第4話 星の勇者2

 村の男衆に両脇を抱えられて。

 どうにかトイレを終えて、帰ってきた彼は宇宙服も脱ぐのを手伝ってもらって。

 ようやく軽い服装に着替えさせてもらい、ゆったりした気持ちでまたベッドに横たわった。


 勇者様は、お疲れになっておいでです。

 いつのまにか寝息を立てはじめた彼を見て。

 エルフの少女はそっと扉を閉めて、部屋を出た。



 翌朝、鳥の鳴き声で彼は目覚めた。

 上半身を起こす。

 多少は体力も回復しているようだ。

 あくびをしながら、背を伸ばす。

 その声を聞いたのか、少女が入ってきた。


「朝食をお持ちしましたわ」


 粥のようなもの。

 サラダのようなもの。

 何かの卵をゆでたようなもの。

 種類は分からなかったが、臭いは美味しそうだった。

 

 食べようとする彼に、ちょっと待ってほしいと、少女は言う。


 一緒に御曐様おほしさまに、祈りを捧げてからです。

 若き娘は、手を組み祈りを捧げた。


「御曐様のいつくしみに感謝したします」


 見真似で同じように、祈りを捧げる。


「おほしさまの、いくつしみに、かんしゃいたします」


「御曐様の恩恵に感謝いたします」

「おほしさまの、おんけいに、かんしゃいたします」

「この食事によって、体と心を支えます。どうか祝福を」

「このしょくじによってからだとこころをささえます。どうかしゅくふくを」


 顔を上げ、指を解く。

「ではどうぞ」


 だいぶ空腹だったおかげで、ガツガツと朝食を平らげてしまった。

 食べ終えたあとで、少しはしたない食べ方だったかなと思い少女に目を移す。

 特に気にかけてはいないようだ。

 少女に礼を言う。

 と、同時に問いかける。


「さっきの、おほしさまってのは、何なんだい?」

「御曐様というのは、私たちを天から見守っている、星たちの神々のことですわ」


 少女はそう言うと、ニコリと微笑んで食器を下げていった。

 少し腕を動かしてみる。

 寝ている間に筋力が回復したのか、多少は重力に慣れたのか、寝る前よりだいぶ回復しているようだ。

 だが、まだ自由自在に歩ける程度には回復していないことは、自分でも分かった。


 トイレに行くのには、人の肩を借りるか壁伝いであれば行くことはできた。

 ベッドに戻るも、ベッドに腰掛けて座ることくらいは出来た。

 少女は、話し相手になってくれた。

 丁度良かったので、少女たちやこの村の事を聞いた。


「君達の村は、どのくらいの規模なんだい?」

「規模。とおっしゃられましても、あまりよく分かりません」

「そうか。じゃあ村にはだいたい何人くらいの人がいるんだい?」

「ええと、そうですねぇ。50人くらいは、居るでしょうか」

「そのなかで、一番えらいのは?」

「もちろん長老様です」


 少女はこの部屋の窓からでも見える、高めのやぐらがついた屋敷を指差した。

 あそこに長老様とやらは、住んでいるらしい。


「ここには君と同じ、種族ばかりなのかい?」

「そうです、わたしと同じエルフ族の集落ですわ」


 確かに窓から見ると、様々な種類のエルフが生活している。

 畑仕事をする年配の男。

 なにかいくつもの、大きな袋を運んでいる男。

 水を汲む女性。

 剣術の練習をする子供達。

 それを庭で見守る老婆。

 祭壇のようなものも見える。

 神主のような男が祈りを捧げ、戻っていった。

 平和そうなイメージだ。


「村をご案内しましょうか?」

 肩を貸すしぐさをして、彼女が提案する。

 それもいいが、彼女に聴きたいことがあった。


「君の名前は?」


 彼女は少し驚き、照れたような笑いを浮かべる。

 まだお互いの名前さえ、言ってなかったのだ。



「ワタシは、スピカ。と言います」



 彼女ははつらつと、自分の名前を告げた。


「僕は……」

 彼は自分の名前を言おうとして、言いよどんだ。




 僕の名前って、すごくダサクなかったか?




 昔やっていたゲームで、主人公の名前を「ああああ」にしている友人が居たが。

 その主人公はこの世界でどんなに功績を挙げても、「ああああ」なんだよなぁ。

 と、なんとなく同情してしまったことを思い出す。


 ここで、自分の本名を言ってしまえば、ずっとその名前で呼ばれるハメになる。

 どうせ誰も知らないんだ。なにかカッコイイ名前を名乗ってやろう。

 コップのお茶を、一息で飲んでしまえる程度の時間。

 彼は一考し、一つの名前を考え出した。



「僕はペテルギウス。でも長いから、ペテルでいいよ」



「まあ、ペテル様なのですね!」

「ああ、ペテルだ」


 とっさに考え付いたにしては、気に入った。


 彼はこれから、勇者になるかどうかはさておき、ペテルと名乗ることにした。

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