第9話 その名は、ハマル団

ハマル団とは、数年前からこの先の岩場を根城にしている盗賊団であるという。


 最初はそれほど規模は大きくなかったが、最近では精力を拡大し、団員の数も増えてきているのだそうだ。

 彼らは、村などを襲うことは無いが、街道を行く旅人や商人を狙って強盗や恐喝をはたらくという。


「最近では、魔物たちと手を組んで、悪さをしているとも聞きますわ」

 スピカが説明する。


「それにしても、勇者様の持ち物を盗んでいくだなんて、絶対に許せませんわ!」

「そいつらが、僕の荷物を盗んで行ったって言うのかい?」

「ええ、ハマル団は参上して何かを得られたとき、近くの木や岩や壁などに、彼らのマークをナイフなどでつけていくのです」


 木に残されたマークは。

 この世界に、漢字やアルファベットは無いが。

 仮にそれらで表現したとしたら。

 王の漢字を横にしたようなマークだった。

 英語のHを二つ並べて、くっつけたようなマークと言ってもいいかも知れない。


「じゃあ、そいつらが僕の大事な荷物を盗んでいったんだね?」

 確認するように、ペテルは言う。

「ええ……、あのマークが残っているということは、ほぼ間違いないと思います」

「宇宙船の中を荒らして、壊していったのも、そいつらなんだね」

 表情は既に泣き止んでいる。


「ええ。おそらくですけど、そうかと」

 ペテルの全身がプルプルと震えだした。

 憤怒と激情が、こころを通り越して体に現れてしまっている。


「価値も使い方も何もわからない奴らが! 僕の大事なアイテム達が、壊れたらどうするんだああああっ!」


 ペテルの悲しみは怒りへと反転し、激昂となり噴出した。


「だいたい、あのアイテムたちは、先人達が研究や発見を重ねていって作り出した、テクノロジーの結晶なんだぞ!? 宇宙船だってそうだ! こんなに傷つけて! 僕のアイテムをちょっとでも傷つけて壊してみろ。全員ただじゃ済まないからな!」


 地団駄を踏み、吼えるように言い放つ。

「勇者様、どうか落ち着いてください」

 出てきたときと同様に、だが別の感情を静めるべくスピカは、同じような言葉をペテルにかけた。


「ご、ごめん。でも大事な品々なんだ」

 さすがにここ一連の取り乱しようは、振り返ると恥ずかしいものだった。


 いかんいかん、こういう時こそ冷静に落ち着いて行動しなければ。

 そういう訓練も受けていないわけではないが、今回のことは個人的には絶対に許されないことだった。


「まあ、ぼくの考えや認識が甘かった部分は認めよう」

 と、ペテルは一つ咳払いした。


 ハッチが閉じているものと思い込み、のんびりし過ぎたことも反省しよう。

 だけど、悪いのは人のものを盗んだり、傷つけたりする奴らの方だろう?

 そっちのほうが、絶対に悪い!

 圧倒的に悪い!

 それに比べたら僕は、かわいそうな被害者だ!


 それとさっきも言ったけど、テクノロジーの粋を集めたアイテムたちを何も分からない奴らに触られるのが、たまらなく嫌だ!

 豚に真珠を与えるような、愚行だ!


 ペテルは科学やテクノロジーの技術者や、研究者といった人たちを尊敬していた。

 彼らが知識と技術で作り上げた様々な便利な道具は、芸術品と言っても過言ではない。

 ともかく、一刻も早いところ取り返えしたかった。


「勇者様、まさかこのまま盗賊団のアジトへ向かうつもりではないでしょうね?」

 スピカが心配そうに尋ねる。


「大丈夫、僕は冷静を取り戻した」

 馬に近づき、スピカを呼ぶ。

「一旦戻ろう。まずはその盗賊団とやらの情報を、出来るだけ集めたい」

「分かりました。戻りましたら、村のもので知っているものがいないか声をかけてみます」

「頼むよ。あと、宇宙服は取ってあるよね?」


「うちゅうふく、ですか?」

「僕が最初に来ていた服だよ」


「もちろんですわ」

 部屋にあるはずです。と馬にまたがる。


 ペテルも、同じようにまたがりスピカの後ろに乗る。

 手綱を持ち、馬に合図を送って、村に帰るべく馬を走らせた。




 帰ってまず、真っ先に向かったのは、ペテルが寝泊りしている部屋だった。

 もちろん、宇宙服があるかどうかを確かめるためである。


 スピカが部屋に入り、壁の棚の下のほうにしゃがみこむ。

 四角いかご状の、収納するための箱を引き出し、開ける。


 その中に、宇宙服は折りたたまれて、無事に収納されていた。

「頭の兜が、なかなか入らなくって。丁度いい箱を探し出すのに苦労しましたわ」

 スピカがそのときの思い出を語る。


「よかったああああ。スピカ! ありがとう!」

 ペテルがスピカの両手を握りながら、感謝の言葉を述べる。


「あはは……。勇者様、ちょっと痛いです」 

「あっ、ゴメン」


 反射的に、スピカの両手から手を離す。

 すこし気まずい空気が流れた。


「あ、大丈夫ですよ。気にしなくて」

 スピカは空気を変えるように意に介さず、箱の名からペテルの宇宙服を取ってくる。

 そして、ペテルの目の前で広げて見せた。


 そのまま受け取り、破れてないかとか、計器に異常は無いかとか、装置やセンサーはきちんと動くかとか。

 宇宙服のあらゆるところを触り、確認する。


「うん、よかった。異常は無いみたいだ」

「まあ、よかったです」

 安堵するペテルを見て、ホッとするスピカ。


 宇宙服を受け取り、折りたたんで、また元の収納していた箱の中に戻した。


「じゃあ次は、その盗賊団の情報を集めたいなぁ」

「それなら、まず村の衛兵に話しを聞いてみてはどうでしょう?」

 スピカが提案する。


 なるほど。

 衛兵ならば、このあたりの犯罪事情にも詳しいかもしれないな。


「ありがとう、そうしてみよう」

 ペテルとスピカは、村の入り口にいつも立っている門番の衛兵に、話を聞きに行くことにした。

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