歌姫を務める幼なじみと同じ舞台に立つため、『ダンサー』と称される魔法使いとなった少年の、記念すべき初舞台の日のお話。
恋愛ものです。それはもうゴリッゴリの恋物語なのですが、でも同時にがっつり異世界ファンタジーしているお話でもあって、つまり世界設定という面でもしっかり組み上げられています。特に序盤が顕著、というか最初からファンタジーとしての舞台設定の魅力をもりもり乗っけてきて、それがまた非常に華やかというか、キラキラと輝くような豪華絢爛さがありました。
端的にいうならショービジネスの世界。歌姫の舞台を盛り上げるための、バックダンサーと特殊効果担当を兼ねたような存在である『魔法使い』。宙を舞いながら水や風や雷で舞台を彩るそのお仕事は、当然誰にでもできるようなものではなく、つまり長い研鑽の末にようやく手にした栄光。主人公・ルカさんにとっての初舞台、その幕がいよいよ上がろうかという、その瞬間からこの物語は始まります。
全三話の構成のうち、第一話は完全に舞台上での演技の場面。派手で煌びやかな迫力があるのはいうまでもなく、それがしっかり導入になっているのがまたすごい。いやこう書くとごく当たり前のことのように見えるかもしれませんが、でも現実の演目ならいざ知らず、魔法を駆使した架空の舞台から始まるのってそう簡単じゃないはずです。読者にまず前提となる世界設定を理解してもらう必要があって、つまりこの辺は結構入り組んでるはずなのですが、でもさらっと語り通している。第一話の極々短い分量の中(数えたらなんと1,700文字くらいしかない!)、物語世界の説明に舞台の描写、さらには主人公とその幼なじみの情報まで自然に混ぜ込んで、この語りの自然さと周到さは尋常じゃありません。
基本的に、というか総じてお話の組み立てというか、語るべきことを過不足なく語っているという印象。そつがなければ隙もない。一話目の段階では『遠いところに行ってしまった幼なじみ』を見るような形だったのが、二話目でどうして先に行かれることにおなったのかが明かされ、そしてその上での三話目。溜めに溜めた末脚が爆発して、まさにザ・恋愛といった趣っていうかもう甘酸っぱい! 好き! いやーやっぱり幼なじみっていいなあと、なんだかうっとりするような思いでした。詳細な設定も組み上げられたお話も、結局すべてはこのためというか、やっぱり主軸は恋愛です。思い合うふたりの、初々しくも瑞々しい恋模様。
鮮やかさというか、彩りの豊かさ、というのがこの作品の最大の特色、あるいは美点ではないかと思います。繰り出される魔法の煌びやかな感じ。空を飛ぶだけでもなんだか綺麗で、そしてその上で描かれる三話目の〝青〟、その圧倒的な輝きの描写。総じて色の使い方にこだわりを感じるというか、本当に画面が綺麗なんですよね。ステージとか風景とか、広角に切り取られた景色の美しさ。でもただカメラが引いているわけではなく、しっかり情動も描いているという……。
すごいです。なんだろう、筆の射程が広い感じ(よくわからない例えですみません)。短い尺の中にギリギリいっぱいまで世界を広げて、その上で王道の恋愛劇をも貫いてみせる、実に贅沢な味わいの作品でした。