第6話 星の勇者4
食事と睡眠を数回繰り返した。
何度目かの覚醒。
ベッドから起きると朝だった。
ペテルは起きて、松葉杖を突いて部屋から外へ出た。
さすがにもう、トイレへは一人で行けた。
トイレから出れば。
太陽がまぶしく、今日も良い天気だった。
「おはようございます」
スピカが笑顔で挨拶してくる。
「おはよう、スピカ」
スピカが駆け寄ってくる。
両手でカゴを抱えている。
カゴには、たくさんの果物が入っている。
何か木の実を収穫していたようだ。
カゴを抱えたまま、笑顔を向ける。
「もう、起きても大丈夫なのですか?」
「ああ、こうして歩き回れるくらいには」
松葉杖をちょっと見て、
「補助が必要だけどね」
と、はにかむ。
「でも、本当に大丈夫ですか?」
スピカが首を傾ける。
「まだ、お顔の色があまりよろしくないようですわ」
それを聞いて、ペテルは少しだけ苦笑した。
むかし、同僚からも「おまえは普段から顔色悪いよな」。
などと、からかわれていた事を思い出したのだ。
「ま、まあ、むかしからコレが普通なんだ。気にしないで」
「そうなのですか……」
まだ少し不安そうだったが、スピカは顔だけペテルの方を見ながら、廊下を歩き出す。
「食堂に参りましょう、ご案内いたします」
食べれば元気になると思ったのかもしれない。
果実いっぱいの大きなカゴを抱えながら、食堂へと案内し始めた。
スピカの家族と一緒に、朝食を摂るようだった。
廊下を歩いていると。
小さいエルフの女の子が、角から顔を出した。
スピカの後ろに、隠れるように女の子は駆け寄った。
「ちゃんと勇者様に、ごあいさつなさい」
少女はスピカに言われたあと、おそるおそる前に出てきて、
「あ、アトリアです……」
と、自分の名前だけ言うと、すぐまたスピカの後ろに引っ込んでしまった。
「もう」
スピカはそれ以上は何も言わず、
「妹なんです。ごめんなさい。人見知りが強くて」
と、説明してくれた。
勇者様が居なかったら、この子の病気を治す花も、持ち帰ることはできませんでしたわ。
「はぁ。そうなんだ」
いきさつがイマイチ伝わってこないが、助かったことはよいことだ。
3人で食堂へと向かう。
日当たりの良いキッチンとリビングであった。
彼女の母親と父親、そして妹が同じテーブルに座った。
以前のように家族全員、食事前に祈りをささげた。
ペテルも同じように、真似て祈りをささげる。
朝食はおいしかった。
娘たちの命の恩人だと、スピカの両親はペテルに感謝していた。
スピカが採ってきた花のおかげで、妹の病気も治ったのだそうだ。
ドラゴンに娘がやられていたら、どちらも無事ではすまなかったろう。
「一刻も早くお礼を言いたかったが、勇者様が回復するまではワタシが面倒を見るとスピカが言って聞かなくてね」
顔を赤くして、うつむくスピカ。
改めて礼を言う。本当にありがとう。
父親はそういって、何度も頭を下げた。
「いや、僕は何もしてませんよ」
本当に何もしていないのだ。
たまたま、落下する軌道上にドラゴンの頭があっただけなのだ。
しかし、説明しようにも、どう説明していいものやら。
宇宙船の話からして、理解してもらえるかが怪しいものである。
少し間をおいて、父親が聞いてきた。
「娘は、君が勇者だといってきかないんだが、本当にそうなのかね?」
ペテルはちょっと困った顔をして、
「はあ、そうらしいんですが……」
と、曖昧な返事をした。
「勇者様は、星に乗って天から舞い降りたのです! ワタシはこの目で見たのですから間違いありません!」
スピカがそう言って、割って入る。
ほほう。と、父親はアゴに手を当てる。
「もし本当にそうなら、娘の言う通り、君は間違いなく勇者かも知れぬな!」
父親まで、そんな事を言い出したので、ペテルは愛想笑いを浮かべるしかなかった。
食堂を後にして、村を案内してもらった。
以前から気になっていた、村の真ん中辺りにある石像のことを聞いてみる。
「あの、石像は何なの?」
石像を指差して聞いてみた。
「あれは天空の神、シリウス様です」
「シリウス様っていうんだ」
「はい、私たちが信仰している、宗教の主神でもあります」
シリウスの像は、右手に剣を持ち、左手には器を掲げている。
長髪で、髭を生やし、りりしい顔立ちである。
兜をかぶり、軽装の鎧を着ていた。
何名かのエルフが、シリウス像の前に祈りをささげ、供え物を置いていった。
村の畑や、何かの家畜を飼育しているところや。
食料庫、小さな図書館、公民館のような所。
村のいろんな場所や施設を。スピカが案内してくれた。
一通り見て周りスピカの家へと戻る。
自宅へ戻ると。
誰か見知らぬ若い男エルフが、ペテルとスピカを待っていた。
「スピカさんが、連れてきたという男性はこちらかな?」
ペテルの方を向き、ジロジロと頭からつま先まで、怪しげな目で見る。
「ねえねえ。この人いったい誰?」
スピカに小声で、尋ねてみる。
「この人は……」
スピカが答えようとする前に、若い男は言った。
「長老様が、お呼びです」
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