ベッドにそっと智樹を下ろし、軽く唇を重ねた。


ドクドクと打ち付ける心臓の音が煩くて、


「明かり…消そうか…」


緊張を誤魔化すように言うと、智樹はゆるゆると首を横に振った。


「消さなくて良いの?」

『…うん』

「良かった…、俺も同じだから…」

『えっ…?』

「智樹の姿をこの目に焼き付けておきたいから…」


どうせ最初で最後になるのなら、智樹の全てをこの目と身体に、そして記憶に…、一生消えないように焼き付けておきたい。


俺は着ていたポロシャツを脱ぎ、横たわる智樹の上に覆い被さった。


膨らみを持たない、しかも同じ性を持つ相手に、欲情を感じたのは初めての経験だった。


智樹だったから…、智樹でなければ決して得られる感覚ではなかっただろう。


それくらい、俺の目の前で白い肌を赤く染め、呼吸を乱す智樹は綺麗で可愛くて…、なのに儚くて…


真上から見下ろすと、恥じらいながら視線を逸らしてしまうその仕草さえ、俺の欲情を煽っているかのように思えた。


俺は、俺の肩に両手を回し、引き寄せた耳元に吐息だけで何かを訴えようとする智樹の”声”に耳を傾けた。


でも上手く聞き取れなくて…


「ごめん…、もう一回…」


俺は智樹が唇を寄せた耳だけに、全神経を集中させた。


『き…』

「き…?」

『て…』

「…て…? 」


俺の耳に感じる熱い吐息は、確かにそう言っていて…


「“きて”って、そう言ってるの?」


確かめるように聞いた俺に、俺の肩に顔を埋めたまま智樹が頷く。


嬉しかった…

たとえ声にならなかったとしても、それでも一生懸命俺に伝えようとしてくれる智樹が、愛おしくて堪らなかった。


智樹の想いに応えたいと、純粋に思った。


いや違うな…


自分を裏切った上に、一番最低なやり方で捨てようとしているにも関わらず、尚も俺を求めてくれる智樹の想いに、俺は応える必要があると思ったんだ。


ただ、一口に”抱く”と言っても、実際には男性と女性とでは身体的な構造も、何もかもが違うわけで…


歯を食いしばり、俺の背中に爪を立てて痛みを訴える智樹に、俺はキスをすることでしか痛みを和らげてやることが出来なかった。


それくらいしか、智樹の身体を傷付けずに済む方法が、俺には見つけられなかった。


そして漸く全てが智樹に包まれた瞬間、俺は自分が泣いていることに気付いた。


智樹と一つになれた喜びは勿論あったが、それ以上に幸せだった。


そう長くはないこれまでの人生の中で、幾度となく得て来た至福の瞬間があったが、そのどの瞬間よりも、智樹を愛することで得られた幸せは濃密で、色濃くて…


でもその幸せは、同時に俺達の終わりを意味していることに気付いた瞬間、胸が締め付けられるように苦しくなった。


そして、


「ごめん…、智樹…、愛してる…」


俺は涙を隠すことなく、おそらく最初で最後になるであろう告白をした。

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