4話『自殺衝動と最初の女神』
腹を殴られる感触と共に迫り上がる吐瀉物に、我慢できず吐き出す
翌朝、宿屋の食堂で朝食を摂りながら眼鏡にて《
「解除不可の呪い……か」そう、全てはコイツのせいである。ステイタス画面に
【解除不可】深淵の呪い(ステイタスオールマイナス・スキル&ジョブ不可)
と表示される忌々しい呪い。おそらく鬱病がこちらではこのような形となって現れているのだろう。代わりに鬱病の表示がないからそう判断する他ない。だがそれ以上に気になるのがその下の項目だった。
【常時発動】荳牙・ウ逾槭?蟇オ諢(繧「繧ヲ繝ゥ繝九う繧ケ繝サ繧ェ繝?さ繧ウ繧ッ繝サ繝医ぇ繝シ繧オ縺ョ荳牙・ウ逾槭↓蟇オ諢帙&繧後※縺?k縲ゆク牙・ウ逾槭r鬘慕樟縺輔○菴ソ蠖ケ縺吶k縺薙→縺悟?譚・繧九?)
【非有効化】豺ア豺オ縺ョ謇(荳牙・ウ逾槭?蜉帙↓繧医j豺ア豺オ縺ョ謇峨?髢九°繧後k縲よキア豺オ縺九i縺ッ繧「繧カ窶輔ユ繧」縺碁?吶>蜃コ縺ヲ荳也阜縺ッ邨らч縺励Κ繧ー?昴た繝医?繧ケ縺ョ蜷阪↓縺翫>縺ヲ荳也阜繧堤ケ九£貂。繧願?繧)
完全に文字化けしていて読めない。【常時発動】や【非有効化】の箇所だけは読めるのだがそれだけ読めても意味がない。それどころか【常時発動】に関しては恐怖でしかない。何が発動中なのか全く身に覚えがない。使途不明のこの大金が関係しているのだろうか?所持金の欄をチラリと見てみる。0の数が10を超えるところで数えるのをやめる。遊んで暮らせるなんてレベルじゃない大金だ。どう考えたって異常だ。怖いので考えるのをやめる。朝食を咀嚼し流し込みながら、次は《
この冒険者という肩書も経済不安を如実に表している。冒険者とは聞こえはいいが、実情はただの日雇い労働者。正規雇用より費用も責任も掛からず安価に買える労働力。冒険者組合で登録を済ませた際に受付からはっきりと説明を受けた。冒険者とは国の消耗品なのだ、と。腕の立つ労働者は戦争時に国から臨時兵士として依頼が出されるくらい、国力は疲弊しているようだった。
鬱病になってから食事に楽しみなどを感じなくなった
冒険者組合に着き、依頼掲示板をみる。登録時に受けた説明によると、依頼者が紙に直接依頼内容と冒険者の条件と報酬を書き、それを受付が受理し基本は報酬と手数料を預かり依頼掲示板に貼り出す仕組みらしい。中には指名依頼や現物支給型の依頼もあるそうだが。ひとまず他の冒険者たちも群がっている依頼掲示板を見てみることにした。が、どれもこれも『冒険者の条件』でふるい落とされてしまう。戦闘・護衛・暗殺・討伐は論外として、労働に関しても各々指定のスキル所持や特定ステイタスの指定数値以上が必須条件だった。肩を落としながら依頼掲示板を眺めていた時だった。ドンッと衝撃が走り気がつけば床にべたり這いつくばっていた。
「邪魔なんだよクソが! お子ちゃまがくるような場所じゃねぇんだぞ!」そう声を荒げ罵られる。声の主を見てみると毛を逆立てたウェアウルフの男性だった。
「あぁ?ハーフオーガの餓鬼かと思ったらヒューマンじゃねぇか。いい歳してなんで子供用眼鏡なんてかけてんだコイツ?」そう侮蔑まじりに訝しむウェアウルフ。すると仲間であろうリザードマンの男が「さっきから依頼書を見てはガックリやっていた所を察するに、必要なスキルもまともに持ってない出来損ないなんじゃねぇか?」と尖った指をこちらに向けわざと大声で煽り立てる。周囲もだんだんザワザワと嘲笑まじりに騒ぎ出す。どこからともなく「帰れ!」と声が上がると、それをきっかけに「かっえ〜れ! かっえ〜れ!」と帰れコールになり周りに伝播していく。未だ立ち上がれず床に倒れたままの貝沼に浴びせられ続ける帰れコール。息苦しさと吐き気を催し這いながらその場から逃げようとする。それを見てゲラゲラ笑うウェアウルフとリザードマンの男たちと周囲の冒険者。