第14章 dolore
1
翔真さんがキスをしてくれる度、
翔真さんが“好きだ”と言ってくれる度、
いつかこんな日が来るんじゃないか、って心の隅っこでずっと思っていた。
それは、翔真さんのことを好きになればなる程、どんどん強くなって行って…
永遠…なんてモンを信じちゃいないけど、それでも未来を描きたかった。
だから…かな、旅行に誘って貰えたのが嬉しくて、もしかしたら…なんて淡い期待もしたりして…、きっと浮かれてたんだと思う。
“ これ以上好きになっちゃいけない“ って、自分自身にずっと言い聞かせて来たつもりだったのに…、いつからか翔真さんを好きな気持ちに歯止めが効かなくなってたんだろな…
どれだけ待っても、待ち合わせ場所に翔真さんが現れないことに不安を感じて、突然降り出した雨が激しくさを増す中、俺は翔真さんのマンションへと走った。
テレビのお天気お姉さんは、晴れるって言ってたのに…、天気予報なんて嘘ばっかだ。
せっかくこの日のために、って何年かぶりに買ったTシャツも濡れちゃったし、サンダルだって…
こんなことなら、駐輪代をケチらずに自転車で来れば良かった…
心の中でボヤキながら、それでも翔真さんのことが心配で…
だって、この間はすっかり潤一さんに騙されちゃったけど、今度は本当に具合が悪くなってるかもしれないし…
電話だって何度かけても出ないし、メールだって一向に既読にならないし…
とにかく翔真さんの顔を見るまでは、不安で不安で仕方なかった。
だから翔真さんのマンションがオートロックだってことも忘れてて…
たまたまエントランスの掃除に出てきた管理人のおじさんが俺に気付いて、通用口から入れてくれたから助かったけど…
俺はおじさんにお礼を伝えると、エレベーターを待つことなく階段を駆け上がった。
ずぶ濡れのまま、翔真さんの部屋の前で乱れた息を整える。
こんな格好で…しかも息まで乱してたら、翔真さんの性格だから、きっと凄く心配する。
俺…、心配されるの慣れてないから、どうして良いか…戸惑っちゃうからさ…
呼吸も落ち着いて来たところで、俺は漸く目の前のドアをノックした。
でも返事はないし、物音だってしない。
インターホンを鳴らせば済むことなんだけど、もしも寝てたら…って考えたら、目の前にあるボタンを押すのは躊躇った。
もう一度ノックして、それでも返事がなかったら、諦めて帰ろう…
後からメールなり、電話なりすれば良いし…
俺はフッと息を吐き出すと、半分諦めモードでドアをノックした。
さっきよりはちょっとだけ強い力で…
そしたら、さ…
「はい…」って、翔真さんの声が返って来て…
続けて、
「誰か…いるのか…?」ってドアの向こうから言われるけど、俺はそれに答えることが出来なくて…
思わず俯いてしまった俺の前で、勢い良くドアが開け放たれ、驚く間もなく、あっという間に部屋の中へと引き込まれてしまった。
「どう…して…?」
絞り出すような翔真さんの声に、雨粒で濡れた顔で翔真さんを見上げた。
いつもの翔真さんに比べると、ほんの少しだけ元気がないようにも見えるけど、顔色は悪くない。
『良かった…』
安堵の思いも込めて呟いた言葉…
でも、
「え…?」
翔真さんは俺の唇の動きが読み取れないみたいで…
「ごめん、もう一度…」
困惑したような顔をして首を傾げるから、ならばと思って筆談に切り替えた。
筆談の方が、一度に沢山の言葉を伝えられるし、翔真さんにだってちゃんと伝わると思った。
なのにどうしてだろう…、
『良かった…、連絡ないから、今度は本当に熱でも出してるのかと思った…』
やっとの思いで書いた文字は、どれもみんなミミズが這ったような字で…
子供の頃に習字を習っていたおかげで、字だけは綺麗だって褒められることも多かったから、自分でもちょっとショックだった。
きっと雨に濡れて、手が冷えてるからだ…、だからかな、
「とにかく入って…」
そう言って俺の手を取った翔真さんの手が、いつもよりも温かく感じられた。
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