第8話 墜落現場へ
スピカは馬を走らせていた。
スピカの後ろには、ペテルが乗っている。
いつかドラゴンの巣へと向かった森の道を、突き進んでいる。
昼食を途中で投げ出し、ペテルに急かされてスピカは馬で行くことを提案した。
自分の馬は持っていなかったので、村の馬牧場を訪れる。
馬の厩舎にいた、そこの主人に理由を話した。
主人は、葦毛の馬の頭を撫でながら、
「それなら、コイツに乗っていくといい。この中じゃ一番足が速いヤツさ」
馬牧場の主人は、快く一頭の馬を差し出してくれた。
一応何かあるといけないので、軽く準備をしていくことにした。
魔法を唱えるための、魔法使い用の杖。
なめし皮で作った鎧。
簡単な食料や水、固形燃料など。
ドラゴンの巣に向かったときは、無我夢中で飛び出してしまったから、あきれるほどに軽装だった。
遊びなれた森の中とはいえ、あまり油断してはならない。
スピカは以前の自分の行動を反省しつつ、装備を整えた。
焦って動揺して、同じところをグルグルと歩き回っているペテルを、なだめ落ち着かせる。
「そ、そうだな! とりあえず落ち着け。落ちつけ、僕」
まずはグルグルと歩き回るのを止める。
深呼吸をし、水を飲み、平面状はどうにか落ち着いたようだった。
同じように装備を整えてもらう。
ショートソードに、なめし皮の鎧。
鎧は父親のもので、少々大きかったが仕方ない。
草が生えていない土がむき出しの、肩幅程度の広さの道が森の奥まで続いている。
20分くらい、走り続けただろうか。
遠くに湖があるのが見えた。
「あそこです! あの湖の向こうに、勇者様が乗ってきた流れ星があるはずです!」
ペテルがスピカの背の後ろから、顔を覗かせる。
「頼む。無事で、無事であってくれ……」
彼は呪文のように、小声で祈り続けた。
湖の周りを、ぐるりと馬を走らせる。
スピカの話では、湖に着水しそのまま湖をつっきり、飛び出しながら数十メートルほど地面を削り止まったらしい。
湖の端から、地面を荒々しく削ったあとを辿っていく。
「ありました!」
その直線状に、目的の物体はあった。
「あああああ! やっぱりハッチが開いてるうううう!」
後ろから鳴きそうな声をあげる。
銀色にたたずむ、三角錐の物体。
平たい面を下にして、地面に突き刺さっているような感じだ。
大きさは、教会の鐘くらいの大きさだろうか。
これが流れ星。いや、ペテルが乗ってきた宇宙船だった。
正確には一人乗り用の探査用のポッドである。
何本もの複雑に絡み合ったロープが三角錐の頂点から伸びており、巨大な布へと繋がっていた。
馬の速度を弱めて近づく。
「あ~。やっぱりパラシュートが上手く開いてなかったんだ」
歩く速度に減速した馬から降りて、ペテルはつぶやく。
そして、小走りでポッドに近づく。
開いているハッチから、中を覗きこむ。
「もうクソッ! 自動で閉まるはずなのに、それまで壊れてしまうなんて」
そんなことを言いながら、ポッドの中に入る。
スピカは未知のものを怖がってか、不安そうに少し距離を置いて、見守っていた。
「ひどい! 中までメチャクチャじゃないか!」
ポッドの中から叫び声が聞こえる。
しばらく、ゴソゴソとポッドの中を調べていたペテルだったが、
「や、やっぱり。無い。無あああああああいいいいいいい」
ゾンビのようにうなだれて、半泣きでフラフラと出てきた。
「に、荷物が……、僕の荷物が無ああああい」
そう言いながら、スピカに歩み寄るペテル。
「ど、どうしようスピカぁ。アレが無いと連絡が出来ないよう。助けを呼べないよう。ねぇどうしよう! どうしよおおおおお!?」
ホントに泣きながら、スピカに抱きついて崩れ落ちる。
「僕が馬鹿だったんだ。ナップサックに入れて、そのままにして置いたからぁ。ちゃんと金庫に入れておけばよかったああああ」
「そ、そんなに大事なもの入っていたんですか?」
少したじろぎながら、聞きかえす。
「うん、全部で7つ。役立つかと思って色々と持ってきてたんだ……」
泣きじゃくりながら、ペテルが答える。
「盗まれた。ということですか?」
ウンウンと、縦に首を振る。
「それなら、盗んだ相手がわかるかもしれません」
スピカは近くの木の方を向いて、そこに彫られた見慣れないマークを指差した。
「アレはここらあたりの盗賊団。ハマル団が決まってつけていく、ハマル団の印です!」
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