蹴られ唾を吐かれながらも、なんとか依頼掲示板前から受付待合の椅子が置かれたところまでたどり着く。その様子を指差し笑う冒険者たち。来なければよかったと後悔する。情けない。こんな出来損ないの自分がくるような場所じゃなかったのだ。便利な眼鏡と大金で自分の不出来さを見失っていたのかもしれない。惨めで情けなく涙が溢れる。死にたい。久しぶりに感じる強い自殺衝動。早く死のう。どこで死ぬか。迷惑がかからないように領外に出て獣にでも食われて死ぬか。早く死ななければ。そう追い立てられるように自殺衝動が強まりマトモな思考ができないところまできていた時の事だった。
椅子に座り顔を伏せ頭を抱えながら泣いている私の前を何か影が横切った。初めは受付待ちの冒険者か依頼者かだと思った。だが、影は私の前を行ったり来たりし、更に奇妙なのが気配が上の方から感じられることだ。足元が見えない。どういうことだろうと、ぐしゃぐしゃの顔を上げ影のある方を見た。するとそこには、黒い靄に覆われた長いローブの女性が浮遊していた。顔は見えないが何故か微笑んでいるように見えた。あまりのことにギョッとし体が固まる。すると彼女はふわりふわりと軽やかに依頼掲示板の方へ飛んでいった。途中幾人もの冒険者や依頼者らしき人の目の前を通っていたが誰も彼もが見えていないかのように無視してそのまま通り過ぎる。不可思議な光景だった。そして、ウェアウルフとリザードマンの側まで近寄ると彼らの体をすり抜けていった。貫通した。なんの抵抗もなく。通過された彼らの体も穴など開いていない。文字通りすり抜けていった。そのまま幾人かの冒険者たちにも同じようにすり抜けたり触れたりしていた。何をしているのだろうと眺めていると突如変化が起きる。初めはウェアウルフからだった。彼は先ほどの貝沼の様子を肴に「あの腰抜けマジで傑作だったよなぁ」と言いながら何故か剣を抜く。そして「ほんと傑作、傑作クククククくけけけけけけさっっさささささささああああ」と言葉がおかしくなったかと思えば抜いた剣を自分の喉元に突き刺す。溢れ出す血飛沫を無視し「傑作ぐぅッ傑作ぐぅッ傑ざぐぅッげっざぐぅッ」と何度も剣を突き刺しそして絶命した。異様な様子に周りは戸惑うがそれだけでは終わらなかった。リザードマンも同じく「どうしたタタタタタタタタただたたんだだだだだ」とおかしな言葉を発しながら持っていた槍を自分の腹部に突き刺し続ける。リザードマンは「なんでデデデで痛いいたいいだいいいだいいだいいだいいだい」と喚きながらそれでも突き刺し続ける手を止めない。やがて赤黒い血を吐き膝をついて絶命した。周囲にいる先ほど彼女に触れられた者たちも同じくイカれたように自死していった。中には仲間に身動きを封じられた者もいたが絶叫したのち事切れたようだった。組合内がパニックとなり人々が逃げ惑い混乱極めていく中、私だけが椅子に座り落ち着いていた。あれだけあった自殺衝動が綺麗さっぱり消えている。そんな私に彼女が近寄る。不思議と恐怖はない。よく見ると彼女の腕は、あの暗い海中でみた腕と同じものだったのだ。彼女は私の側までふわり飛んできて、耳元でこう囁いた。
「アウラニイス。アウラニイス。アウラニイス」
即座に彼女の名前だと確信した。なので「アウラニイスって名前なのかい?」そう答えると、彼女は嬉しそうに空中を舞った。仄暗い靄に覆われた彼女は気ままに踊りながら消えていった。呆気にとられながら、眼鏡でステイタスを確認するすると、
【常時発動】三女神の寵愛(アウラニイス繝サ繧ェ繝?さ繧ウ繧ッ繝サ繝医ぇ繝シ繧オ縺ョ荳牙・ウ逾槭↓蟇オ諢帙&繧後※縺?k縲ゆク牙・ウ逾槭r顕現縺輔○菴ソ蠖ケ縺吶k縺薙→縺悟?譚・繧九?)
と読める箇所が増えていた。三女神の寵愛。アウラニイス。顕現。これは、なんなのだろう。未だ喧騒が止まぬ組合内で、
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