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玄関先でキャップとリュックを外され、そのままバスルームに連れて行かれた。
でもまさか翔真さんに服を脱がされかけるなんて…思ってなかったから、凄く恥ずかしくて…
人に服を脱がされることは初めてのことじゃないし、裸になることだって別にていこうはない。
なのに俺はベルトにかかった翔真さんの手首を掴んで止めた。
きっといつもの翔真さんだったら…あんな風に哀しく笑う翔真さんじゃなかったら、もしかしたら素直に身を任せていたのかもしれない。
それに、玄関を入ってすぐに感じた違和感…
それは翔真さんに対してではなく、この部屋自体に感じたもので…
玄関に入ってすぐに俺の視界に飛び込んで来た、大きめのボストンバッグと、下駄箱の上に置かれたレンタカー会社のキーホルダーが付いた車のキー…
あれば何だったの?
俺と旅行をするための物じゃなかったの?
なのにどうしてわざわざ風呂の準備なんて?
考えれば考える程、翔さんが分からなくて…
俺は熱い湯に逆上せる前に、風呂から上がった。
着替えの中に下着がなかったことに一瞬迷ったけど、翔真さんを呼ぶことも出来なければ、ましてやこのままで出て行く勇気なんてなくて…
結局、仕方なしにハーフパンツを素肌の上に履いた。
バスルームを出てリビングのドアを開けると、コーヒーの香ばしい匂いが俺の鼻を擽った。
でも何かが違って感じるのは、コーヒーの香りに混じって時折香る香水の匂いのせい…なのか?
それも翔真さんの匂いじゃない、別の…明らかに女性物と分かる匂い…
やべ…
この匂い…、なんか吐き気する…
「ちゃんと温まった?」
リビングの入口に立ち竦む俺に気付いた翔真さんが、俺をダイニングの椅子に座らせて、タオルで髪を拭いてくれる
優しい翔真さんは、相変わらず俺をガキ扱いする。
でも今はその優しさが胸に刺さって…なんだか胸が痛くて…
苦しいよ…
「ちょっと待ってて、今コーヒー用意するから」
言われて頷くけど、風呂に入ったから…かな、眠いよ…
そっか…、そう言えば俺、夜中までバイトして、急いでアパート帰って、それから大急ぎで仕度して…
気付いた時には、一睡も出来ないまま朝が来てたんだ。
少しでも寝ようと思ったけど、翔真さんとの旅行が楽しみで…、結局ベッドに横になっただけで眠れなかったんだっけ…
いっぱい話したいことあんのに…
どうして待ち合わせ場所に来なかったのか、とか…
他にも、翔さんに会ったら話そうと思ってたこと、沢山あんのに…
俺は少しでも眠気を紛らわしたくて、ダイニングからリビングへと場所を移動した。
そこで俺が目にした物…
いくら根っからのゲイの俺でもそれが何を意味する物かは分かる。
瞬間、眠気なんてモンは一気に吹き飛んだ。
目の前が真っ暗になって、その小さな写真を持つ手がありえないくらいに震えた。
だから、
「智樹…?」
翔真さんがかけた声も耳には入らなくて…
「智樹、コーヒー飲んだら送って行くから…」
カップが二つ…コトリと音を立ててテーブルに置かれた時、漸く翔真さんがそこにいることに気付いた。
しかも、俺の手元を見て、青ざめて凍り付く翔真さんの顔が…
「どう…して、それを…」
声だって震えちゃってさ…
俺はその瞬間思ったんだ…、“終わった”って…
“終わりにしなきゃいけない”って…
なのに翔真さんたら、
「これは…なんて言うか、その…」
俺の手から写真を取り上げ、一生懸命言い訳しようとするから、現実だと思いたくないのに、これが現実なんだ…って言われてるような気がして…
『なん…だ…、そうだったんだね…』
自分に言い聞かせるように呟いた諦めの言葉は、やっぱり声になることはなくて…
だから当然、
「えっ…? 何…て…?」
翔真さんの耳に届くことはなかった。
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