、人を襲っているという。

 そういう点では、魔物と変わりはないそうだ。


「ええと、そういえば。わたしを襲ってきて、勇者様が倒したドラゴンはモンスターの部類に入ります」

 スピカが思い出したように答える。


 なるほど、モンスターは魔王の影響力で、凶暴化していると言ってもいいのか。


「それでですね、ハマル団は」

 兵士が話しを、元に戻す。


「普通に襲うときは3~4人くらいで襲ってくるらしいです。いやいや、自分も出くわした事はありませんが」

「実はワタシも、会ったことはないんです」

 スピカがちょっと、申し訳ない表情を浮かべる。


「うん、そこそこ分かった。でも、もっと詳しく知りたいな」

「ならば、長老の衛兵に尋ねてみるがよろしいでしょう」


 兵士は長老の屋敷のほうを指差しながらそう言った。

「なにしろ、衛兵のミギワとヒダーリは、ハマル団に両親を殺された兄弟なのですから」

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